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「月がきれいですね」シナリオ⑤

【テーマ】
大麦こむぎさんの『月がきれいですね』

【シナリオ】
○暗闇
とある声「今日から『好き』が消えました」
結奈(声)「え……それって一体……」
とある声「今日から『好き』が消えました……今日から『好き』が消えました……(繰り返す)」
結奈(声)「待って……何なの……」

○結奈の自宅・結奈の部屋(朝)
  ベッドで目を覚ます結奈(18)、手を天井に伸ばしている。
結奈「……夢?」
  結奈、時計をみる。
結奈「やば!急がなきゃ!」

○同・リビング
  母が机に朝ごはんを準備している。
  結奈、制服姿で扉をあける机に座る。
母「おはよー」
結奈「おはよー」
  テレビをみるとあるタレントの結婚のニュースが流れている。
結奈「あ、この人ママの好きなタレントさんだよね?結婚したんだー」
母「ママの何って?(準備しながら)」
結奈「だから『好き』なタレントさんだって!一時期追っかけもしてたじゃん」
母「さっきから言っている『好き』って何なの?」
結奈「え……好きは好きだけど……」

×      ×      ×
  フラッシュ。暗闇。
とある声「今日から『好き』が消えました……」
×      ×      ×

結奈「……なんでもない……」
母「早く食べないと遅刻するわよ」
結奈「……うん……いただきます」

○結奈の高校・教室
  授業を受けている結奈。ぼんやりと外をみている。
結奈(声)「好きが消えた……」
  結奈、先生の目を盗んでスマホで『好き』と検索。検索結果は0件。
結奈「……」

○同・放課後
  授業が終わって部屋を出て行く生徒達。
  と、直樹(18)が扉を開けて入ってくる。
直樹「結奈さん!」
結奈「……(直樹をみて)えっと君は……」
直樹「(少し恥ずかしそうに)隣のクラスの直樹っていいます!」
結奈「……はあ」
直樹「あの……駅前のタピオカのお店知ってます?」
結奈「あ、あの美味しいところ?あそこ最近行ってないけど好きだよ!」
直樹「好き?」
結奈「あ、ごめん何でもない(慌てて)……それであそこのお店がどうしたの?」
直樹「今日からあそこの冬限定メニューが始まって美味しそうだから良かったら一緒にどうかなって!」
結奈「それはめっちゃ興味ある!いこいこー!」
直樹「よかった(嬉しそう)じゃあ明日とかどうですか?」
結奈「いいよ!明日の放課後いこ!」
直樹「はい!それじゃまた明日!」
  直樹、部屋を出ようとするが立ち止まって振り返る。
直樹「勇気出してお誘いして良かったです(笑顔で)」
結奈「……(少しドキッとする)」
  直樹、部屋を出る。
  直樹と入れ違いで友達の菜奈(18)が入ってくる。
菜奈「今の直樹くんじゃない?彼、モテるらしいよ」
結奈「へえー……でも見た目はごくごく普通な感じなのにね……」
菜奈「てか何?デートの約束でもしたの?」
結奈「デートじゃなくてタピオカ食べるだけだって……」
菜奈「またまた……それが恋のはじまりかもよー(からかう)」
結奈「まさか(冗談ぽく)」

○商店街の本屋(夕方)
  少し古い感じの店内。小説コーナーをみている結奈。
結奈(声)「にしても……好きって言葉がないと何が誘いかわかりにくいものね……」
  結奈、小説のとあるシリーズものをみつける。
結奈「あ、新刊出てる……読んでみようかな」
  結奈、レジに並ぶ。前で店主のおじいさんと女性客が会話をしている。
店主「ちゃんと見つけてくれたんだね~?(優しい声で)」
女性客「え」
店主「これ、君がきっと気に入ると思って実は表に置いておいたんだよ(ニコッとする)」
女性客「どうりですぐ手にとっちゃったわけですね(笑って)ありがとうございます。お身体はその後大丈夫ですか?」
店主「全然平気。君達みたいなお客さんが来てくれる限り長生きせんといかんからね(笑顔で)」
女性客「ふふ、また来ますね」
  女性客、結奈に会釈して通りすぎる。
結奈「……」

