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椿が満開!


「姫、うちの庭、椿が満開ですよー!」

「おお、少し、季節外れじゃのう!?」

「普通、2月から3月くらいですよね。寒くなって。それがしばらく続いて、その後暖かくなり始めて、それもしばらく続く!みたいなことが大切って聞いたことありますよ。」

「桜なんかも、春に咲いたのに、秋にもう一回、咲くことがあるなぁ。」

「なんででしょうね?」

「植物の開花の仕組みについては、分子レベルでの研究もどんどん進んでいるけど、基本的に何かのイベントを発生させるためには、何かのスイッチングメカニズムが必要なんじゃよな。」

「脳があって、今、春だから、そろそろ花を咲かそう!って考えてるわけではないはずだから、不思議ですよね。」

「脳のある動物についても、脳があまりにも発達していると、返って、その機能が重要視されすぎることもあるんじゃよね。もっと、原始的(単純なという意味ではないことに注意!)な仕組みが、分子レベルで、複雑に絡まっていることがどんどんわかってきている。」

「例えば、”季節を知る”とか、”タイミングを度る”とか、どんなシステムが働いていますか?」

「すごく、原始的な仕組みで有名なのは、概日周期、概日リズム、体内時計などのシステムかな?」

「ん?それが季節とどういう関係があるんですか?」

「かなり原始的な生物でも、この概日周期を細胞レベルで持っていることが知られているんじゃよ。例えば、単細胞生物のバクテリアの一種の”シアノバクテリア”ですでに、概日リズムが知られている。顕微鏡で見ないと見えないような連中だが、今、何時、今何時、って知ってるわけじゃよね。」

「えー!?不思議ですね?それって、どういうことですか?」

「細かい、細胞・分子レベルのことは、妾も専門外で、いい加減なことは言えないけどな。基本的に”時計遺伝子”というのが、DNAのある部分に書き込まれていて、それを転写・翻訳して、”時計タンパク質”というのが、合成される。」

「それの転写・翻訳周期が、24時間で周期的に変わるんですか?」

「ああ、まあ、それもあるけど、時計タンパクの分子修飾子による修飾が、24時間周期で変わることが知られている。」

「分子?修飾子???なんですかそれ???」

「生化学的に、時計タンパクに結合して、その”状態”を変化させるものじゃが、メチル基とか、リン酸基とか、な、有名なんじゃよね。」

「ちょっと、ややこしい感じですね?」

「まあ、例えば、リン酸は、エネルギー代謝にとって、とても大切な修飾を行う。エネルギー代謝は、光合成や呼吸と基本的に関わっているんじゃけどな。これは、ものすごく大ざっぱにいうと酸化・還元反応をゆっくりと行うことで、そこから得られたり、消費されたりするエネルギーを用いて、さらに、細胞レベル、ひいては、個体レベルで有用な他の生体反応を引き起こす。」

「発電所で電気を作って、そのエネルギーで、TV見たり、食事作ったり、みたいなことですか?」

「比喩は使いすぎないことが重要じゃが、最初の一歩としてはそういうイメージでもいいじゃろ。」

「で、例えば、シアノバクテリアだけど、これはバクテリアじゃが、光合成を行う。光合成は、太陽の光が必要だから、”そろそろ朝だよ!”って情報を得ることが大切じゃろ?」

「そうですね、日が昇ってから慌てるより、その前から準備できたほうが効率がいいに決まっていますね。」

「そのために、こんな20億年程度前(諸説あり)にできたと考えられるバクテリアにすでに、その機能が獲得されたと考えられるんじゃよね。」

「へー、信じられないけど、凄いですね!」

「そう、すると、ミクロンスケールの大きさのこのバクテリアは、”今何時!?♩”って聞くと、”そぉーね、だいたーいねー!♬”ってちゃんと知ってるんじゃよね。」

「ん?不思議すぎて、何を言ってるかわかりません。」

「サザンのCDも持ってるらしいぞ!シアノバクテリア!!!」

「真面目に聞いてるんですけど、😡」

「あはは、つまり、ある種のシアノバクテリアを詳しく調べた研究者グループがあって、ワイルドタイプでは、朝の1時間くらい前から、ちゃんと、光合成の準備を、毎日毎日始めるんじゃよね。」

