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「私のコリドー街」

【テーマ】
柴田百合子さんの『テレビ東京#100文字ドラマ(案)』

【シナリオ】
○とあるバー(夜)
  店内にはジャズのいい感じの音楽が流れ、手にあるロックグラスの氷がカランと音を立てている。
  ハルカ(23)と男性が二人でカウンターに座っている。
  男性、トイレに行くために席を立つ。
  ハルカ、スマホを取り出して。
  メモ帳に何か書き始める。『マスコミ/30歳/1000万円/顔△/店のチョイス△/評価 補欠』
  その他にも多くの男性のメモが書かれている。
男性「お待たせ。そういえばさ……もう終電ないけど……うち……泊っていかない?」
ハルカ「いえ、家近くなんでタクシーで帰ります(つくり笑顔で)」
ハルカ(声)「夜の誘い方×っと」

○タクシーの中
  1人でタクシーに乗るハルカ。
ハルカ(声)「女の価値は若さ……」
  タクシーでコリドー街、六本木などを通り過ぎていく。
  街には酔っぱらっていちゃいちゃする男女や合コンの集団等。
ハルカ(声)「若いうちにいい男を捕まえないと女の賞味期限が切れちゃう……」
  ハルカ、自分のスマホでマッチングアプリを開く。
ハルカ(声)「私もそこは抜かりない……毎晩銀座のコリドーや六本木、恵比寿で合コンを重ね、可能性をあげるべくマッチングアプリには全て登録している……さらに……より美しく夜に臨むために……」

○竹の湯・脱衣所(翌朝)
  マイロッカーをあけてお風呂セットを取り出し、浴場の風呂をあけるハルカ。

○同・浴場
  誰もいない中、1人で湯船につかり、気持ちよさそうな表情をしている。
ハルカ(声)「銭湯に夜行く人がいるとも聞くけどそんなの邪道。私は美容のために毎朝欠かさず行っている……」
  ハルカ、お風呂のお湯をすくって顔にかける。
ハルカ「はー気持ちい……それに今週末はついに医者とのコンパ……コンディションをばっちりにしないと」

○同・休憩所
  お風呂上りで肌がつやつやのハルカ。銭湯を出ようとする。
店主「ハルカちゃん!」
  若い店主がハルカを呼び止める。
店主「いつもありがとね、来てくれて」
ハルカ「いえ、こちらこそ……どうかしましたか?」
店主「これ良かったら」
  店主、ハルカに紙を渡す。
  紙には『銭湯コンサート』と書かれている。
ハルカ「これは……」
店主「今度ここでコンサートやるんだ……実は銭湯も経営難でね、ちゃんと人を集めるためにある銭湯は映画観賞会やったり、それこそ銭湯をクラブにしちゃうとことかもあるらしくて」
ハルカ「……そうなんですね」
店主「うちもいよいよやばくね……だからまずはコンサート的なのからこじんまりと始めようかと……」
ハルカ「なるほど……」
店主「で、うちの常連の人に声をかけてるわけ!ハルカちゃんは朝の常連さんだし!当日は夕方とか土日とかの常連さんも来る予定!……どうだろ?」
  ハルカ、日付をみる。
ハルカ(声)「……医者との合コンの日だ」
ハルカ「何時頃終わりますか?」
店主「夕方くらいを目途にかな!途中退出も自由だよ」
ハルカ「……それなら」
店主「……(不安そうな表情)」
ハルカ「……いきますね」
店主「よかった!じゃあまた週末に!そして今日もお仕事元気にいってらしゃい!」
  笑顔の店主、その場を立ち去る。
ハルカ「わかりやす(微笑んで)」

○竹の湯・外観(週末・昼)
  コンサート当日。
  銭湯の入り口には『竹の湯コンサート』と書かれている。
  おめかしをして入るハルカ。

○同・受付
  店主をみつけるハルカ、駆け寄って。
ハルカ「すみません時間ギリギリになっちゃって」
店主「全然大丈夫、スタート時間とかもゆるーくやってるから(笑って)」
ハルカ「……」
店主「それよりどうしたの?その恰好?そんなおめかしして来なくても大丈夫だったのに……」
ハルカ「いえ、これは、終わった後に用事が……(慌てて)」
店主「そっか。けどよかったハルカちゃんみたいな綺麗な人が来てくれてみんな喜ぶよ!」
   ハルカ、会釈して浴場に向かう。
ハルカ(声)「どうせこれに来る常連なんてじじばばしかいないんでしょ――」
  と、浴場の方から賑やかな笑い声が聞こえる。
ハルカ「?」

