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戦術論:オリエンテーリングスタイルとは?その必要性と分類

※すごく主観的な技術論になっちゃいました。こういう考え方・アプローチもあるんだなと、異なる意見でも非難せず、温かい目で読んでいただければ幸いです。

こんにちは、東北大OB1年目の北見です。
毎年オリエンティアAdventCalendarを楽しみにしている東北一のアドベントカレンダーファンです。今年は自分も何か発信したい衝動に駆られた勢いで、22日目に書かせていただきます。

まず初めましての方に自己紹介をすると、主な実績は世界大会出場経験やインカレロング2019での入賞などです。インカレスプリントロング2019では両日ともミス率最低でして走力より技術力に自信がある技巧派オリエンティアを自称しています。最近だと、11月の東北大大会でも2日連続ミス率最低でした。2日目のミドルでチャンピオン小牧に勝ってから小牧に誰も勝っていないので実質日本で2番目に速い人になります?

この記事では、オリエンテーリングスタイルについて話します。始めにその必要性を他のスポーツを例にしながら説明し、次に具体的にどういうスタイルが存在するのか分類分けして説明します。最後に所感と競技スポーツとしての発展への期待を述べて締めとします。長いですが、お付き合いください。

はじめに

突然ですが、あなたはどんなスタイルでオリエンテーリングをやっていますか?
ポストで止まって完全に読み切るスタイルですか?止まらないことを心がけていますか?足に自信があるから道巻きを選びがちですか?それとも、全てを勘に頼ってやっていますか?....思考を伴うスポーツであるので、人それぞれ自分なりに考えており自分だけのオリエンテーリングスタイルがあると思います。
私は、競技中に最も意識する軸であるスタイルを確立することがオリエンテーリングの速くなる一番の近道だと考えております。

テニスを例に挙げると、主要な四大大会ではテニスコートの種類が大会によって異なります。それぞれでボールの跳ね返りが変わるため、コートによって相性の良い戦い方が存在します。一流選手はもちろんその戦い方を知っているので戦い方を変えてプレーしています。しかし、最適な戦い方を知り尽くしている一流選手達でも同じ戦い方をしている選手はいません。皆、自分の武器を軸としてプレーし、コートによる違いにはあくまでも適応させるだけであり、根底の戦い方は変えていません
私は、テニスでいうコートの種類がテレインの数だけ存在するオリエンテーリングでも同じことが言えると思います。自分の強みを考え、強みを据えたスタイルを確立して、スタイルをもとに競技をする。スポーツの基本ともいえる考え方です。
他のスポーツでも存在する戦術というものが私は好きでスポーツ観戦の時はそこに目が行きます。特にサッカーは戦術が発達しており見応えがあります。(個人的には、最近のストーミングとかより全て自分らでコントロールするバルセロナのティキタカが好きでした...)

そこで、オリエンテーリングでも戦術なるものを取り入れてみて、主要なスタイルを提示してみます。
しかし、そのスタイルとは戦術の【大枠】にすぎず、細かい実践法は端折った(全て挙げるとキリがない)ことを理解していただきたいです。聞かれれば、答えられる範囲でお答えします。まだ競技歴5年のペーペーなので本質を理解できていない点もあると思いますが、自分なりの見解を書いてみます。
一度だっちゃ(東北大OLCの部誌。正式名称はだっちゃっでけさい。由来は知らない)にこのテーマで掲載したところ好評を博しました(たぶん)。この記事はその改良版になります。
この記事を書いたのは、読んだ皆さんから自分の考えるオリエンテーリングスタイルについての意見を聞きたかったためです。皆さんから反応が貰えたらうれしいです。

それでは、はじめの言葉はこのくらいで、次からもう少し戦術について掘り下げていきます。

※書き終えて思ったのが、この記事は上手くコースを回るための技術論ではありません。ある程度のタイムで回れる技術を前提として、そこから速くなるために必要なことを書いた記事なので、それを踏まえて読んでもらいたいです。

オリエンテーリングの戦術とは?