「分子レベルで?」

「そう、つか、単細胞のバクテリアだから、すでに存在が細胞レベル!」

「で、その時計遺伝子を分子遺伝学的な手法で潰した変異株を人工的に作って、競争させると、数日から数週間で、ワイルドタイプが勝って、変異型は、駆逐されてしまう。」

「へーー!20億年くらい前に、その時計遺伝子を持って、時計タンパクを合成できるようになった連中が、それができない連中を駆逐して、生き残ったんですな?」

「そう考えられているな。まあ、20億年前に戻って、見てきた人はおらんから、一番、あり得るシナリオが今、定説として、そう信じられている。」

「環境を固定すると、このレベルの小ささの単細胞生物では、生存競争がはっきりしますね。」

「霊長類は、脳みそで、個体レベルでの適応力を増したけど、な。ただ、我々、人を含む多細胞の生物は全て、概日リズムを、細胞レベルで持っている。」

「脳みそのある動物は、脳の機能と繋がっているんでしょうけど、植物は脳がないから、ますます、むしろ、その分子レベルの機能は大切ですね。」

「人でも、時差ボケとかジェットラグっていうの、いうじゃろ?あれは、細胞レベルの概日リズムによる時刻と、個体が感じていて活動している環境の時刻がズレることからきていると思われる。」

「やはり、変に眠かったり、妙な時間にやたら元気になったりしますね。」

「だんだんなれるじゃろ?それは、実は大切な機能で、概日リズムは、環境が変わると、数日でリセットできるんじゃよな。」

「それも、分子レベルでそういう機能がついていることがわかっているですか?」

「すべてに生きとし生けるものについて、調べたわけではないだろうけれど、世界中の生物学の専門家が、””モデル生物””として、重点的に調べることにしている種が、いくつもあって、確認されている。」

「時刻がわかっているって大事なんですね。」

「例えば、ミツバチ、これは、御花畑の位置を最初に見つけた個体が、巣に戻って、その御花畑のある場所の方向と距離を、8の字ダンスで教えることは有名はじゃろ?」

「遠くにあるときは、ダンス時間も長くなって、場合によっては何時間も続くとか?」

「方向は、太陽の方向とダンスの軸との角度で、どうも、教えているらしいんじゃけど、何時間も踊っておると、太陽自体の位置が変わる。」

「あー、聞いたことあります。ちゃんと、太陽の位置に合わせて、ダンスの軸の方向を変えていくそうですね。」

「そう、それが、概日リズムのおかげらしい。」

「ああ、なるほど、大ざっぱにいうと、ミツバチたちは、”今、何時か知っている”と考えるのがわかりやすい。」

「ミツバチ、凄い凄いとは聞いていましたけど、凄いですね。」

「まあ、ミツバチレベルの高度な生物なら、当然じゃけどな。なんてったって、バクテリアだの、カビだの、センチュウだのと言った連中にも、概日リズムはあるからね!www」

「渡り鳥が、方角を知るのも概日リズムから知っている今の時刻と太陽のいまの方向とを本能的に比べているらしい。」

「しかし、初めの話に戻りますけど、なら、ちょっとくらい、季節外れの寒い日が続いたり、急に暖かくなったりしても、”狂い咲き”しないんじゃないですか?」

「””狂い咲き””することのある種は、開花タイミングについては、もう少し、アドホックなというか、そういう根本的なシステム以外に、もう少し、種に特徴的なメカニズムを使っているらしい。」

「お。生物学らしくなってきましたね!」

「妾、もちろん、生物学の専門家ではないからね!自分で実験したわけじゃないよ!そもそも、ただの、妖精だし!!」

「まあ、しかし、よく言いますよね、


物理学:様々の現象の根底にある原理を統一的に理解したい

化学・生物学:個別の特徴的な振る舞いを発見したい」


「ああ、最近、融合とか盛んに言われるけど、根本的に事務官レベルの上の方の方々に誤解がないことを祈るばかりじゃよ。融合シンポジウムなんかでも、物理の方が、『私たちのこの理論で、割と統一的に、この現象は理解できます』みたいな講演をしたら、化学の人が、『みんなおんなじレベルの理屈で理解できる現象のレベルは、現象のレベルが低い(学問レベルが低いという意味ではないことに注意!)んじゃないですか?化学者は、この物質なら、こんな特徴的な性質がある、とか、または、そういうことが可能なのか?を個別的、特徴的な現象を特徴的に理解したいんです。』とか、アルアルですな!っw」

