珍味① フィンランドの伝統料理 カラクッコ
木こりのお弁当というと、何を想像しますか。
私の中で「木こり」のイメージは、C.W.ニコルなのですが、
大柄で、髭が生え、オーバーオールを着て、帽子を被った男性
腕は太く、指は節くれだって、手の甲に毛が渦巻いているイメージ。
斧を地面に突き立て、首にかけたタオルで汗を拭き
切り株に腰を下ろして、食べるもの。果たして、何がぴったりでしょうか。
日本人なら、竹の皮に包んだおにぎり。
でも、C.W.ニコルだったら、何かなぁ。手早く食べられて、無骨なもの。
サンドイッチでは軟弱だし。
それがぴったりの料理があるんです。その名も「木こりのお弁当」。
通称ですけど。本当の名前は「カラクッコ」
カラクッコを知ったのは、玉村豊男さんの『食客旅行』という世界中の食に関するエッセイで
フィンランドの郷土料理であり、”子供の頭二つ分もある大きさの、黒パンに
豚の脂身と小魚の塩漬けが入ったもの”と書かれていました。
木こりのお弁当にふさわしく、豚の脂身には毛がついているような荒々しい
食べ物だそうなのです。
木こりが、山に入る前にこしらえ、伐採作業をしている最中に焚き火にくべ
ておき、作業が一段落して食べるというのです。
それを読んだ時に、C.W.ニコルが切り株に腰をどっかりおろし、カラクッコを
食べている幻が目の前にあらわれ、
心の底から食べてみたいと思いました。
ツイッターでカラクッコを食べたいと叫んでいたところ、(私は年がら年中、ツイッターであれが食べたい、これが食べたいと言っていますが)
それを見ていた方が、フィンランド空港から、
木こりのお弁当を送って下さったのです。なんたる僥倖。なんたる親切。
手元に届いたカラクッコは、子供の頭二つ分ほどはなく、頭一つくらいでしたが
それでも大きいです。無機質な黒いパンがラップに包まれていました。
この中に、小魚と豚の脂が詰まっているのです。
私は、おそるおそる包丁で、頭の三分の一くらいのところを切りました。
パンは硬く、刃を入れると、ぼろぼろっと崩れる感じです。
中には薄茶色い魚と豚の脂がぎゅっと固まり、缶詰の中身のようになったものが入っていました。
茶色のパンに、ベージュの具はあまりにも地味な色調で、木こりのお弁当にふさわしい、素朴さを感じます。単なるイメージですが。
これが夢にまで見たカラクッコ。
喜び勇んで口に入れたところ、衝撃を受けました。
味がしないんです。よく噛むと、魚の風味と脂身を感じますが、味はあまりしない。
玉村豊男さんの本に「小魚の塩漬け」と書かれていたので、塩辛いやつが入っているんだろうと予想していたために、想像と実際の味のギャップが大き過ぎて、ぽかんとしてしまいました。
おいしくない。いやいや、素朴なんだ、これが素朴な味なんだと、自分に言い聞かせ
もう一口、二口と食べましたが、黒パンのぼそぼそした食感と味のしない小魚と脂に、次第に悲しくなり、塩をかけました。
「塩をかけたら美味しい!」
次の瞬間にそう思っている自分を想像していたのですが、塩をかけてもあまり美味しくない、のです。なぜ旨くないんだろうと考えながら、がつがつと食べます。
日常生活において、まずいものを食べる体験は、なかなかないもので、まずさになぜか興奮を覚えながらカラクッコを食べていました。
そして、とてもお腹がふくれるのです。三分の一だけ食べただけで、急にお腹が苦しくなり、もう食べられないと思いました。
特殊な味というわけでもない、しょっぱすぎる、からすぎるというわけでもない。塩味が薄くても、素材本来の味でおいしいものもいくらでもあります。ちなみに、私は茹でた鶏肉を塩をつけずに食べるのが好きです。よくわからないけど、まずい。旨味がないんだろうかと思いました。
そして、今、カラクッコを思い出して、また食べたいと思っているのです。まずかったのに。
まずい体験をするために、どのようにまずかったのか思い出すために、また食べたい。
それにしても、部屋の中で食べるのがいけないのかも。焚き火で燻され、森に囲まれて、土の香りがする中、うんと働いた後に食べるとおいしいものなのかもしれません。
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