オリエンテーリングは様々な他のスポーツに漏れず、競技をする上で習得すべき技術があります。読図の仕方や不整地の走り方、ルートチョイス、直進、コンタリング、エイミングオフ...などなど他にも多数あります。しかし今回は、オリエンテーリングにおける技術ではなく、戦略戦術を考えてみようと思います。ルートプランのことではありません。オリエンテーリングにおける戦術とは、次のポストにどうやって到達するか、ではなく、どうやって到達するかをどのように考えようか、という理論のことです。

ネットで多く見られる技術論にはルートプランの立て方や整置の仕方、地図表現の説明などの基礎・基本動作はとても丁寧に書かれています。これらができないとオリエンテーリングを走ってはおろか、歩いてもできないほど大切な基礎です。サッカーで言うと、パスやドリブル、シュートなどです。
次に、技術論ではなく戦術論を探してみたところ全然見つからず、リロケート型・シンプリファイ型の簡単な説明すらありませんでした。(実はあったらすみません。教えてください。)
過激に言うとこれは、パスやシュート、ドリブルの仕方を知り、球蹴りができて満足しているだけでサッカーを知っているとは言えないようなものです。サッカーに勝つため最も重要なのは、正確なパス、速いドリブル、力強いシュートではなく、点を取るための戦術ではないでしょうか?点を取ることがサッカーでは一番大切なことです。点を取るためには戦術を練り、その戦術に合わせて、一つ一つの基礎技術を組み立てる必要があります。

オリエンテーリングも同じです。
オリエンテーリングで勝つには、レース全体で速くゴールすることが一番大切です。正確な地図読みができてなくても、ベスト想定のルートを辿っていなくても、アタック・脱出で止まって変な方向に進んでも、なんでも、速ければいいのです。綺麗な止まらないアタック・脱出は見栄え良いですが、魅せる走りが目的ではなく、速くゴールすることが大切な目的です。

どうやって速くゴールするか?これは戦略です。

また、オリエンテーリングは流れのスポーツであり、ゴールするまで仕切り直す暇はなく、常に時計の針は進みます。なので、脱出、ナビゲーション、アタック…をそれぞれ分けて考えるのではなく一貫したビジョンを持って行うべきです。
オリエンテーリングにおいて、全ての動作をスムーズにこなすことが理想だと私は思いません。サッカーで時に後ろ向き(ゴール方向と逆)にパスを出したり、わざと相手にボールを持たせたりするのと同様、目的(速くゴールする)に向けて練ったビジョンに沿ってレースを走るべきです。そのビジョンに合わせて全ての動作に意味を持たせなければ、一つ一つの動作は間違っていなくても全体を通すとちぐはぐな動きになってしまいます。それを律するのがビジョンでありスタイルです。

一貫した自分の軸となるビジョンが戦術・スタイルです。

※要改善(考察しきれていません。)
目的…勝つ行動
速くゴールする
戦略…目的達成のための道筋
タイムを削る
・速く移動する、ナビゲーションする、プランを立てる。速いルートを見つける。
戦術(スタイル)…戦略を実行する方法、戦い方
・リロケート型、シンプリファイ型、ストップ&ゴーなど
技術…戦術を実行する手段
・現地⇄地図の対応、ルートプラン、直進、コンタリングなど

スタイルはオリエンテーリングの力量を測るものさしでもあります。自分のスタイルを持つことにより、このスタイルで必要とされる技術で不足しているものは何か?特殊なテレインの対処法はどうするべきか?といった疑問への回答が見つけやすくなります。そして練習すべきことが分かり、コンセプトを持った練習、行動の意識付けに繋がっていきます。コンセプトのない練習より格段に練習効率は上がります。整った水路を作ると水は流れて欲しい方向に自然と流れてくれるものです。

ということで、戦術やスタイルの必要性をなんとなく認めてもらえたでしょうか?次からようやく本題のスタイルの分類に入ります。

オリエンテーリングスタイルの従来の使用例

皆さんはオリエンスタイルと聞いてどんなものを想像しますか?
足が速いから走力派や地図読みが得意な技巧派とか止まらないとか大雑把なスタイルではなくもう少し戦術的に考えてみます。
代表的なオリエンスタイルとしてシンプリファイ型リロケート型が挙げられると思います。ネット上にこれらの説明がありませんが、他大の人と話しても通じるので各学校の部誌などに書いてあるのか不思議です。(もしくは口伝…?)

