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祖母と小説と映画と

私はときどき、祖母と二人で映画を観に行く。
幼い頃から両親共働きで、私は必然と祖母と過ごす時間が長かった。いろんな所に連れて行って、いろんな経験をさせてくれた。私は祖母のことが大好きだったと思う。
お揃いのマリリン・モンローのTシャツも持っている。
この前は、アナログを観に行って、二人で号泣した。
これからもこんな時間が続いてほしいと心から思うのに、幸せな時間が増えれば増えるほど、過去の過ちに胸が苦しくなるんだ。

小学生の頃、母が「ばぁばばっかり…」と溢すのを聞いてしまったことがあった。母の悲しそうな顔が今でも脳裏に焼き付いている。
母のことも大好きだった私は、不自然に祖母と距離を置くようになってしまった。中学校に上がる頃には、祖母のことを無意味に無視するようになっていた。
反抗期?そんなかわいい言葉で片付けちゃいけないような気がする。祖母の手料理を残したり、拒絶したり、鬱陶しく思ったり、汚らわしく思ったり。故意に祖母のことを嫌っていた。
傷付けたり、傷ついたり、中学生なりに人間関係に疲れていた私は、学校で孤立していた。その反動で祖母に当たっていたのかもしれない。そのくらい私にとって祖母は近い存在だった。

孤独だった当時の私は、勉強するしかなかった。唯一のオアシスは図書室で、新刊コーナーを物色するのが楽しみだった。
『旅猫リポート』
見覚えのあるタイトルに自然と手が伸びる。祖母が面白いのが始まったと、週刊誌の切り抜きをくれていたのと同じタイトルだったのだ。書籍化した小説をこっそり読んで、私はこっそり泣いた。
父の転勤が決まったのがちょうどその頃だった。
祖母が出会わせてくれた悟とナナの物語。面白かったって報告することができないまま、私は10年近く過ごした祖母宅を離れることになった。

そして、17の冬、父が他界した。
地元に戻ってきていたけれど、祖母に会うことはなかった。
どんな顔して会いに行けばいいのか分からなかった。
分からないけれど、『旅猫リポート』が映画化する。
『植物図鑑』以来の有川浩さんと三木康一郎監督のタッグ。
絶対見せてあげたくて、19の秋、私は父の葬儀ぶりに祖母に連絡をした。

暗い映画館、表情は見えなかったけれど、隣で祖母も泣いていた。
隣から鼻をすする音が聞こえて、余計に目元が緩んだ。
「いい映画だったね、誘ってくれてありがとう」
祖母が言ってくれたのが嬉しくて、また泣きそうになるのを我慢した。

あれから5年、今年で25になる。今でも小説や映画が大好きだ。
祖母も相変わらず元気で、過剰なくらい私たち家族のことを心配してくれる。ちょっと鬱陶しいけれど、感謝してる。成人式のときは、私よりも同級生と楽しそうに話す祖母の姿を見て思わず笑ってしまった。幼かった私は、小説が面白かったって伝えられなかったけれど、今なら素直に言える。映画館で一緒に涙を流せる時間が心地良い。それに、たぶん私は祖母が好きだ。

映画を観ていたらいろんな家族の形に出会うし、私と祖母の関係性があるように、私と母の間にも物語があって、母と祖母にもきっと物語があるはずだし、それでいいと思う。だから、私は大好きな祖母や母、それぞれとの関係性をこれからも大切にしていきたいんだ。

今度はどんな映画を観に行こうかな。

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