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きよさんの楽しいお友達作り 上巻

きよさんは少し禿げ始め、腹も出てきたアラサーのオッサンです。

ブラック企業の仏壇屋から大阪の優良企業に転職し、「人生が上向いてきた」と思うと同時に、ふとこんなことをつぶやきました。

「友達が欲しい……あわよくば彼女も欲しい」

きよさんは元引きこもりなだけあって、友達がまったくいないのです。もちろん彼女もいません。

「ジッとしていても始まらない。行動だ!」

「行動がなにより大事」きよさんはこんなことを司馬遼太郎先生の小説で学んでいました。

「今こそ、学びを活かすとき!」

こうしてきよさんの楽しいお友達作りが始まったのです。

きよさんはカフェ会に参加し、リア充共からお誘いを受けます

大阪では「カフェ会」なるものが毎日各地で開催されています。

不特定多数の人が集まり、コーヒーを飲みながら雑談、というイベントです。

きよさんはまずその会に参加し、仏壇屋で培った類まれなるコミュニケーション能力と愛想の良さを活かし、ラインをたくさんゲットしました。

その中には「ごはんに行きませんか?」「今度飲みませんか?」という誘いをくれる人が何人かいました。ちなみに全員リア充と呼んでいいような男です。

きよさんはリア充が「核兵器」の次に嫌いなので、最初はかなり抵抗がありました。

しかし、引っ込み思案のきよさんはまだまだこちらから誘いをするほどの勇気を持ち合わせておりませんでしたので、誘ってくれたことがすごくうれしくなりました。

「男なのになぜ私を? もしかしたら彼らもリア充に見せかけて友達がいないんじゃないか。ふふふ、可愛いやつめ」

そう思ったきよさんはカフェ会で一番感じのよかった西田さん(仮名)にすぐに「行きます」と返事をしたのです。

「友達になってくれるかな?」きよさんはワクワクが止まりません。

ほろ酔いサラリーマンに足を踏まれつつ、仕事帰りに待ち合わせ場所である梅田に向かったのでした。

きよさん人生初のバーでお友達作りに挑戦。ついでに謎の美女とのムフフな妄想をします

待ち合わせ場所はとてもシャレオツなバーでした。

「こ、こんなところで……」きよさんは生粋の田舎者なので、バーに来たことがありません。ましてやこんなシャレオツなバーは見るのも初めてです。

勇気を出しておそるおそる中に入ってみますと、奥の席に西田さんが座っていました。そして、驚いたことにその隣には露出度の高い北川景子似の美女がいるではありませんか!

「フ、フゴゥ!? こ、これは……」きよさんは多少フガフガしながら、西田さんの向かいに座りました。

美女の胸の谷間に視線が行かないように気をつけます。でも、三度のメシより乳が好きなきよさんは、ついつい見てしまうんですな。

西田さんはカフェ会のときの質素な感じとは違って、今日は金の腕時計、ネックレスをつけており、ゴージャスな感じです。

「こんばんは。お仕事帰りですか?」西田さんのセリフを皮切りに雑談が始まりました。

きよさんの箸にも棒にもかからないクソつまらない話にも、西田さんと美女は一生懸命相づちをうちつつ聴いてくれました。そして、美女はきよさんの隣に座りました。

「パゴワァ!? こ、これは、もしかして、もしかしますぞっ!」きよさんは調子に乗りました。

盛り上がりが最高潮に達したころ、「ところできよさん」と西田さんはポケットから名刺を取り出しました。

「私はこんなビジネスをやってまして……」

西田さんはおもむろに自分がやっているビジネスの説明をし始めました。

きよさんは一生懸命聴いていますが、美女のあらわになったふとももが気になって全然理解できていないようです。

「どうです? 一緒に幸せになりませんか?」

ふとももと胸の谷間をチラチラ見つつ、美女とのアバンチュール的な妄想で頭が一杯になっているきよさんは、相手がなにを言っているのか全然理解できませんでしたが、「幸せ」という言葉だけ理解はできました。

実はきよさんは「幸せ」という言葉が大変嫌いだったのです。人によって定義もバラバラ。こんな曖昧な言葉がちまたにあふれていること自体気に入らないのでした。

「こ、こんないい加減な言葉をいとも簡単に吐くなんて……。コイツは私をダマそうとしているに違いないっ!」きよさんは心の中で憤りました。話をほとんど聴いていないのにも関わらずです。

美女はきよさんのふとももの上にそっと手を置きました。

熱くなる下半身を押さえながら、きよさんは勇気を振り絞って言いました。

「あ、あ、あの……そういうのはちょっと無理です……」

「なんで? きよさんは今のサラリーマン生活に満足してないんでしょ」

「そ、そうですけど……でも、そういうのは無理なんです」

「ああそう。じゃあいいよ。もう誘わないよ」

「は、はい……」

終始笑顔だった隣の美女が冷たい魔女のような顔になり、向こう側に座り足を組み、タバコを吸い始めました。こんな状況でもきよさんは美女の組んだ足からのぞくパンツをしっかり見ようとしました。どうしようもないドスケベ野郎ですね。

しかし、きよさんは西田さんと美女のあまりの豹変ぶりに恐ろしくなってしまい、それ以上話を続けることができません。お金を払い、そそくさと出口に向かうと、うしろから西田さんが言いました。

「一生貧乏なサラリーマンだぞ! お前! ハハハッ」

きよさん、友達作り失敗。しかしミック・ジャガーの歌声により再び立ち上がります

こうして第一回目のお友達作りは見事に失敗に終わりました。

西田さんはきよさんになにをするつもりだったのかはわかりませんが、きよさんの「断じて働きたくない」という気持ちを利用し、お金をむしり取ろうとしたのは確実です。

外に出たきよさんは震える手でイヤホンを取り出し、音楽を聴き始めました。惨めな気持ちを振り払おうとしたのです。

流れてきたのは大好きなローリング・ストーンズの「You can't  always get what you want」という曲です。

「いつも望むものが手に入るとは限らない」

きよさんはこのときほど、ミック・ジャガーの歌声が沁みたことはないと、後に語っています。

「一回失敗したからってなんだっていうんだ。もう一度チャレンジだっ!」

きよさんはあふれてくる涙を押さえつつ、夜の梅田の街を駆け抜けました。

下巻につづく

#ノンフィクション #小説 #友達 #美女

働きたくないんです。