簡単に説明すると「シンプリファイ型」はシンプルにプランを立て、出てくる特徴物を予想し、照らし合わせて進むオリエンテーリングです。一方、「リロケート型」は出てきた特徴物から現在地を把握して進路を修正しながら進むオリエンテーリングです。それぞれsimplify(簡略化する)とrelocate(再配置する)の英単語を語源とし、simplifyはプランを簡略化する技術、relocateは現在地が分からない状態から現在地を把握する技術です。使う技術がスタイルの名前になった例ですね。使われ方はこのような感じで合ってると思います。

他にもストップ&ゴーなど聞いたことあるのではないでしょうか?それら、なんとなくで使われていたスタイルを分類して定義づけするのが目的です。
競技をする上で核となる概念を挙げ、それに対する数種類の考え方によって分類しました。


①地図と現地の対応方法による分類

オリエンテーリングの最も基本的な技術は地図と現地の対応です。オリエンテーリングはナビゲーションスポーツであり、地図を持つことが最大の特徴です。与えられた地図からいかに的確な情報を効率的に得られるかが鍵となります。

そして、この対応には地図→現地・現地→地図の2方向からの対応法があります。

地図→現地の対応
地図に描かれた地形・記号・藪などが実際にどのように広がっているか想像し、頭の中の地図イメージと現地を対応させる
現地→地図の対応
現地に広がっている地形・藪・特徴物を見て、地図にはどのように描かれているか想像し、頭の中の地図イメージとomapを対応させる

2つのものを対応させようとする際、2つを同時に認識することはできず、必ずどちらか一方を始めに認めなければなりません。始めに地図と現地どちらをみるかという分類になります。
この2つの対応法のどちらを【重視】するかによってスタイルが分けられます。

地図先行型(旧:シンプリファイ型)
さきに地図を読み、どのような地形が現れるかを予測しながら走り、現地の特徴物を確認しながら進む
現地先行型(旧:リロケート型)
現地の特徴物を見つけたら、地図で現在地を把握し、次に進む方向に進路を修正しながら進む

これが今までのシンプリファイ型・リロケート型の分け方です。
これらは、極端に言うと地図上でオリエンテーリングをするか、現地でオリエンテーリングをするかという違いです。

1.1 地図先行型

次のポストに着くまでに必要な情報を的確に地図から把握します。この型のポイントはここです。覚えて認識する情報が少ないと途中で止まったり、見当違いな方向に進んでしまい、情報が多いと一つ一つ確認しようとしてスピードがでません。過不足無い適度な情報の抜き取りが必要です。上級者は的確な地図イメージを頭の中で描き、その頭の地図上で自分を動かし、特徴物が出てきたら地図を更新して進みます。地図を更新する作業はゲームの薄く描かれた地図において通過した地点は濃く塗りつぶされるイメージと同じです。
また、地図先行型は初心者向けなスタイルでもあります。初心者は地図と現地の対応が難しく、とりわけ慣れが必要な地形イメージの認識は身につくまで時間がかかり、いきなり現地で回ることは無理です。一方、地図では記号さえ覚えてしまえば、ルートは誰でも考えつき、指を動かしてコースを回ることができます。まさしく、地図でオリエンテーリングをしている状態です。初心者は現地に行っても頼るのは乏しい地形イメージではなく理解できる地図です。中でも直感的にイメージしやすい道を頼りにし、道を走って次の分岐で右に、その次はまっすぐ行って2つ目を左に...みたいにあり、現地でも地図上だけでオリエンテーリングしてしまっています。なんとか地図から脱出したいですね。(話が逸れました)
このスタイルは自分を完全に律します。自らに的確に指示を与え制御しているので思わぬミスは少なく、プランに自信があればその分移動スピードを上げられます。不安要素を全て取り除き、自分も自然をも地図のもとに掌握する完璧なオリエンテーリングが理想とされるスタイルです。
このスタイルの問題点は、適切なプラン立ての難しさや立てる時間がかかること、予期していない不測の事態に陥ったときの対処などです。