×      ×      ×

  帰りがけに入り口をチラッとみると夏目漱石特集が置かれている。
結奈(声)「夏目漱石特集ね……そういえば夏目漱石はアイラブユーを『月がきれいですね』とか訳してたっけ……」

○とあるコンビニ
  お弁当を持って並んでいる結奈。
  自分の前にはOLらしき人が会計をしている。店員は高校生のアルバイト。
店員「お箸つけますか?」
OL「はい、お願いします……」
  店員周りをチラッとみて他の店員がいないか確認する。
  と、お箸を10本くらいOLに渡す。
OL「いつもありがとうございます(その様子がおかしいようで少し笑って)」
店員「またお待ちしてます!」
結奈「……」
  OL立ち去っていく。店員はOLの後ろ姿をみている。
結奈、お弁当のレジに置く。
店員「お箸つけますか?」
結奈「あ、お願いします」
  と、店員お箸を1本だけ入れる。
結奈「……」
  結奈、怪訝な顔で店員を睨みつける。
  店員、不思議そうな表情。
結奈「ありがとうございます……」
  結奈、コンビニの外に出るとうっすら夜空に月がみえている。
  月をみて。
結奈(声)「『好き』がなくても世界は思った以上に素敵な言葉や仕草で溢れているのかもしれない……」

○タピオカの店(翌日の夕方)
  列に並んでいる結奈と直樹。
  自分たちの番が近づいてくる。
直樹「楽しみです!どんな味なんだろ!」
結奈「私、結構楽しみでお昼抜いてきたよ(笑って)」
直樹「なんと!じゃあ沢山食べなきゃですね!」
  楽しそうに会話する二人。
  と、二人の番になる。
直樹「これちょっと持てますか?」
  直樹、自分が持っている鞄を結奈に渡す。
結奈「うん……」
直樹「ありがとうございます!(ニコッ)」
  直樹、店員の方を向いて。
直樹「冬限定タピオカを2つください!」
店員「はい、1400円です」
  直樹、お金を置く。
結奈「あ、私も……」
  結奈、自分も払おうとするが手に直樹の鞄を持っているので財布が出せないことに気づく。
結奈「……」

×     ×      ×

  お店の横でタピオカを飲んでいる二人。
結奈「さっきの私の分払うよ……」
直樹「もう払っちゃったし大丈夫ですよ(笑顔で)」
結奈「……」
直樹「僕の鞄持ってたんでお財布出す必要なかったじゃないですか?僕先手打ったんです、お財布出せなくするために(照れくさそうに)」
結奈「……ありがとう」
結奈(声)「……なるほど、彼がモテるって言われてる理由がわかってきた気がする……」

○結奈の高校・廊下(翌日)
  廊下を歩いている結奈。通り過ぎるクラスでは『おはよー』の声が飛び交っている。
  直樹がいるクラスで立ち止まる結奈。廊下越しに直樹をみている。
結奈(声)「一つわかったことがある。いい男、モテる男はそもそも『好き』なんて言わないらしい」
  直樹がクラスの中で友達の輪の中心にいる。
結奈(声)「彼らにとって『好き』って言葉は必ずしも重要じゃないのだ。現に私もたった一回のお出かけだったが彼のことが気になってしまった……」
直樹、廊下越しの結奈の方を向いてニコッとする。
結奈(声)「……そしてそんな人に限って……」
  結奈、直樹の笑顔に答えて笑顔をつくる。
  と、結奈の横を1人のモデルのような見た目の亜美(18)が通り過ぎて直樹に抱き着く。
   直樹も嬉しそうに受け入れる。
結奈(声)「……そう……そんな人に限って……彼女がいる」

(つづく)