見知らぬ女性との世界一不毛なやりとり

日雇い派遣で洗剤の工場に行ったときのこと。

その工場で働く女性とパートナーを組み、作業にあたることになった。30代後半くらいの少しふくよかな、おっとりした綺麗な女性だった。

その女性は物静かでほとんど話すことはなく、人付き合いの悪い私にとってはベストパートナーと言えた。

静かな部屋で、私たちはふたりっきりで黙々と作業に励んでいた。

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「あの、きよさん、ちょっと聞いていいですか?」

「はい。どうぞ」

彼女はモジモジしながら、こう言った。

「男の人って照り焼きバーガーは何個くらい食べられるものなんです?」

「はい!?」

なにその質問。そんなの私が知るはずもない。そもそも照り焼きバーガーばっかりそんなぎょうさん食えるか。2個目に行くとしてもフィレオフィッシュとか食うっちゅーねん。

つーか、そんなのどうでもいい。私は適当に答えた。

「はあ。3つくらいじゃないッスかね。知らないですけど」

「そうなんですか! 3つも! さすが男の人ですね!」

褒められてこんなに嬉しくなかったことが、かつてあっただろうか。

彼女はこのやりとりで、なぜかスイッチが入ってしまいテンションが急上昇。と同時に反比例するかのように急降下する私のテンション。

彼女は腰をプリプリさせながら、さらにたたみかける。

「私なんてっ、私なんてっ、1つしか食べられないですっ!」

「…………そうッスか」

「でもでも、すごくお腹が空いてたら、2つはいけるかもっ!」

「…………でしょうね」

「きよさんも3つはいけるんですか!?」

「まあ、頑張ればいけると思いますけど……」

「さすがですっ!」

いや、なんやねん、この会話。その瞬間なされているであろう世界中の会話で一番くだらんと思う。

女性はオチとか笑いとかがなくても、ただただ話すだけでいいと聞くが、それを踏まえても私はこの会話をこれ以上続けたくない。意味がわからなさ過ぎる。

今思えば、彼女は沈黙が気まずくて仕方なかったのだろう。空気を和ませようと良かれと思って出た質問が、「照り焼き~」だったのだと思う。

気持ちは嬉しいけど、もっと続けたくなる会話をお願いします。というか、できたら黙っといてもらえますかね?

「え、じゃあビッグマックなら何個くらい行けます!?」

まだやるんかい! もう勘弁してくれ。

こんな感じで彼女は大いに盛り上がっていた。

私はその職場には二度と行かなかった。

#エッセイ #照り焼きバーガー #工場 #会話


働きたくないんです。