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発想の実際 『枯れ葉』の場合1

先日書いた発想の方法という記事の中で、完成形が見えずにスケッチブックやモニター上でああでもないこうでもないとやってなんとか形にする例を具体的に説明してみます。

ネット上にイラストの描き方のテクニック的な解説はあふれているものの、どうしてそういう絵を描くに至ったのかという思考過程の解説はあまり見かけないような気がして。感覚的でもあるので、思考の過程というほど大げさなものではないのですけどね。

一番最近の例で思い当たるのは、大島依提亜さんより依頼された、アキ・カウリスマキ監督『枯れ葉』という映画のアートポスターの仕事です。

オルタナティブポスターとはいえ、映画のポスターを描くのはとてもやり甲斐があって好きな仕事ですので、指名されると嬉しいです。ただし、個人的には映画の絵を描くのはかなり難しいと感じています。というのも、映画自体がビジュアルの作品ですから、人の作った絵を絵にするような感覚があって、映画のスチル写真のようにどこかの場面をそのまま描いてもあまり効果的ではないと思うからです。

元の作品が小説のように文字だけのものであれば、ビジュアルが存在しないため、場面を描くとしても自分なりのものになるので、そういう意味では自由な感じがします。尤もビジュアルが無い分、自分でリサーチしないと描けないのでその点は難しいわけですが。

さて、映画のポスターを描くに当たっては、当然のことながらまず試写会などで映画を見ます。それから打ち合わせをします。

大島さんからは、主人公の女性を僕の絵で見てみたいと言われました。ということは、風景だけとかではなく、主人公の女性を描くことが固定されます。それから、室内のシーンで、もう一人の主人公である男性と、犬もいた方がいいかもというディレクションがありました。こうなるとだいぶ描くべき内容が決まってきます。あとはどう構成するか、です。

まず室内なので、ではどこの部屋を描こうかと考えます。主人公の男性が住んでいた部屋、カフェ、バー、工場、病室など他にも選択肢が全く無いわけではなかったのですが、絵にできそうな部屋というと、やはり二人が夕食を食べた女性のアパート以外はないという結論に至りました。

このときに映画の一場面をそのまま描くという考えはありません。そういうものは公式ポスターの写真が担っているからです。

部屋を決めたところで、人物をどう配置するか、どのような角度から描くか、ライティングをどうするかなどを考えます。つまり、まだ頭の中にこういう絵というビジュアルは見えていません。

つづく

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