それは、巡礼旅の最後を飾るにふさわしい光景だった【Joshimath⇄Badrinath】
2024/06/26
同室の人たちが身動きする気配で目が覚めた。
外からはバスのエンジン音が聞こえる。
昨晩、謎のトラブルでどこかへ行ってしまったバスだが、ちゃんと朝になって帰ってきたようだった。
時計を確認すると、時刻は午前4時だった。
私も身支度を整えて外に出る。
外はまだ真っ暗だった。
全員が揃うのをバスで待っていると、少しずつ風景が輪郭を帯びていく。
夜と朝が連続していることがわかる。
午前5時前にバドリナート(Badrinath)へ向けてバスは出発した。
本当は今日もジョシマート(Joshimath)に宿泊する予定だったが、一気にバドリナートまで行ってしまうことにした。
ここも今までの聖地と同様に、川を遡行するように登っていく。
チャール・ダーム・ヤトラ(Char Dham Yatra)最後の目的地、バドリナートに到着。
バドリナートは他の聖地と趣が異なる。
道路はしっかりと舗装され、街灯も整備されている。
他の寺院が山の上で孤立していたのに対して、こちらは町の中に寺院があるような印象だ。
参道を歩いてバドリナート寺院へ。
バドリナートの奥も車が通れる舗装路が伸びていて、突き当りに寺院とは無関係の集落が存在する。
中国との国境までわずかという立地のマナ(Mana)村は、チベット系の住人が多く暮らしているらしい。
マナ村を拠点にしたトレイルがあって、美しい滝が見れるというので足を伸ばしてみた。
チベット系の集落というのでラダックのような場所を想像していたが、村内には普通にヒンドゥー寺院があるし、インド人観光客が大挙して押し寄せているので、そこまで異国情緒はない。
ただ、土産物屋の店員は東アジア系の顔立ちの人が多かった。
トレイルを歩きながら考えた。
どうもこの数日、歯車が噛み合っていないような気がする。
旅の前半でもちょっとしたトラブルはいくつかあったが、その時は特に気にならなかった。
今は、些細な出来事でもストレスに感じてしまうほど、心身ともに疲弊しているのだろう。
バドリナート寺院の近くには、ヘムクンド・サヒーブ(Hemkund sahib)というシク教の聖地や花の谷国立公園(Valley of flowers)という世界遺産が存在する。
当初はそちらも訪れる予定だったが、今の状態で行ってもしんどい思いをするだけで楽しめそうにない。
一応、巡礼路のチャール・ダーム・ヤトラは完遂したことだし、もうチェンナイに帰ろうかな、と私は思った。
2時間ほど歩いて滝に到着。
あまりにも壮大な滝だ。
それは、巡礼旅の最後を飾るにふさわしい光景だった。
数十メートルの高さから落ちてきた清水は途中で岩肌にあたって、金属音のような澄んだ高音を辺りに響かせていた。
細かい水滴が滝壺に吸い込まれていく。
小さな岩の上に腰を下ろすと、どっと疲れが押し寄せてきた。
マナ村からの2時間のトレッキングのみならず、今回の巡礼旅のすべての疲労がここで現れたようだった。
振り返れば、約1週間で合わせて100㎞以上も山道を歩いている。
疲労が溜まって当然なのだ。
30分ほど微動だにせず滝を見つめ、重すぎる腰を上げる。
この巡礼旅、最後の山道を下り始める。
バドリナートの駐車場に戻って来たのは午後3時だった。
ジョシマート行きのバスを探していると、同じ目的地の人が何人か集まり、みんなでジープをシェアすることになった。
ジョシマートへ向かう途中、ヘムクンド・サヒーブ観光の拠点となるゴビンドガート (Gobind Ghat)という町を通過する。
町を通り抜ける最中は後ろ髪をひかれる思いがあったが、町の影が見えなくなると、気持ちは南インドの自宅へとすっかり切り替わった。
1時間半でジョシマートに到着。
交通の要所としてバスやトラックが頻繁に行き交い、斜面に建物がひしめき建っているが、幾重にも重なる山脈を望む美しい町だ。
明日はひとまずハリドワールへ移動しようと思い、バスターミナルを探して町の人たちに聞いてみたが、みんな言うことが違っていてよく分からなかった。
とりあえず午前6時にアラームをセットした。
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