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史上初、講談と実況のコラボ公開!神田伯山との一発勝負を振り返る

他業種のプロフェッショナルと実況とをかけあわせるセッションイベント、12回目は、講談師の神田伯山さんと一緒にやってみた。事前にほとんど宣伝しなかったのは、伯山さん効果でチケットがあっという間に売れてしまったから。公演の様子は互いのYouTubeチャンネルで公開が始まったので、ここでは映像で伝わらない部分を振り返ってみたい。

伯山さんと一緒にイベントをやるのは実に5年ぶりのことである。当時のことは別に公開している対談記事を読んでもらうのが早いが、付き合いが長いとはいえ、自分の興行に呼ぶとなれば覚悟がいるものだ。

完成したイベントフライヤー

しかも、純粋な講談ではなく、一緒にステージに上がるコラボである。伝統芸能に自分の実況芸を足して、お客さんをがっかりさせてしまわないだろうか。5年前と違って真打になった「伯山」という名前に傷をつけたらどうしよう。そんな不安も抱えながら開演時間を迎えたわけだが、オープニングトークで客席の笑い声を聞いたら、そんなことは忘れてしまった。やはり、お客さんの存在は大きい。


さて、トークでアイドリングしたあとはコラボの始まりである。題材は「出世の春駒」。江戸時代に曲垣平九郎という馬術の名人が、急斜面の石段を馬で駆け上がって梅の枝を取ってくるという話を伯山さんと僕とで交互に進めていく。互いの手元にあるベルを鳴らしたら交代の合図で、どこで交代するかは打ち合わせなし。先の見えない一発勝負だ。


コラボが成立したのは伯山さんとの信頼関係が最も大きいと思うが、お客さんに拍手をもらえたのは「出世の春駒」というチョイスが良かったような気がする。権力者の気まぐれに振り回される人の様子は今の時代にも共感できるし、石段昇りに3人が失敗して、4人目で成功する展開もいい。しかも、馬が急斜面を駆け上がる場面は実況向きである。 

また、相手に交代を告げるときのベルも効果的だった。当初は口頭で伝える予定だったが、ベルの方がテンポがいいし、視覚的にお客さんにわかりやすい。実はそこに気づいたのはお客さんを入れる30分前で、会場の近くに何でも売ってるドン・キホーテがあって、本当に助かった(ヘッダーの写真が使用したベルである)。

コラボの前に伯山さんが普通に講談をやったのも正解だった。講談をまったく聞いたことのない人にとっては、ノーマルバージョンを聞けば、ストーリーを把握しやすくなる。二回同じ話をしなければならない伯山さんには、やや損な役回りをさせてしまったかもしれないが、これでお客さんの反応が良くなったのは間違いない。

実はこれらはすべて、伯山さんからの提案だ。つまり、どうやったらお客さんが喜ぶのか、どうやったら講談の魅力が伝わるのかを日頃から考えている証拠であり、見事としか言いようがない。

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150人が目撃したイベントの演目


本番では言い逃したのだが、愛宕山の石段を馬に乗って駆け上がることに成功した人物は曲垣平九郎の後、明治、大正、昭和に一人ずつ存在する。しかも、大正時代の挑戦はラジオで実況中継されたという話もあるらしい。

調べてみると、たしかに1925年(大正14年)の11月8日の日曜日、岩木利夫という将校が石段を馬で駆け上がった新聞記事を見つけることができる。しかし、その時間のラジオ番組表に記されていたのは三味線の番組だった。当時のラジオはまだ生放送のみ。愛宕山にあるNHK放送博物館に当時の放送資料が残っていないか尋ねてみたが、所蔵はなしとの回答であった。つまり、本当に石段の実況中継がされたのかはよくわからないのだ。

「どうも講談ってぇのは、いろんなところに嘘が散りばめられている」

これは伯山さんが釈台の前でよく口にする言葉である。この「散りばめられている」というのが重要で、決して全部が嘘ではない。そして、嘘が混ざった事実は人を魅了する。あれ、やっぱりプロレスに似ているような。そういえば、5年前の僕たちのイベントには「プロレス×講談の夕べ」というサブタイトルが付けられていた。

話芸の迫力は生で体験するのがベストであることは言うまでもないが、映像は思いがけない所に届く可能性もある。すでに伯山さんはYouTubeを駆使して講談の魅力を広めているものの、今回公開された特殊な「出世の春駒」によって、ほんの少しでもそのお手伝いができれば、この上ない喜びなのである。

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