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きわダイアローグ07 埋立地のビオトープを歩く〈北九州市響灘ビオトープ〉2/4

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2. 国内最大級のビオトープ

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向井:数年前にヨーロッパ取材に行き、都市部にかなり近いところに太陽光発電や地熱発電があるのを見てきました。日本に戻ってきて「国内の都市部にこういった場所はあるのだろうか」と調べた際に、北九州市にあると知ったんです。お恥ずかしながら、北九州市に対して、八幡製鉄所をはじめとする重工業の街とイメージがずっとあったので、「エコタウンなの?」と驚きました。実際に訪れてみて、市内のさまざまな文化施設や学校などにも、自然エネルギーを活用していらっしゃるということを伺い、かつてのイメージと違うなと感じました。こんなに都市部に大きなエコタウンがあるというのは珍しいことだと思うんです。その「都市部に近いこと」が重要なのだと思うのですが、実際はどうなのでしょうか。

三上:わたし自身は思いっきり自慢しようと思っていますので、来館者を案内するときに「今、全国にソーラーパネルや風車、エコタウンはあります。絶滅危惧種がいる場所もあります。でも、それが全部一目で見渡せるところは、日本でここだけではないでしょうか」という言い方をしています。「共生が大事」とは言うけれど、本当に目で見て、体感できるのが、ここのいいところだと思うんですね。この場所で「ここを見てください。自然と人間の共生はもうできています」と言うのは、非常に説得力がありますから。ただ、直に案内した人に対しては伝えられ、納得していただけるのですが、それを外へ発信するのはなかなか難しいですね。

響灘ビオトープから眺める北九州エコタウン
撮影:向井知子

向井:実際に自分の目で見たとき、風が吹いて草がなびいているなかで風車も回っているという風景が、同じ画角に入ってくるのがものすごく象徴的ですし、こんな風景普通ないと思うんです。
この近辺だと福岡県宗像市でも環境会議とかもされていますよね。同じ福岡県のなかで連携はされないのでしょうか。

三上:そういったつながりを持っているわけではないので、今のところは特にしていません。ただ、熱心な団体や自治体とは、連携していきたいなとは思っています。
ミサゴに関しては、営巣地としてポールを立ててあるのですが、停まることはあっても、産卵、営巣はまだしたことがありません。ただ、近くにあるJ パワー電源開発のタワーの上ではハヤブサで成功しているんです。岡本久人さんが設計された、鉄の犬小屋のような「はやぶさの巣箱」が設置されているその場所では、何回も子育てしていました。
それから、コアジサシの繁殖も難しいんです。そもそも鳥自体が、気難しく、気まぐれで、繁殖をしかけても途中でよそに行ってしまうような理由がわからない行動を取るんです。加えて、野良猫やイタチ、カラスなどにいたずらをされたり。過去1回だけ成功しました。毎年、 時期になると必ず小数の群が来てはいるのですが、定着して、卵を産んで巣立つまでずっといるというところにはいたりにくいですね。

ミサゴ(準絶滅危惧)
撮影:岩本光徳、提供:北九州市響灘ビオトープ
ミサゴの営巣地用ポール
提供:北九州市響灘ビオトープ
コアジサシ(絶滅危惧Ⅱ類)
撮影:岩本光徳、提供:北九州市響灘ビオトープ
コアジサシが営巣する砂礫地
提供:北九州市響灘ビオトープ

三上:パンフレットに出ているものは、だいたい毎年見ることができます。公称では、鳥が200種類、植物が250種類はおりますので、500以上の生き物が生息しています。
山などもビオトープとして考えるという考え方もありますが、それだと際限がなくなってしまいます。「○○自然公園」といった名称の場所もカウントするならば、少し微妙にはなってしまいますが、「○○ビオトープ」という名前の場所では、人工的な場所ではありますが、響灘ビオトープが、国内では一番広い。枠で囲ってきちんと管理し、「ここがビオトープです」と定義している場所では、うちが最大だと言えるでしょう。
人工的に管理をして、チュウヒが営巣、繁殖しているという場所はなかなかないと思いますね。