○同・浴場
  ドアを開けて浴場に入るハルカ。
  湯船の近くにはステージが置かれおり、演奏者が準備をしている。
  そして会場には20代、30代の若者が多くいた。
ハルカ「え」
男性・女性「こんにちは!」
ハルカ「こんにちは……」
女性「ハルカさんですか?」
ハルカ「そうですけど……」
女性「店主からお噂は伺っていました!すごいかわいい子だって」
ハルカ「……(恥ずかしがる)」
男性「こんなお綺麗な人が常連だったなんて思わなかったです!」
ハルカ「……」
男性「僕たちいっつも夜に来てそのまま閉館までいる常連なんです!あとで皆でお話しましょー!」
  ハルカ、気まずそうに常連たちと離れ、空いている席に腰をかける。
ハルカ(声)「びっくりした……意外に銭湯って若い人も来てるんだ……」
  ハルカ、声をかけてきた常連たちをみて。
ハルカ(声)「まあ、でも学生やフリーター、フリーランスとかの人がメインって感じでとても優良物件とはいえなそうな人は――」
  と、演奏が始まり、観客達が盛り上がる。
男性の声「すみません!お隣いいですか?」
  ハルカ、振り返ると清潔感溢れて、爽やかなイケメンの駿(28)が立っていた。
ハルカ「……はい(ドキドキしている)」
  隣に座る駿。
ハルカ(声)「なんだこのイケメンは!落ち着けハルカ……きっとどうせ見た目はよくても何か欠点があるに違いない……」
  と、ハルカは駿がしている高級時計、カバンの中に社員証に気づく。
ハルカ(声)「(時計をみて)あの時計は数百万する時計!そして(社員証をみて)東都大学病院だと!超一流じゃないか……」
  ハルカの心の中で駿のメモが作成されていく『20代/医者/収入○/顔○……』。
  演奏を楽しそうに聞く駿。
  ハルカはその横顔をチラチラみている。

×     ×     ×

  コンサート終了し立食で懇親会をしている観客達。
  ハルカ、端の方で自分に話かけてきた常連たちと一緒に話している駿をみている。
  髪をかきあげる等気づいて欲しいための仕草を繰り返す。
ハルカ(声)「ちょっと、気づいてよ……声かけて……」
  と店主がやってきえ声をかける。
店主「ハルカちゃん、今日はありがとね!あ、用事あるって言ってたし時間そろそろかな?」
ハルカ「ええ……まあ」
  ハルカ、渋々店主と一緒に部屋を出て行く。

○コリドー街の飲み屋(夜)
  医者たちと合コンをしているハルカ。
  周りは盛り上がっている中ハルカはボーっとしている。
ハルカ(声)「ちゃんと話しかければよかった……」
  ハルカ、相手の医者たちをみる。
ハルカ(声)「今日の相手よりも全然彼が勝ってる……」

○コリドー街
  二次会の話をしている一同。
医者「終電なくなりそうだし今日はカラオケでオールでしょー!」
ハルカ「私……帰ります……」
  冷めた目でみる一同。ハルカ気まずそうに立ち去る。

×     ×     ×
  力なく歩くハルカ。
ナンパ「お姉さん、もしかしてさっき会った?良かったら名前教えて?」
  無視するハルカ。
ハルカ(声)「なんでこんな男ばっかり……私は彼に……」

×     ×     ×
  フラッシュ。竹の湯。
男性「僕たちいっつも夜に来てそのまま閉館までいる常連なんです!あとで皆でお話しましょー!」
×     ×     ×
  フラッシュ。竹の湯。
コンサート後、常連たちと一緒に話している駿を。
×     ×     ×

ハルカ「もしかして……」
  ハルカ、走り始める。

○竹の湯・外観
  時刻は24時。閉館の5分前。
  息を切らしてるハルカ。
  と、駿が出てくる。
ハルカ(声)「きた!!……今度こそ」
  ハルカ、ゆっくりと駿の方に向かって歩く。
  駿もハルカの方に向かって歩く。
  が、そのまま通り過ぎてしまう。
ハルカ(声)「何やってんの私……早く声掛けなきゃ……」
  すると。
駿「あのー」
  後ろから駿に呼びかけられ振り返るハルカ。
駿「お姉さん、もしかしてさっき会った……」
ハルカ「……はい」
駿「(ホッとして)良かったら名前教えて(笑顔で)」
ハルカ「ハルカです……あのお名前は?」
駿「駿っていいます。常連さんならまたここで(銭湯を見て)お会いできますかね(冗談ぽく)」
ハルカ「はい」
  駿、笑ってその場を後にする。
ハルカ(声)「駿さん……『お姉さんもしかしてさっき会った』って言葉、ナンパと一緒なのに言って欲しい人から言われるとこんなに嬉しいなんて……」
  ハルカ、駿の背中をみて。
ハルカ(声)「今日からここが私のコリドー街になりました」


(つづく)