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わがままな女の話

 僕が「アイドルマスターシャイニーカラーズ」で、特に推しているアイドルは、「八宮めぐる」「芹沢あさひ」「市川雛菜」の3人だ。
 彼女たちのキャラ性を知っている人は、今回の表題からして、雛菜の話をすると思っているだろう。事実、僕もそのつもりだった。だがちょっと待ってほしい。あさひも大概わがままだし、めぐるもそういうところはある。

 3人に共通しているのは、いずれも「自分のやりたいことに対して、衝動的かつアクティブである」ということだ。ただ、ここで「そういう属性のキャラが好き」と断定するのは気が早い。何でもかんでも分類したがるのは僕の良くない癖だ。もう少し色んなキャラを見て考える必要があるだろう。
 というわけで好きな女の子キャラの類型を掘り下げるにあたり、今回は市川雛菜の話をしようと思った。

 なぜ雛菜なのかというと、推し3人の中では一番ノーマークなキャラだったからだ。シャニマスを始める前に、登場アイドルを全員チェックしたのだが、その時に「推しになりそうだな」と思ったのは、「芹沢あさひ」と「浅倉透」だった。
 めぐるについては、ちょっと話がややこくなるのでいったん置いておく。
 とにかく雛菜はノーマークだった。初見ではビビっと来るものがなかったのだ。

 この「何故ビビっと来なかったのか」「それがなぜ推しになったのか」を考えるのは重要なことだ。
 公式サイトで雛菜を見る限り、わかるのは「ゆるふわっぽい喋り方と見た目」「それとは裏腹に自己中心的な言動」である。この二面性のギャップで立たせてるキャラで、なんとなく「わがままな女の子に振り回されたい」というタイプのPに刺さるキャラといった感じだ。僕はこの時点では、そこまで彼女のことを魅力的に感じなかった。

 実際にプレイを初めて、雛菜に最初に触れたのは、同じユニット・同じ高校・同じ学年に属する福丸小糸のサブストーリーだ。
 優等生である小糸と、問題児である雛菜。ふたりが一緒にいるところに、教師がちょっとした嫌味を言う。小糸はそれに対して憤るが、雛菜はまったく気にした様子がない。テストで良い点を取って、教師を見返してやろう、と小糸が言う。と、いうのが、大まかな内容だ。

 僕は、教師に嫌味を言われても全く動じず、全然気にした様子がない雛菜の対応を、当時は意外に感じた。「え~、何あの先生~」とか「なんかムカムカする~」くらい言いそうなもんだと思ってたのだ。
 でも、雛菜の対応は「言われても仕方ないし、そもそも名前も知らない人に何言われても気にならない」というものだった。想像以上に徹底した個人主義である。自分の言動が他人からどう思われるかを理解したうえで、自分のやりたいように振る舞っている。単なるわがままな女の子ではなく、孤高を厭わない奔放さのようなものを感じ取った。カッコいい女だと思った。
 その上で、そうした自分の生き方を理解・許容してくれる友人たちには、彼女なりの接し方で心を開いている。

 彼女のメインストーリー=プロデュースシナリオでも、そういった側面はきっちり協調されている。雛菜は自身の幸福――本人の言葉によれば「しあわせ~なこと」の追求に忠実なキャラだ。そのため、独占欲が強く、刹那的・享楽的な生き方を好む。
 一見して協調性がなく、努力をしていないように見えるが、心を許した幼馴染とは仲がいいし、そう見えないだけで彼女なりの努力もしている。

 こういう、フェミニンなままにカッコイイ女性、すなわちFGOのメイヴちゃんとか、古いけどめぞん一刻の朱美さんとか、そういったキャラと同じ属性を持っているのが市川雛菜だ。
 僕は雛菜のわがままな部分、独占欲が強い部分、享楽的な部分などはすべて気に入っているが、これらは彼女の徹底した個人主義と、人生哲学があるから好きになれていると思う。カマキリオージャー/ヒメノ・ランとも通じるところがある。

 一方で、雛菜はまだ高校一年生である。彼女のシナリオでは、彼女はその徹底した個人主義から来る見切りの早さで、可能性を狭めているという欠点が指摘される。
 雛菜は、自身の協調性の無さをプロデューサーから注意されたとき、彼に対して反発を露わにしている。個人的な話だが、僕は先に小糸のサブストーリーを見ていて良かったと思った。雛菜は、興味のない人間から注意されても、取り合わず受け流すだけだと知ることができたからだ。
 つまり、雛菜にとってPは、少なくとも身内のひとりであり、そんな彼が、他の大人たちと同じ退屈で定型的な注意をしてきたことに、反感と失望を覚えたのだろう。そのあと、雛菜は「Pは自分と一緒にいて幸せか」と尋ねるが、すぐに「答えなくていい。聞きたくない奴だった」と遮る。
 「Pが他の大人と違うことを確かめたい」という気持ちと、「求める答えと違った時に失望したくない」という、相反する感情の揺らぎが、雛菜にはあった。と、少なくとも僕はそう捉えた。

 この後、上述した欠点が雛菜の予期していない指摘だったこともあり、雛菜はPを、「自分以上に自分をわかってくれる理解者」と認定する。
 雛菜の魅力は「その精神性の揺るがなさ」であり、一見すると「アイドルを心身共に支える」ことが主題のアイマスとは相性が悪い。その中で、雛菜のキャラを崩さずに、「相反する感情の揺らぎ」を出してきたのが、個人的には非常に刺さった。キャラとしての魅力である「強い自立性」と、ヒロインとしての魅力である「弱さ」を、見事に両立させてきたなという感じ。

 ストーリーを回すヒロインには、「弱さ」や「欠落」が必要だ。これまでヴィランについていろいろと言語化してきたが、おそらく流用できる要素があるはずだ。「視野狭窄」や「変化の不受容」はその最たるものだろう。

 僕はとにかく、ヒロインにそうした「欠落」を持たせるのが苦手で、新しい企画を考えるときも毎回そこに躓いてきた。一方で、ヒロインに「強い自立性」を持たせることはまぁまぁしてきた。要するに「助け甲斐のないヒロイン」ばかりになちがちだったのだ。
 あるいは逆に「欠落」を重視しすぎて、キャラとしての自立性に欠け、主人公がいなければ何物にもなれないヒロインにしてしまうこともあった。

 雛菜を見ていると、「自立性」と「欠落」を両立させる、ひとつの参考になる気がする。そのまま企画のヒロインに転用するには、少しばかり「欠落」が弱すぎるので、何かしらの担保は必要になるとは思うが。
 それでも、あの瞬間に雛菜が見せた「揺らぎ」は、「強い女性」をヒロインに据える上での、大きな武器だろうなと思った。

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