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「料理の待ち時間」って、幸せだ。3つのエピソード

救世主、おもち

お米を炊くのを忘れていた。

たまには忘れることもあるさ〜。
うんうん、あるある。

こんなときは、サトウの切り餅がご飯の代わりだ。
家にトースターがないから、グリルで焼く。
これまで何回も焦がしているから、
今回こそは、焦げませんように…

おもちが焼かれるまで、
作り置きのおかずを温めたり、明日のお弁当の準備をしたり。
ときどきグリルの中をのぞきながら、おもちを待つ。

あ、きた。
焦げる寸前の、いい焼き目。
もとの大きさの倍以上にふくらんだおもちは、もう時が満ちたと、私(の空きっ腹)に訴えてかけてくる。

ふくらむのを待っていた時間だけ、
私の期待もふくらんでいる。

この待ち時間が、たまらんのよね。

ああ、おいしい。

ありがとう、救世主のおもち。

(写真がないので)おぜんざいに入ったおもち達



愛しの我が子、スコーン

薄力粉、ベーキングパウダー、バター、砂糖、それから牛乳。

これでもかというほどよく混ぜるのは、せっかく作るのなら美味しく作りたいという意地である。

混ぜて、混ぜて、こねて、こねて。

はじめは手にねっとり付いた粉も、こねていくとだんだん手を離れていく。ひとつの生地になっていく。
我が子の手が離れたようで、嬉しいような、淋しいような。

こね終えたら、少し平たくして整形する。
いつもはスケッパーで三角に切るけど、
今日は型でくり抜いて丸型にしよう。

めざせ、(形だけ)本場のイングリッシュスコーン。

いよいよオーブンの中へ送り出すときがきた。

我が子よ、立派になってくるんだよ。
心の中で声をかけて、おそるおそる扉をしめる。

オーブンへ入れたら、できることはもうない。
ふくらみ始める瞬間が見たくて、しばらくオーブンに張り付いてみるけど、
やっぱり私にできることは何もない。

やむなく退散…

洗い物をして、ちょっと洗濯ものをたたんで、お茶を淹れてほっと一息。

いい香りが漂ってくるのは、
だいたいそういうときと決まっている。

ふわっとバターの焼けるいい香り。
そうそう、これを待ってた。

急いでオーブンを覗きにいくと、立派にふくらんだ我が子、スコーンが焼けている。

ほんとうに立派になってくれたものだ。
オーブンから出してみると、想像以上の大きさに、思わず目尻が下がってしまう。


オーブンに送り出したドキドキも、
のんびりお茶を飲んでいた呑気さも、
焼けた香りのトキメキも、
全部、愛しのスコーンからのプレゼントなんだ。


立派になったスコーン



王様、タンドリーチキン

スーパーで手羽元を買った。
それもお得なジャンボパック。

思わずにやにやしてしまう。
お得に買えただけで、私はすでに手羽元を味わい始めている。

さて、どう料るか。
たどり着いた結論は、タンドリーチキンだった。

先日、インドカレー屋へ行った。
あのときタンドリーチキンを頼まなかった後悔が、ミイラとして私の中に眠っていたのだと思う。

早速、手羽元をジップロックに投入。
続けて、ヨーグルト、ケチャップ、カレー粉、醤油、みりん、その他もろもろの調味料も。

ジップを閉めてから、ゆっくりと揉み込んだら、冷蔵庫にて保管。
あとは、待つ。
「待つ」というより「寝かせる」が正解であって、それはつまり「放っておく」だけだ。

私は、冷蔵庫の中で寝ている手羽元を待ってはいない。
未来のタンドリーチキンを待っている。


まるまる2日経ったと思う。

職場の⚫︎⚫︎さん、今日は機嫌よかったなあ。
電車内の赤ちゃん、かわいかったなあ。

そんな刹那の思考があふれる家路において、唯一はっきりとした思考があった。

今日、タンドリーチキンを焼こう。

なぜだろう。
待っていたのは私なのに、タンドリーチキンが私を待っている…!
そう直感した。

玄関のドアを開け、荷物をサッと片付けて、手を洗い、エプロンをつける。
スープの出汁をとり、おかず食材を適当に切ったタイミングで、タンドリーチキンにとりかかる。

さあ、いよいよだ。

たった2日のあいだに、主従関係は逆転した。
私はいま、タンドリーチキンのために、
タンドリーチキンを作ろうとしている。

鉄製フライパンの上で、パチパチと油がはじく音がする。スパイシーな香りがただよう。
私は、遠く異国の地へ連れていかれる心地がした。

お待たせいたしました、タンドリーチキン。

誰も見てやしない。
思いきり大きく口を開けて、私はタンドリーチキンにかぶりつく。

バクッ、バクッ、モグモグ、バクッ。

うん。間違いない。
タンドリーチキンが、私を待っていた。

(やはり写真がないので)先日のインドカレー

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