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【短編】新たな世界への誘い

 主人公の一人が、登場人物の中でも一際目立たなさそうに描かれていた彼女に焦点をあて、ここまでにあった出来事を彼女の行動と共に整理していく。目立つ人々の影に隠れてあれやこれやと小間使いのように働かされているふりをしながら、その実、裏で操っていたらしい。
 よくあるミステリの展開だなと思いつつも、心理描写や情景描写が見事で文章に引き込まれていく。王道だけれど、王道じゃない動機や心理戦によって読者を虜にする手腕は素晴らしいとしか言いようが無かった。
 パタン、と最後の一文まで読んで、満足の感嘆と共に手にしていた文庫本を閉じる。
 ああ、面白かった。
 読み終えた時の満足感と、充足感、そして自分の思考が及ばない範囲まで考えつくされたストーリーに向ける尊敬の念。それらが一体となって自分を包む、この読了後独特の感覚は何とも言えない。

 ありがちだけど、実際にはありえない苦難の連続に手に汗を握ってしまう。イケメンが自分なんかを気にかけるなんて、とか、女同士の争いに巻き込まれたりとか、彼側にも問題があって告白するにできない状況だったりとか。でも、それらの障害を全て乗り越えて晴れて結ばれた二人は物語の中で幸せそうに笑っている、んだろうと思う。文字だから笑顔で笑っているというシーンを想像するしかできないけれど。
 ああ、よかった。
 ドキドキしたりハラハラしたり、折角両想いなのにと思いつつも、それを知るのは両者の心理描写が描かれている事を読んだ読者だけ。物語の人物たちはもちろんお互いの心を知る由もない。だからこその、それぞれが乗り越えた苦難を思い、努力し最終的に結ばれた事が嬉しくて、満足して、ほうっと幸せな溜息をつきながら手にしていた文庫本を閉じた。
 現実には必ずしも結ばれるばかりではない恋物語は、お話の中では結ばれる事の方が多い。そんな幸せな物語の余韻に浸りながら、いつか自分もこんな経験をと思いつつ、主人公たちの未来は描かれていないけれど、未来があるならお幸せにと祈ってしまう。

 満ち足りた心と、読み終えてしまったというほんの少しの寂しさと。次はどんな本があるだろうという期待感を持って、玄関ドアを開ける。
 折角の長期休暇。時間はたっぷりある。何冊読めるかな、沢山じゃなくていい、満足できる物語に出会えれば。それに文庫を選べばカバンに忍ばせておいて、ちょっとした空き時間に読み進めることだって出来る。…尤も、少しだけと思って読み始めたら気が付けば30分1時間過ぎていた、なんていうのはザラだけれど。
 新たな物語との邂逅に思いを馳せ、素敵な物語が沢山居並ぶ場所へ向かって歩みを進めていく。
 貸し出しカードを手に、財布を手に、それぞれの目的地へ。
 そしてまた新しい物語の世界に耽り、知らなかった知識を得て、描いてくださった作者に感謝の意と尊敬の念を向けるのだ。


 本日は「ナツイチの日」だそうです。日本記念日協会様より。

 出版社さんの、文庫本を一冊読もうというキャンペーンですね。夏休みの時期になると、本屋さんのポスターで帯でよく目にします。
 noteにいらっしゃるnoterさん達はむしろキャンペーンがなくとも読まれる方ばかりなのかなと思いますが、世間には本を全く読まない受け付けないという方もいらっしゃるようなので、こういったキャンペーンはよい切っ掛けになり得るのかなと。
 先人たちの知識が詰まった本はとても良い教材であり、娯楽であると自分では認識しています。思いがけない展開や、知らなかった知識等、自分にはないものを沢山気づかせてくれます。この夏、私も新しい本に、一冊といわず何冊でも、読んで知識を気付きを得たいと思います。

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