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きよさんの楽しいお友達作り 下巻

きよさんは毎日のルーティーンのごとく職場で怒鳴られ、凹んでいますとラインメッセージが入ってきました。

カフェ会で知り合った佐伯さん(仮名)からでした。この人は黒縁メガネが大変良く似合う優しい男性でした。

「今度皆で飲み会するんで、来ませんか?」

前回は失敗していますが、今回は何人か集まるようで、「これならひとりぐらい友達はできるだろう。その後は出会った女の子と夜の街に繰り出したりして。ぬふふふふ」

きよさんは調子に乗り、すぐに「行きます」と返事をしました。

こうして再びきよさんのお友達作りが始まったのでした。

きよさん金曜の心斎橋へ。怪しげなバーへ連れていかれます

金曜日の仕事帰り、チラチラと雪の舞う中、きよさんは会場の心斎橋に向かいました。

金曜の心斎橋と言えば、やんややんやのお祭りさわぎ。赤ら顔のサラリーマンとキャッチの兄ちゃんで道は埋めつくされ、歩くこともままならない場所です。生粋の田舎者のきよさんにとってはソマリア並みの危険な場所と言えましょう。

キャッチの兄ちゃんにビビりつつ、なんとか会場近くに到着しました。

そこでは佐伯さんが寒い中、外で待っていてくれました。

佐伯さんのあとについていき、汚い雑居ビルの中の一番奥にあるバーにたどり着きました。かなり怪しいところです。

薄暗い店内に入りますと、奥の席に身体の大きなゴリラみたいな男性と、女性がちょこんと座って待っていました。

こうして4人のプチ飲み会が始まったのです。

きよさんお酒をガブガブ飲み、しばし楽しく過ごします

ゴリラにそっくりの物静かな男性(以下、ゴリラ)、女性と、佐伯さんとで雑談が始まりました。

きよさんは当時、大阪の超高層ビルで働いており、勝手に優越感を感じていました。女性もいるため、ネクタイを軽く緩めて格好をつけています。こういう男が一番イタイことにきよさんはまったく気がついていません。

そして、あろうことか女性をマジマジと見つめ、こんなことを思いました。

「顔はまあ普通くらい、胸はBカップくらいか、うーん、総合55点!」

きよさんは元引きこもりのクセに女性を見る目だけは厳しいのでした。理想のタイプは「多部未華子。願わくばEカップ以上で」とのことです。身の程をわきまえねばなりませんね。あとでドツキ回しときます。

きよさんはお酒の力もあり、すごく楽しい時間を過ごしたのでした。

きよさんの楽しい時間は終わり、アムウェイの話に引きずりこまれます

ベロベロになったきよさんはなにやらカウンターで佐伯さんと話をしているようです。

「アムウェイの商品は普通に良いものなんですよ!」

きよさんはどうやらまたビジネスの話をされているようです。

「うん。やってみて、アカンかったらすぐにやめたらいい」なぜかバーのマスターも乗ってきます。

アムウェイは売れば儲かりますが、売れないとかなり損をします。どことなく宗教クサく、あまり良い評判は聞きません。

しかし、きよさんはベロベロなので「ふんふん」とマジメに話を聞いてしまっています。

いつの間にか、しれっとゴリラも話に加わっています。「一回やってみれば?」

物静かだったゴリラが急に不自然な積極性を発揮し、話に入ってきたことに、きよさんは異常を感じました。

立ちはだかるゴリラの恐怖で酔いが少し覚めたきよさんは、霧が晴れるように次第にこの状況がわかってきました。

彼らはきよさんをアムウェイに引きずりこもうとしているのでした。

「今度『全デモ』あるから来たら?」「洗剤だって長いこと使える」「いいことばかりだよ」

きよさんは身の危険を感じ、「田舎に住んでるから、終電を逃す」という理由で帰ることにしました。

「朝までやってるから泊っていったら?」とマスターは言いましたが、本気を出し始めたゴリラがすこぶる怖く、急いでお金を払いました。

そのとき、女性が近づいてきて、「きよさん、ライン交換しましょ」と言ってきました。喜んでラインを交換し、逃げ出しました。

きよさん、お友達作り再び失敗。ライン交換した女性をカフェに誘うも……

アムウェイ地獄から無事脱出したきよさん。さっそく女性にラインを送ります。

「今日は楽しかったです。カフェが好きなんですよね? 今度よかったら一緒に行きませんか?」

この後、どうなったかはエピソード0『カフェに誘ったら、セミナーに連れていかれそうになった話』に書いてありますので、よかったら読んでください。

唯一、アムウェイの話に入ってこなかった女性すら、敵でした。というか、あそこにいるマスターを含めた全員がきよさんをカモとし、近づいてきていたのです。四面楚歌とはあのことを言うのでしょう。

佐伯さんは「今日、田舎モンの活きのいいカモが来るから、来ない?」とゴリラと女性を誘っていたに違いありません。ホント人は見かけによりませんね。

帰りの道中、きよさんはベロベロなのでサラリーマンをうまくかわすことができません。ぶつかり、謝りつつ、悔し涙を流したのでした。

「アラサーにもなって泣くなんて、涙のバカッ」

こうしてきよさんの楽しいお友達作りは幕を閉じました。

エピローグ

実はこの出来事の前も同じような目に二回ほどあっています。

「やっぱり向こうから寄ってくるヤツは信用しちゃダメだな」

有名人、イケメン、金持ちならともかく、きよさんみたいな何の特徴もない男に寄ってくる人間など下心があるに決まっています。

さらにきよさんはこんなことも言っています。

「ボクは運がよかった」

あれだけ痛い目に合ったというのに、一体どういうことでしょう?

「ホント、寄ってきたのが可愛い女の子じゃなくてよかった……」

そうなのです。寄ってきたのが野郎ばかりだったので、ダマされることなく、逃げられたのです。

寄ってきたのが仮に「多部未華子似のEカップの女性」なら、変なビジネスに全財産投資し、家の日用品がすべてアムウェイ製になり、クソ高いセミナー代を払い皆と一緒に「私はできる! 私はできる!」と拳を振り上げ、叫んでいたことでしょう。

「ボクはまだ天に見放されていない」きよさんは言いました。「阿弥陀さん、お釈迦さん、ジーザス……あざーす」

無神論者のきよさんはとりあえず、すべての神に感謝し、今日もボケ~っと生きているのでした。


向こうから愛想良く寄ってくる人間にはくれぐれも注意しましょう。

~完~

#ノンフィクション #小説 #アムウェイ #ゴリラ #多部未華子

働きたくないんです。