チュウヒ(絶滅危惧IB類)
撮影:岩本光徳、提供:北九州市響灘ビオトープ

向井:自然の中で、普通チュウヒはどういうところに棲んでいるものなんですか? ハヤブサみたいな見た目ですよね。

三上:チュウヒは、英語でハリヤー(Harrier)と言います。北海道の勇払湿原が有名で、たくさんいます。そういった大湿原が本来のすみかですけれども、埋め立て地で、工場が建っておらず、空き地に水たまりができている場所では、やっぱり同じように繁殖をしていたんです。大阪のどこかの埋め立て地では、何回か営巣してニュースになりました。でも、そこを保護区にすることもなく、どこかへ行ってしまいました。岡山も、少し前まで頑張っていましたが、ソーラーパネルで埋め尽くされてダメになってしまった。どこも、開発が進んだり、ソーラーパネルができたりして、西日本ではここだけになってしまいました。

向井:ソーラーパネルをはじめ、環境エネルギー対策での自然破壊の問題をよく聞きます。今、日本の現状としてソーラーパネルはどのような感じなのでしょうか。

三上:ソーラーパネルは環境アセスメント法の対象外だったので、計画しやすかったのではないかと思います。しかも、買取価格が高かったんです。今、買取価格がかなり暴落しており、太陽光発電は採算が合わなくなってきました。お金にならないとつくらないので、計画して、申請していたけれど、実際に着工していないところも結構あるんです。そもそもメガソーラーは生き物にとってはあまり良くないと感じているので、自然にとってはブレーキがかかっていて、個人的には良かったのかもしれないなと思っています。
風車のような次世代エネルギーに対しては大賛成なのですが、場所を考えてつくらないといけないですよね。ヨーロッパやなんかだと、ゾーニングを最初にきちんとやって、ここは建ててはいけない場所、ここは建てていい場所と定めるんです。しかも、建てていい場所に建てても、事後調査でやっぱりよくないとわかれば、膨大な罰金がかかるので、危ないところには事業者側が建てようとしません。生物の住む場所に当たるところに建てるのをやめたり、実際に当たったときに開き直らず撤去するなどの対策を取ったりするのであれば、増やすのも良いと思います。例えば、最先端のレーダーだったら、感知した瞬間に止めることもできないことではないようです。

向井:北九州市は、ドイツのブレーマーハーフェンのエコタウンをモデルにしていると伺いましたが、それはどういう理由からなのですか。

三上:ブレーマーハーフェンも鉄鋼で栄えて、そのあと鉄冷えみたいなことでさびれ、さらにそのあと風車で立ち直ったというのが、北九州に重なるところがあったからではないでしょうか。

向井:実際ドイツに行くと、三度の飯と同じくらい、みんな環境の話をしています。向こうの友人には「日本には風土という言葉もあるにもかかわらず、どうしてこんなに環境のことに鈍感なの?」みたいなことを、はっきり言われます。

三上:そう考えると、日本はまだ全然追いついていないですね。

向井:世界では今、小型の風力発電も出てきていますよね。

三上:大きいほうが、発電効率が良いようです。経済的効果が高いので、どんどん大型化していますから、小型化にはかなり逆風が吹いています。小型風車をたくさん建てたほうが、鳥も当たらないしいいのではないかという話がありますが、発電効率が全然違うみたいですね。

向井:アイスランドはほとんど地熱エネルギーで回しているんですね。日本も同じ島国で、かつ火山がありますが、地熱エネルギーは進んでいないんでしょうか。それから水力発電はどうなのでしょうか。

三上:個人的には、日本も地熱と小水力発電に力点をおくべきだと思います。聞いたところによると、地熱はどうしても温泉(観光)に絡んできたり、地熱のあるところが国立公園や国定公園にかかっているところが多かったりといった縛りで、なかなか進まないみたいです
別府ではバイナリー式発電による地熱発電所「アイベック地熱発電所」を行っています。それから小水力発電は、規模が小さい分、効率が良くないみたいです。どこかの村で水力発電所をつくって、村の電気をそれですべてまかなおうという取り組みがあったようですが、それをみんなが真似するかといったら難しいかもしれません。

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