第三夜『自責ノ念』オリジナルストーリー

第三夜【自責ノ念】〜海の水を飲むな〜



 もうすぐ夏休みが終わる。
9月からは小学校に……たぶん行けない。

 今年最初のせみが鳴いた日、
ようたはアパートのベランダの植木鉢に
ひまわりの種をまいた。
ひまわりは、一つだけ芽を出し、
50センチくらいまで背を伸ばした。
ヒョロヒョロだった。
まったく咲く気配がない。
たぶん日当たりが悪いからだ。
(なんか、不登校のぼくに似てる。)

 ヨウタは、申し訳ないような、
ムカつくような、複雑な気持ちで、
たいそう座りしながら
ひまわりのつぼみと向き合っていた。

 ふと、考えが浮かんだ。
ヨウタは、植木鉢を抱え、家を出た。
アパートの階段をそっと降り始める。
徐々に気分が高揚し、一段飛ばしでおりていく。

「最高のプレゼントをあげるからね!」


 ヨウタは軽くなった体で階段をかけ上がり、
いきおいよくドアを開けて家に入った。
心臓の鼓動が聞こえる。

(ひまわりが咲いたら、
ぼくも学校に行ける気がする。)

 それから、ひまわりのいなくなったベランダを
ぼーっと眺めては、
ひまわりがうんと成長して、
きれいな花を咲かせたことを想像して
寂しさをまぎらわせた。


「あれ?
あんたが育てたひまわりどこ行ったん?
誰かにあげたん?」
 
何日か過ぎ、お母さんが気づいた。
ヨウタは顔を赤らめながら、ぶっきらぼうに答えた。
「日が当たらんから海辺の砂浜に、
植え替えてあげたんや。」
 
お母さんは驚いた。
「あんた、アホやなぁ。
海のそばやったら、ひまわり枯れてまうで。」

 ヨウタは真っ青になって、走った。
全速力で走った。
(ぼくのせいで…ぼくのせいで…。)
 ヨウタは一度も止まらずに走った。
海辺に着くと、ヨウタは足を止めた。
遠くのほうに、
ヨウタが植えたひまわりが立っている。
そのひまわりは、
植えたときより少しだけ小さく見えた。
ヨウタはゆっくりと近づき、
ひまわりの前にしゃがみこんだ。
ひまわりは全体が茶色くなって、
すっかり枯れ果てていた。

(ごめんね…ごめんね…。)
 ヨウタは、肩をふるわせて泣いた。

 つぼみのまま枯れたひまわりは夕日に照らされ、
美しいオレンジ色に輝いていた。


 ヨウタは何も悪くない。
ひまわりは、海の水では生きられない。
ヨウタは知らなかったのだ。
自分のせいでひまわりが枯れてしまったことを
ヨウタは当分引きずるだろう。

 しかし、目の前に広がる海と太陽、
最高の景色を手に入れたひまわりは
ヨウタに心から感謝して旅だったことだろう。


『自動車工場のひまわり』サビ
(Temoa(キワコ)作詞作曲)

(その花はにっこりとほほえんで)
泣きべそかくぼくにこう言った

きみにわたそう えがおのバトン
きみの涙が きぼうの種だ
きみにわたそう えがおのバトン
きみの番だよ ほら笑って


#創作大賞2022 #自主制作 #朗読 #物語 #オリジナルストーリー #ひまわり #ネアリカ #不登校

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?