自分を完全に律して、自分も自然をも地図のもとに掌握する。

1.2 現地先行型

こちらは現地情報を最も大切にし、リロケートをプランの保険と思わず要として使い、現地→地図の対応力の高さが求められます。と言ってもレッグの始まりでいきなりリロケートをしても進めないのでもちろん、ある程度地図からレッグの情報を得ます。しかし、地図→現地型ほど完璧なプランは立てず、ある程度に留めます。なぜなら、現地先行型はずれは仕方ないと割り切り、そのずれをいかに拡げずに最小限に抑えて元に戻せるか(リスクマネジメント)という考えが根底にあるからです。ずれとは認識のずれ、感覚のずれ、地形のずれなど目的のものから外れているもの全てを指します。
おぼろげな地図が頭の中にある状態で進み、移動中は足を動かしながらも周りを見回し、見つけた周囲の特徴物情報を正確に見抜き、地図と照らし合わせて現在地を確認する繰り返しです。移動中は現在地を確認しないので現ロス状態です。地図情報を最小限にする際、レッグ攻略に一番必要なレッグ線方向をうまく使うために、このスタイルにはコンパスが欠かせません。移動する方向、移動している方向の確認回数は多くする必要がありますが、コンパスを見るのは地図を読むのと異なり、瞬時にできるので問題ありません。また、このスタイルは自由度を持たせていることも特徴です。
あり得ないことですが、コースが書かれた紙の地図を介さずにプランを立てることができれば地図を必要としない現地だけでオリエンテーリングができるスタイルです。なので、理想型は、地図をほとんど介さずに現地からすぐに現在地を把握して進み、瞬時に現地→地図を対応することでトップスピードで走り続ける高速オリエンテーリングです。
一方、スピードを出す際に求められる現地→地図の対応力の高さ、雑なプランによる大きなルート負けなどが問題とされます。

ずれを前提にスピードを上げ、そのずれを素早く戻す。

1.3 割合で区切る考え方

この2つの極端なスタイルをより実践的に考えると、地図→現地・現地→地図の対応の使い分けを割合で区切る考え方があります。実際には二つの対応法どちらも使っており、意識して使う割合によって人それぞれのスタイルが分類されます。

地図→現地 : 現地→地図 = ◯ : ◯

10:0 地図で完全にプランを立てきって現地と頭の地図を照らし合わせる地図先行型の究極系

9〜6:1〜4 ほぼ完全なプランを地図で立てきるが、頭への地図変換は完璧には行わず、出てきた特徴物での現在地把握には現地→地図を使う。地図先行型。

5:5 プランに現地→地図をするポイントを設定して現地→地図と地図→現地を交互に繰り返す。

4〜1:6〜9 地図上でのプラン設定をほどほどにして、現在地把握のために現地→地図を上手に使う。現地先行型。

0:10 次の目的地を認められないので、実践は不可能。

②ナビゲーション方法による分類

また、別の分類法として挙げられるのはナビゲーション方法による分類です。ナビゲーションとは、現在地から目的地まで現在地を追いながら導くことであると考えています。その方法なので、レッグ間の現在地の追い方をどのようにするかが問われます。つまり重要になるのは、いつ現在地を把握するか=いつ地図を読むか=いつ減速・止まるかという点です。全力で走ってもナビゲーションができる超人ならこの分類は当てはまりませんね。

ストップ&ゴー(移動前)
ポスト(もしくはチェックポイント毎)で止まって完全に読み切り覚えてしまって、頭の地図と現地を対応しながら進む
ヌルヌル(移動中)
プランを立てながら,現れる地形を地図で常に追いながら止まらず進む
ゴー&ストップ(移動後)
大まかなプランで方向維持しながら進んで,現れた特徴物で現在地を把握するために止まって確認してまた進む

さっきの分類とほとんど同じじゃないかと思われるかもしれませんが、戦い方が似たようになっても、軸となるものが異なれば、別の戦い方です。数学が苦手だから点数を上げようと勉強するのも、得意だから点数を稼ぐために勉強するのも、動機は真逆ですがやっていることは同じ数学のテスト勉強というのと同じことです。

この分類はつまり、レッグ間のどのタイミングに重きを置くかということにもなります。移動を伴うスポーツなのでざっくり移動前中後に減速・止まるという形で分けました。

2.1 ストップ&ゴー

一般的な基本的なオリエンスタイルです。移動前にチョイスやプランの諸々のことをやってしまいます。動き出す前にプランを読み切れ!ってよく言われますよね。それを忠実に守ったやり方で自分をコントロールしやすい特徴があります。ストップして先のプランを考えてインプットして、次にそれをアウトプットしながらゴーする非常に分かりやすい理論になっているので実行しやすいです。
また、メリハリを明確につけられることもメリットですね。移動前に止まってでもプランを考える時間を設けることで、移動する時間が設定されてその間はスピードを上げられます。そして、ラフ・ファインと呼ばれる、走るだけで良い区間・集中する区間の設定もつけることが容易でメリハリをつけられ、スピードを上げるべき場所で上げられます。
小技を言うと、ストップ&ゴーでのサムリーディング法は次のチェックポイント(CP)に親指を定めます。

