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【ショートショート】秘密を愛しすぎた女

「貴方のせいでまた店を変えないといけなくなったじゃないの。サロンでも開けてくれなきゃ割に合わないわ」

少し焦げ臭い花束を、女はグランドピアノの上に投げた。
小さな顔を引き立てるグラフのピアスと胸元の開いたシルク生地のドレス、高いハイヒールは脆い心をかろうじて守っていた。


この男の正義漢ぶった瞳に逆らえないのは惚れた女の弱みなのか、はたまた、ただその瞳にいい人間として映りたかったからなのか。男のために男と寝るなんてどうかしている。得るものよりも失うものは大きかった。


「ごめんなさい、今日はもう帰るわね」

まだ賑わう店に男を残し、六丁目の馴染みのBARへ歩いた。そこは蝋燭の光しかなく、孤独を味わうには丁度いい。

「今日は早いですね」

白いバーコートがいつも通り優しく迎えてくれた。

指定の席につき、自分を慰めるようにラフロイグのロックを舐め、マッチを擦って煙を味わいながら女は呟く。


「あんたも馬鹿な子ね」


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