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仏壇屋の憂鬱

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仏壇屋での体験や、仏事に関する情報を書いてます。
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#店長

店長の「アレ」

店長は60歳前だというのに、ボケ気味。 従業員の名前を忘れる、住職の顔を忘れる、3時間くらい話したお客さんの顔を次の日には忘れる、宗派を忘れる…… その中でも一番困るのは固有名詞が出てこないこと。 「ちょっと、アレ取って」と言います。 この「アレ」は「はさみ」だったりします。「はさみ」が出てこんのです。この店長は。 場面によってその「アレ」は「ガムテープ」だったり、「ペン」だったりします。そのときの状況を見てこちらが推測します。なにこの仕事。 これくらいなら皆さん

「苦労は報われる」とは限らない

「若いときの苦労は買ってでもしろ」 「苦労は必ず報われる」 こんな言葉をよく聞く。 私はこの言葉を全く信じていない。「苦労しても全く報われていない」人を身近に見ていたからだ。私が働いていた仏壇屋の店長である。 店長は新卒で入った仏壇屋がブラック企業で(昔の企業は全部そうだったのかもしれんけど)、毎日14時間、四十九日休みなしで働いてぶっ倒れた。 毎日2本、100万円以上の仏壇が売れていた時代である。大変忙しい。休みなしで働くも、一向に給料が上がらず、退社。起業する。

「河童じゃなくてお釈迦さんです」

入社したてのころ、店長とお客さんのところに仏壇の掃除に行った。ただの掃除とはいえ、その家を守る神聖なものを掃除するのだから、それなりにやり方やコツがいる。それを教えてもらうため、店長に同行してもらったのだ。 仏壇の中のお荘厳をすべて取り出し、テーブルに置いていく。ここでなにかひとつでも落としてしまうと傷がつく。慎重にしないといけない。 店長は仏壇の中を掃除し、私は外に出した仏具を磨いていった。 店長は新入社員の前で張り切ってしまったのか、引き出しの中もすべてひっくり返し

太りすぎて奈落に落ちた店長

店長は肥えていた。 ありきたりな表現だけど、タヌキみたいな腹をしていた。体重も当然重い。 この店長は少々変わっている。 5時間かけて接客したお客さんの顔を次の日には忘れていたり、大和洞川に代々伝わる薬「陀羅尼助丸」をボリボリおやつ感覚で食べたり、お客さんのところに仏壇の掃除に行ったはずのに、なぜか血まみれで帰ってきたり…… ネタには事欠かない店長と工場の職人とで、お寺のお荘厳の移動に行ったときのお話。 寺と庫裡(『くり』住職が住むところ)の渡り廊下で、バケツリレー方