メリハリをつけて自分を完全にコントロールする。

2.2 ヌルヌル

ヌルヌルって表現を東北大ではよく使いますが、一般的かは分かりません。移動に滞りがなくナビゲーションが滑らかに進むイメージです。昔のドット絵ゲームから最新のゲーム画面見ると滑らかに動いている、そんな感じです。
現在地を常に追うので大ミスはしないオリエンテーリングになります。少しミスをしても適宜修正し、他に良いルートを見つけたらそっちに乗り換えられる臨機応変さが備わります。止まることで生まれる余計な焦りを払拭することも可能で、山も谷もなく淡々と一定のスピードでの安定したスタイルです。一定のスピードと言いながらも信号方式などを用いてもちろん適宜減速はします。このスタイルは移動しながら地図を読む必要があるので読図走が必須です。
競技し初めの頃がむしゃらに走っていたら、そんなに速くない一定のペースで走るおじさんにポストの度に会い、いつの間にか負けてた経験ありませんか?頑張って走ったのに…ってなりますよね。そのおじさんはおそらくこのヌルヌル型です。オリエンテーリング歴が長く、技術がしっかり身についておりナビゲーションには問題はないため、走力が律速になっているタイプですね。全部の動作スピードを一律して上げないと強みである臨機応変さが失われるので、スピードを上げるのが難しいです。安定したレースをこなすことはできるが、パンチが弱いスタイルです。しかし、オリエンテーリングスタイルを突き詰めると辿り着くのがヌルヌルのスピードMAX状態だと思うのですが、なかなか到達できない域になってます。このMAX状態はストップ&ゴーのストップを限りなく0にするオリエンテーリングであるという意見もあります。
ヌルヌル型のサムリーディングは、今いる現在地をピンポイントで指すことを適当に繰り返す必要があります。

その場に合わせて臨機応変に対応する。

2.3 ゴー&ストップ

もちろん、動き出す前に地図は読みます。けど大雑把に方向だけ定めてゴーし、出てきたものでストップしてリロケートします。このスタイルは先ほどの現地→地図型とセットです。ずれることを想定しているため、違和感で止まり、ずれを最小限に抑え、その少しのずれをゴー(走り)で補う脳筋スタイルとも言えます。
イメージとしてはバカみたいにスピードを上げたファシュタ時のオリエンテーリングになります。ファシュタを実力が同じくらいの人とやると負けたくないのでとりあえず走ります。そうすると相手も負けじと走るので現在地把握は最小限にして、何か特徴物が出てきたりアタック近づいたら減速してようやく確認するオリエンテーリングやったことありませんか?ファシュタの速さを求めて1人でそのオリエンテーリングをするスタイルがゴー&ストップです。
地図情報の認識程度を低くしているため、リロケート、つまり現地→地図の対応力が大いに求められます。移動後のリロケートを頼りにスピードを上げるので博打なオリエンテーリングとも言えます。当たれば速いが、想定外過ぎる場所に着いてしまうと大ミスになってしまいます。実践で扱うにはリスクマネジメントが重要となります。
サムリーディング方法は前いた地点から進んだ方向を大雑把に指し、地図読む範囲を限定させる目的で使います。

スピードを上げて走ることが正義。

分類の総括

とりあえずこの2つの考え方、現地⇄地図の対応・ナビゲーション方法をもとに分類をしてみました。リスクマネジメント方法など他の分類も検討しましたが、人によるスタイルの大きな違いはこれらの違いだと私は考えております。なんとなく納得していただけたでしょうか?

もちろん実際のオリエンテーリングではこれらのスタイルをテレインやレッグ毎に使い分ける必要があります

ここで、鬼滅の刃の主人公・竈門炭治郎を例に挙げます。彼は、敵(テレイン)、自分の技術力(会得した型や呼吸)、精神状態(ミスした時)などによって型を使い分けてますよね。また、炭治郎は途中で他の呼吸(スタイル)も身につけました。実践を繰り返すことでより自分に適するスタイルに彼は気づいたのです。これもオリエンテーリングで同じことが言えます。

