コロコロ社長
私が働いていた仏壇屋の社長は、映画『ブラックレイン』に出てくる若山富三郎にそっくりだった。腹が出ており貫禄たっぷり。しょっちゅう怒鳴る70歳を越えたおじいちゃんだ。かなりイカつい。
こんな社長が2階でずっとテレビを見ているのである。仏壇の接客をしているときは気になるらしく、2階からのぞく。正直やりにくくて仕方ない。
さらにこの社長はなにもできない。仕事はおろか、カップラーメンすら作れない。
なにもできないのに、威厳はしっかり保とうとする。
仲の良い住職が来たら、威厳を見せつけるため、いきなり従業員に怒鳴ったりする。「ワシ、まだまだ現役でっせ」みたいなものを見せつけたいのだろう。
しかし、この威厳を見せつける行為が、仕事の邪魔になることがしばしばあった。
仏壇納品でコロコロ
6人で運ばないといけないくらいの大きな仏壇を納品したときのこと。
大きな仏壇を納品するときは社長がついてくる。「ワシの仏壇でっせ」みたいなのをアピールしたいのだろう。
ついてくるのだが、一切手伝いはしない。見ているだけである。しかもこの社長、ポジショニングが非常に悪い。進行方向に突っ立ってたりする。邪魔で仕方ない。
大きな仏壇をトラックからおろし、運び出したときだった。
前を歩いていた社長がすっころんだ。大変腹が出ており、しかも年寄りなので、すぐには立ち上がれない。
うんうん言いながら立とうとコロコロし、努力するがどうも無理らしい。その間も私たちは重たい仏壇を持ったままである。そのとき、社長がこう叫んだ。
「お、お、オレを越えてゆけーーーー!!」
セリフだけ見ると非常に勇ましいが、「踏むなよ」と言っているだけである。
皆、重たい仏壇を持ちつつ、社長をまたいで、無事納品することができた。社長、頼むから来ないでくれ。
車でコロコロ
社長とふたりでお寺に行ったときのこと。
急きょ、住職を店に連れていかないといけない状況になった。しかし、私が乗っている軽自動車はふたりしか乗れない。うしろは車のサイズに合わせた大きな一枚板が置いてあり、その上に仏壇を載せられるようになっているのだ。
私が運転し、住職は助手席、社長はうしろに乗せることになった。うしろは椅子がないので、かなり不安定だ。
住職がいるので、いつものように威厳を保とうと、私に「トロトロ走るな」と命令してくる社長。私は腹が立ったので、ご命令通り、ぶっ飛ばした。
するとうしろの社長、椅子も持つところも踏ん張る力もないので、起き上がり人形みたいにコロコロと転がり始めた。
カーブのたびにコロコロ、走り出しでコロコロ、一時停止でコロコロ……
コロコロしつつも、「お、おい、今の信号いけたやろ」と命令してくる。社長、コロコロしながらではなにを言っても威厳を保つことはできません。
朝礼でコロコロ
朝礼では社長に前日の活動を報告する。
いつものようにタバコを吸いソファに座りながら、挨拶をする社長。プルプルしている手で、灰皿を持った、そのときだった。
「あっ! 熱っ!」灰皿を自分の股間あたりにぶちまけてしまった。
「ちょ、ちょっと、高橋さん! 灰! 灰!」
灰を片付けてもらうため、パートのおばちゃんを呼ぶ社長。
高橋さんはあのコロコロを持ち出し、社長の股間を丹念にコロコロし始めた。
皆、笑いをこらえるのに必死だった。介護されているおじいちゃんにしか見えなかったからだ。
「ハイ、じゃあ昨日の報告ね」
威厳もへったくれもない。威厳を見せつけようとする行為がすべて裏目に出てしまっていた情けない社長だった。
働きたくないんです。