ライターがマクドナルドで働いたら
31歳。フリーランス歴3年、ライター歴1年。
これらは今のわたしを表す数字だ。
わたしはライターを名乗る前、データ入力で生計を立てていた。
ところが、駆け出しのライターである今、フリーランス初期にあったはずの「がむしゃら精神」を、データ入力の道具とともに封印してしまった。
ライターの仕事は、本当にやりたいことしかやろうとしない、怠惰とも、貪欲とも言える変なプライドを持ってやっている。
その結果、1カ月に最低限いただきたい報酬を下回るようになってしまった。
そんなことを考えながら、本を4冊カバンに入れて、マクドナルドにやってきた。
カウンターでエッグチーズバーガーのセットを注文し、日の当たる明るい席を見つけて座る。
5分もしないうちに、注文したセットを店員さんが席まで運んでくれた。
そんなことを思いながら、ハンバーガーをほおばる。
マクドナルドのハンバーガーは、ミネラルが割と多くて優秀な食材らしい。その話を聞いて、子どもに安心して食べさせるようになったことを思い出した。
そうだ、とひらめく。
もしかすると、ドライブスルーの注文の受付と会計を1人で担当する仕事をやれば、頭の回転が速くなるかもしれない。
そうしたら、ライターの仕事をたくさんこなせるようになるのでは…?
お店のカウンターで注文を受けつける仕事はどうだろうか。
きっと、老若男女いろんなお客さまがいるので、お客さまのなかには意思疎通が得意でない人もいるだろう。
そんな人の注文を、身なりや目線、手ぶり、連れ添っている人などを見て、何を伝えようとしているのか汲み取ろうとする。
これはインタビュー中、相手が本当に言いたいことに気づく訓練になるかもしれない。
……しかし。
ライターの仕事は、人と心を通わせるものだと思う。人とは、読者や取材相手のことだ。
マクドナルドでお客さまと心を通わせる時間は、お客さま一人あたり何秒か、何分かだろう。
むしろ、同じ職場で働く従業員とかかわる時間のほうが長いのではないか。
ライターは、たとえばインタビュー以外の時間も取材相手のことを考えなければ、いい文章は書けない。
たくさんのお客さまを「さばく」ような仕事は、ライターには向かないかもしれない。
そんなことを考えていたら、あっという間に1時間が経っていた。
かじりかけのハンバーガーを眺めて、ため息をつく。
そう決めたあと、カバンに入れていた本を取り出して、読み始める。
駆け出しライターのアルバイト探しはつづく、かもーー。