また、ここまで読んでくださった皆さん気づいていると思いますが、オリエンスタイルによってプランは変わります。同じルートチョイスで同じ辿り方同じタイムでも見ているものや区間毎のタイムが異なるものです。プランの違いはスタイルの違いそのものをであり、プランにはオリエンスタイルが詰まっています。自分のスタイルを考えてこなかった方はどんなプランを立ててたか思い出してみると意識していたことが判明すると思います。

そして少し逸れますが、テレインやレッグに対する正解の戦い方は確かに存在するが、それは皆共通の正解ではなく、自分にとっての正解は別に存在する、と私は考えています。自分の特性を知ることが1番大事な反省であり、その特性に合わせたプレースタイルを磨くべきです。一流のゴルフ選手同士でもホールの攻略の仕方は違うし、テニスでもコートの違いに適応はさせるが、軸となるプレースタイルはぶれさせません。超一流のオールラウンダーでなければ、スタイルがぶれぶれな選手は勝ち筋が見えなく、決定打に欠けて勝てません。最近のサッカー日本代表(西野監督)も何がしたいか分からない、ビジョンがないから引き出しが少ないなどなど散々言われてますよね。同じことです。オリエンテーリングは村越真さんの言葉を借りると、自律的で自己完結型のスポーツです。そんなスポーツにおいて自分を支える軸がないのは致命的であると考えます。その軸は分類した一つのスタイルだけではなく、融合させた自分独自のスタイルを練り上げましょう。

上手くまとめられていませんが、分類に関しては以上です。次にこの分類のもとに私、北見のオリエンテーリングスタイルを説明してみます。

北見のオリエンテーリングスタイル

私は、2:8で現地→地図を重視する現地先行のゴー&ストップ型です。
プランは大雑把で、基本的にはラインをコンパスで太く長く引きます。移動中は無駄な現在地把握をせずに現ロス状態で進みながら、感覚を研ぎ澄ませてできるだけ多くの現地情報をインプットしています。想定していた特徴物、明らかにおかしい特徴物などは直ぐさま現地→地図の対応、できなければ先ほどのインプットからの現在地把握を行い、また走ります。円に入るor近づいたら再び現地→地図の対応で素早くアタックし、また繰り返します。
このオリエンテーリングは私の強みに合い、私にとってのオリエンテーリングの魅力にも一致するため最高のスタイルです。
説明するとまず、私の強みは現地→地図の対応力が高いことです。この対応力の高さを武器に戦おうとすると適当なスタイルは現地先行型です。また、完全なプランを立てること、覚えることがどうしてもできなく、地図→現地強めなスタイルは諦めていました。
現地先行型でもヌルヌル寄りかゴー&ストップ寄りかがあるのですが、私は完全にゴー&ストップ型です。これは、私にとってのオリエンテーリングの魅力が道を外れた森の中を走ることにあるからです。地図を見ず、ラフに森を駆け抜ける瞬間が大好きです。どうせなら好きなことをしたく、楽しいオリエンテーリングと速いオリエンテーリングを追求して今のスタイルになりました。
私の考えるオリエンテーリングの理想型は3:10くらいの現地先行のゴーゴー型です。全力で走りながらも、見える範囲の現地情報を全て瞬時に地図に落とし込める状態で、負けではないルートチョイスを選べる程度の地図情報の抜き取りができるオリエンテーリングです。やってみたいです。
私のスタイルの魅力を語り出したら止まりません。感覚的な表現をすると、自らを律し過ぎないため、自然に溶け込んでいます。冴える日は嗅覚が鋭くなりポストの臭いがします。嗅覚は五感の中で最も鈍感な感覚ですがそれを感じるとはもう全身で自然と一体化しています。テレインをどう攻略するかではなくどう仲良く遊ぶか、裏アドベントカレンダーにて田中さんが同じようなことをおっしゃっていましたね。私のスタイルはその楽しみ方を体現しています。
そして、自然と一体化した状態から地図を見ることで自分の現在地が分かり、大自然の中での確かな自分の存在が明らかになります。自分の居場所を自ら探し当てるのは楽しく、オリエンテーリングする度に自分探しの旅に出かけている気分です。

