太りすぎて奈落に落ちた店長
店長は肥えていた。
ありきたりな表現だけど、タヌキみたいな腹をしていた。体重も当然重い。
この店長は少々変わっている。
5時間かけて接客したお客さんの顔を次の日には忘れていたり、大和洞川に代々伝わる薬「陀羅尼助丸」をボリボリおやつ感覚で食べたり、お客さんのところに仏壇の掃除に行ったはずのに、なぜか血まみれで帰ってきたり……
ネタには事欠かない店長と工場の職人とで、お寺のお荘厳の移動に行ったときのお話。
寺と庫裡(『くり』住職が住むところ)の渡り廊下で、バケツリレー方式にて、仏具を運んでいた。私のうしろは店長だった。
前から来た仏具を店長にテンポよく渡していく。順調に仕事は進んでいき、もう少しですべて運び終わるところで事件は起きた。
「ドーンっ」
すごい音がした。うしろを見てみると、そこにいるはずの店長がいなかった。
私は香炉を持ちながらおそるおそる目線を下に向けた。するとそこには廊下の床が抜けて、地面でコロコロもがいている店長がいた。
「だ、大丈夫ですか?」
「痛てててて。だ、大丈夫……」
店長の腹の重みに耐えられず、床が抜けてしまったのだ。寺はその辺の建築物とは比べ物にならない築100年とかザラだった。当然床も抜けやすい。
高さは1mくらいだったから、大きな怪我はしていないようだった。ただ渡り廊下の床に大きな穴があいてしまった。
「す、す、すみません……」足を押さえながら必死に謝る店長。
すぐさま病院へ行った。軽いねんざだった。
店長は大丈夫だったけど、寺の床が大丈夫ではない。しかし、住職は弁償はおろか、「自分の寺で怪我をさせてしまった」とすごくうろたえており、こちらに賠償がくることはなかった。
ホッとした会社の社長は調子に乗り、労災も使わせなかった。店長は自腹で治療費を払ったのだった。
この店長は前世で寺でも燃やしたのかと思うくらい、現世では運がなかった。
「店長が動くと血を見ることになる」
そんな評判のタヌキの店長だった。
働きたくないんです。