「そんなの見たことあるんですか?」

「妾、昔のことは忘れた!wwwwwwww」

「まあ、しかし、安易な発想で、融合融合いうのは、数学・数理を含む意味でも、科学の独自性を十分、考慮してやらないと、ただの縄張り争いになりますね!w」

「ま、妾、妖精だから、関係ないけどな!それに数学・数理科学は、そこで使われる精密な抽象言語を、抽象的な言語自体の法則・定理として研究することが目的だから、自然科学(や場合によっては社会科学)の個々の現象に、関わりすぎることはないので、まあ、どっちでもいいとも言える。」

「まあ、そうですね、理論には、どっちみち、近似があらゆる段階で入るので、統一か個別かに、そもそもあんまり意味がないですね。言語学は、その言語が小説に使われているか?行政上の手続き書類を書いているのか?六法全書を改定するために書いているのか?エッセイを書いているのか?などに関知しない。しかしながら、目的に応じた言語というものはありえるけど、ですね。   

   で、桜なんかの”狂い咲き”には、


1。虫などにより、夏の間茂っているべき葉っぱが食われてしまって、そのせいで、開花タイミングを司るシステムが狂ってしまった。

2。一回、暖かくなったのに、ある時期にある期間、急に寒くなって、そのせいで、季節を”勘違い”してしまった。(椿なら、逆!wwww)」

などのことが、研究されているらしい。」

「ははあ、大切な機構なので、よりうまく適応するために、独自機能を備えていることがあるんですね?」

「だから、生物の研究は、このような個別レベルが大切だというのは、その通りなんじゃろな?」

「数学や数理科学としては、より適切な記述言語の記述能力を様々なレベルで用意すれば良い。言語自体の論理構造の研究が、まず、有ってこそ、ということではあるわけだけどな。言語の高次構造、それと関連する高次機能として、このような記述能力の研究が有っても良い、とは思われるけどな。」

「もちろん、数学・数理科学者としては、最終的に数学の定理として、証明すること、ひいては、それの積み重ねによる数学理論の構築について、しっかり、目的意識として持っているべきで、そうでないと、何をやっているかわからない!」

「ま、そうですね。当たり前のような気がします。」

「そういった前置きの理解が前提として、十分、納得したものたちの間でなら、数学・数理科学者と、自然科学や社会科学者とのコラボレーションは、不可能ではないだろうけどな。」

「なかなか、フルートフルなものになるのは、難しい気がしますね。」

「真面目に考えると、当然、そうなる!」

「で、さっきの1。2。ですけど、桜なんかは、葉が茂っているべき時期に強風や虫で、葉っぱが飛んで、丸裸にされると、やはり木が自分の状態を誤解して、”いつ咲くの!? 今でしょ!!”ってなったりするらしい。」

「ふーん、精密なようでも、生物の機能も騙されたりするんですね。」

「積極的に”騙して”収穫量をあげたりもしているしな、果物を促成したり、遅くしたりして、収穫の時期をずらして、どの季節でも、食卓に並ぶようにしたりしている。まあ、やっぱり、”旬”が美味いけどな。まず、でも、基本的なメカニズムをなるべくきちんと理解することが大切じゃよな。その結果、騙せたようでも、やっぱり”旬”には及ばないってことが科学的にも理解できることもある。」

「いろんなレベルでね!ヒトの営みとしても、いろんなレベルのいろんなものがあって、統一のモノサシで計測しないことが、少なくとも、学問のレベルでは大切じゃ!」

「まあ、ね。今回の教訓として、なんでもアドホックに”ああしたからこうなる”式の単純化されたお話にすぐには飛びつかない!ってことかな?」

「わかってることより、わからないことの方がはるかに多いし、それに専門家レベルでは、一つ何かわかるとそこに付随した”わからないこと”が10も20も出てくる。」

「様々なレベルで、成熟した態度を取りたいものですね。」

「そうすれば、逆に世の中、捨てたものでもないぞよ!www」



参考文献:



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