これが私のオリエンテーリングです。

実際のレッグを参考に

関東北東ミドルセレ2019の9-10が私のスタイルで速いレッグになるので、紹介します。プランを考えてみてください。

ミセレ2019例

皆さんどんなプランを立てましたか?私はこうです。

ミセレ2019例プラン

この3つです。省略したわけではなく本当にこの3つ以外のことはプランとして考えていません。時系列で解説します。
9ポでのプランでは①と②だけです。私はとりあえずスピードを上げたいのでストッパーが存在すればほぼ確実に使います。今回は②の壁が明確で外さない大きさのストッパーとして存在しており、ここまで走ることを決めました。壁までの道のりには色々と特徴物はありますが、通れるのでルートは真っ直ぐめに設定しました。C藪はもちろん避けますが、それはミクロなルートチョイスの一種なのでルートチョイスの段階で考慮するものではありません。C藪は局所的な存在なので少し避ければいいだけです。
それより、このレッグで大切なのは壁に当てるラフなコンパス直進です。壁に着けば良いので間はコンパスさえみてればいいです。ラフコンパスでのラインは地図上で北西40度のmmほどの太さで幅を持たせます。その4mmのライン内でミクロなルートチョイスを現地判断でこなしながら北西40度に向けて適宜修正を繰り返しています。
プランで拾って現在地把握に役立てることはありませんが、道のりの諸々は通る際にどんなものがあるか五感を鋭くして感じ取って記憶します。そうすると万が一大外れしていた時でも記憶を頼りにリロケートします。東北大OBの小林隆嗣さんはこれを過去のオリエンと表現していました。
②の壁に着いたら登ってアタックしますが、その登る場所は壁に着いてから考えます。プロ作成の地図には微妙な地形表現まで描かれているので、凹凸のない真っ平らなありえない地形は地図に描かれません。必ず地形には個性が宿るので壁を目の前にした時に感じ取れる地形があるだろうと考えながら突っ込んだ結果、③の沢がきれいに把握できるのでもうアタックまで終わりました。

スタイルが顕著な1レッグをざっくり紹介しました。文章だけでは全てを伝えられないのが非常にもどかしいです。独りよがりな表現が多くて分かりづらくて申し訳ありませんが、私北見のオリエンテーリングスタイル紹介は以上です。

他のオリエンテーリングスタイル(長岡、伊藤)

北見だけではなんなので、他の人のオリエンテーリングスタイルも紹介します。
ここでは、東北大同期の長岡のスタイルについて紹介します。速いことに加え、身長高くて目立つやつなのでご存知の方多いと思います。彼とは4年間ずっと高め合い、切磋琢磨してお互い速くなりましたが、強みや速さの考え方が異なり真逆のスタイルです。
長岡スタイルのコンセプトはフルナビゲーション。レッグの始まりで完全にプランを立てて頭に地図を描く。その完璧な頭の地図でずっとナビゲーションするオリエンテーリングで、今回の分類でいうところの10:0の地図先行型になります。完全に嵌ったゾーン状態の日はフォレストも街中を走るくらいナビゲーションが瞬時にでき、ギリギリのナビゲーションを攻めるような駆け引きみたいなものがなくなる完全に走るだけのオリエンテーリングになるようです。理解はできますが実践はできるわけないと思うのが本音です。(長岡も北見スタイルにはたぶん同じ考え)
前に静岡での合宿中のレースで長岡と併走する機会があり、その出来事が強く印象に残っています。
同じコースでポストを2人同時にパンチしました。その後、私はレッグ線方向にすぐに脱出する中、彼は止まって丁寧にプランを立てるためここでは私がリードします。レッグ間、私は特徴物が出てきたら現在地を把握するために地図を読んで減速します。一方、長岡は頭の地図を駆使して減速をあまりせず、どんどん差を縮めてきます。そして、次のポストに着く頃には横に並んでおり再び同時にパンチする、この繰り返しでした。4年目の冬合宿の出来事だったので当時の私たちはインカレ選手権入賞レベルです。そのレベルの2人が異なる戦略で結局同じタイムになるのは興味深いですよね。もちろんスピードに有意な差をつけず、それぞれの普段通りのオリエンテーリングをしました。
さらに面白いことは、2人それぞれのルートや現在地把握に用いた特徴物に差はほとんど見られないことです。スタイルによって同じものでも捉え方が異なることをこの時、身をもって理解しました。

