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【インド雪山紀行15】最大の難所

2023/12/31

朝の光
電力供給の乏しいザンスカールでは、電気は夜間しか使えない

チャダートレック3日目、そして最終日。
明日のシェアタクシーでレーに帰るため、パドゥムには今日中に着かなければならない。
しかし、このままだと間に合わないので、途中でタクシーを呼ぶことになった。

例のごとく、崖を降りて川まで行く。
昨日道中を共にした犬は、今日はついて来なかった。
自分の村に帰ったか、あるいは新しい村で生きることを決めたのかもしれない。

凍結した川面の下を氷水が流れていく
澄んだ川

1時間ほど歩いたところで、Tundupが立ち止まった。
「川が完全に凍っていないので、ここから先は歩いていくことができない。坂を登って道路まで行こう」

岩がせり出しているあたりが凍っていない

私は坂を見上げた。
坂というよりも崖だ。
それに、岩肌に砂や小石が積もっていて、足場がしっかりしているとは思えない。

軽快に上っていくTundupの後を慎重についていく。

何とか登り切って一息ついたと思ったら、その先が最大の難所だった。
道路まで続く道はがれきで覆われていて、手や足を引っ掛けられる場所がないのだ。
斜度はちょうど45度くらいだろうか。

頭上の道路はすぐそこにある。
あと10mほど登れば良いだけなのだが、それができない。

あたりを見まわしたTundupが道路へと続く獣道のようなものを見つけ、がれきの斜面を横切ってそこまで行くことになった。

最大の難所

どんな崖でも軽快に上り下りしていたTundupですら、ゆっくり慎重に足を運ぶ。
がれきがパラパラとなだれ落ちていく。
Tundupは時々バランスを崩しながらも、数m先にある「道らしきもの」のところまで何とかたどり着いた。

さあ、次は私の番だ。
実際のところ崖自体はそこまで高いわけではないので、落下しても死ぬことはないだろう。
バランスを崩してもお尻でうまいこと滑り降りれれば、軽い打撲や擦り傷くらいで済みそうではある。
それでも、私は泣きそうだった。
いっそのこと、凍てつく川を泳いで渡った方が安全なのではないかとすら思えてくる。

一歩足を踏み出すと、足元のがれきが崩れ落ちて、足場がどこかへ消えてしまった。
慎重に、足を置く位置を探る。音を立ててがれきが崩れる。
どうしてもうまくいかない。
Tundupと同じような姿勢で足を置いているはずなのに、全く先に進めない。
それでも何とか、少しずつ前へ進んでいく。

ちょうど中間地点あたりだろうか。
一瞬、気が緩んだのかもしれなかった。
私の両足を支えていたはずのがれきが、ゆっくりと滑り落ちて行った。
私は慌てて斜面の石を掴んだが、それも崖に固定されているものではないので、そのまま体ごと滑り降りていく。

Tundupが体を伸ばして私の方に手を差し出す。
私も手を伸ばして掴まると、何とか体が落ちていくのを止めることができた。
そしてそのままTundupに引きずられるようにして、足場の固まっているところまでたどり着いた。

そこから先もなかなかの悪路だったが、掴まることができる大きな岩があったので、体全体でよじ登るようにして無事に道路まで到達することができた。
ズボンもジャケットも砂まみれになってしまった。

”ゆっくりいきましょう”

まさか大みそかの日に、1年で最も恐怖を感じる出来事が起こるとは思わなかった。
私がよほど青ざめた顔をしていたのか、Tundupはしきりに「Sorry」と言っていたが、個人的にはとても良い思い出になった。

Tundup曰く、オオカミの足跡

その後は道路を1時間ほど歩き、適当なところでタクシーを呼ぶ。

1時間ほどのドライブでパドゥムに到着。

年越しということで、夕飯はTundupが腕を振るってくれることになった。
食材を買うためにパドゥムのメインストリートに行くも、ほとんどのお店がシャッターを下ろし閑散としていた。
「そうか、今日は日曜日か」とTundupは言った。

いかつい選挙ポスター
クリケット帰り

Tundupの経営するゲストハウスに立ち寄る。

中は全面改装中だった。

レストラン

2階建てだったのが3階建てになっていて、かなり大掛かりな改装工事だ。
もともと清潔感のあるゲストハウスだったが、さらに綺麗な建物になっていた。
ザンスカール滞在の際はぜひ。

買い物を終えて帰ってくると、Tundupがガスコンロの前に立つ。
スパイスの良い匂いが部屋中に広がる。

まずはジャガイモとシシトウをスパイスで炒めたもの。

20時の軽食

次にピリ辛のチキン。
アラックと共にいただく。

22時の軽食

年越しの直前にメインディッシュ。
先ほどと同様の味付けのチキンカレーだ。

23時半の夕食

正直なところ、アラックをたくさん飲んであまりお腹は空いていなかったが、とても美味しかったのでおかわりした。

そんな感じで、2023年はTundupと夕飯を食べながら静かに過ぎていった。
外では誰かがキャンプファイヤーをやっているようで、スピーカーから流れるラダック音楽が夜空に響いていた。

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