伊藤も東北大同期の速いやつですが、彼には先ほど紹介したレッグ(9-10)を見てもらいました。
彼のプランは私とルート・見るものは同じだけど、9ポで一呼吸置いてレッグ間のリスクマネジメントをするそうです。ここでいうリスクマネジメントは、あらかじめ見えるもの・ずれた時に見えるものを地図で想定しておくことです。つまり、私が2:8の現地先行なら彼は3:7の現地先行型のスタイルです。現地に頼りすぎず、地図情報も当てにするオリエンテーリングになります。
彼はもともと顔を上げる意識が弱いことを課題としており、前は現地→地図の割合が小さいスタイルでした。ミスをしてしまう原因がそこにあると考え、顔を上げて現地→地図を意識して高めると速いオリエンテーリングができるようになっていました。彼は3:7スタイルを目指して練習していました。


所感:さいごに言いたいこと

以上で主な内容は終わりです。ここからは書き留めたことをだらだらと記します。

・どんなテレイン・状況でどのスタイルが使えるかはまた後日まとめようかと思います。

・ゴルフはオリエンテーリングに似てるスポーツですよね。18ホールそれぞれコースが異なるためその都度どう攻略するか考えます。グリーン上でのパターはアタックに類似していてたどり着くまでとは異なる技術が必要です。
ゴルフは一度ボールを打つと修正が効かず、現地先行的な考えはできないので地図先行的なストップ&ゴーですね。繋ぎの速さを競わないので、的確なプランをどう練り上げ実行できるかにかかっています。
ゴルフは詳しくないのでよく分かりませんが、オリエンテーリングにも使えそうな理論があれば取り入れてみたいです。

・本当は海外の先進的な技術を知るべきなんですよね。ジョルジュのThe wining eyeとか気になります。最先端の技術は積極的に取り入れるべきなのは分かっていますが、面倒くさがってしまっています。詳しい方教えてください。関係ありませんが、典型的な北欧の微地形拡がるテレインは現地先行型が相応しいと考えています。

・こんなに書いておきながらなんですが、私自身はバリバリの感覚派オリエンティアで言語化がとても苦手です。私を知る人は北見がこんなに考えてオリエンテーリングをしてたのかと驚いていることでしょう。けどスタイルの紹介時に言った通り、競技中は感覚に全振りしてパーッて走って、(考えるということが言語を操ることなら)何も考えずに直感でやってます。五感を駆使して体に覚えさせることでオリエンテーリングを理解し、理解したものを言語を介さずに直感を身体的推論として駆使して競技をするタイプです。
競技中に言語の介入の余地はないので何も問題ないのですが、人に教える・伝える行いは言語がなければ成り立ちません。先ほども出てきた長岡や光祐などの理論的な考え方ができる人にどうにかして私のオリエンテーリングの魅力を伝えたい!という思いを原動力に言語化は鍛えました。言語化は相手に伝えられるようになるだけでなく、自分のスタイルをより深く知れ、相手のスタイルの理解に繋がり、オリエンテーリングが速くなります。全国の感覚派ティア、言語化しましょう

・オリエンティアアドベントカレンダーの唯一気になる点が、生粋の技術論を語る記事が少ないことです。運営裏話や発信の様子、様々なオリエンテーリングの関わり方などの記事はもちろんオリエンテーリング界発展の助けとなりますが、もっと競技について話して良いのでは?と感じるのが正直なところです。オリエンティアはオリエンテーリングプレイヤーです。僕らが競技スポーツとしてのオリエンテーリングを前に進めなければなりません。競技スポーツの成熟には技術や戦術ノウハウの蓄積が必要だと考えています。技術や戦術が更新されないスポーツは時代遅れなスポーツになってしまいます。今でも何十年前の技術書が使えている状況はスポーツとして発展していないことを表しており、致命的だとも思います。基礎が変わることはありませんが、考え方・戦術は更新されていくものです。そんな思いもあり、今回技術論を投稿することにしました。もっと競技歴が長い熟練ティアのオリエンテーリングスタイル論を聞いてみたいです。他大の技術書も読んでみたいです。活発に議論して技術を進展させましょう!!!!

皆のオリエンテーリングスタイルを聞かせてください!
(O-Tower、ONN、オーラジ、FORSTAにこの思いよ届け…!)


参考文献
東北大OLCの偉大な先輩方による数々の技術講座(特に小林隆嗣さん)
過去のオリエンティアアドベントカレンダー
サルでも走れるオリエンテーリング(一番の技術書。上手くなるにはこれ)

Special thanks to  平山さん、大橋(ミセレ運営にて)長岡、光祐(記事へのアドバイスと4年間積み重ねた議論に)

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