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映画 『窓ぎわのトットちゃん』で描かれる子どもの空想の世界

初めて『窓ぎわのトットちゃん』を読んだのは、おそらく小学校高学年の時。当時、自宅の本棚にどんな本が並んでいたのか、ほとんど記憶がありませんが、この本があったことだけは覚えています。表紙に描かれている、いわさきちひろさんの絵がとても印象的でした。電車の校舎、汲み取り式のトイレなど、自分が知る小学校との違いにびっくりしながら読んだことを、なんとなく覚えています。

そんな『窓ぎわのトットちゃん』がアニメーション映画になると知り、文庫本を買って数十年ぶりに再読しました。幼児教育に携わる今、改めて読んで、トモエ学園の教育がいかに素晴らしかったかを実感しました。

子ども主体の遊びや学びとはなんなのか、多様性を認め合うとはどういうことなのか。トットちゃんが小学生だったのはもう80年以上も前のことですが、今の時代に子どもたちと向き合ううえで大切にしたいことがたくさん書かれています。

教育に携わる方、子どもを育てている大人たちに、ぜひ読んでもらいたいです。

そして映画も観ました。映画も素晴らしかったです。
前半はトモエ学園の楽しい日々とトットちゃんと泰明ちゃん(小児麻痺をわずらい、体が不自由です)との関わりが中心に描かれ、後半に向けて徐々に戦争の影が色濃くなっていきます。日常が戦争に巻き込まれていくまではあっという間。そのスピード感に言葉を失います。

この映画で最も感動したのが、子どもの空想の世界が、とても豊かに描かれているということです。子どもの空想シーンでは、絵のテイストがガラリと変わります。日常と切り離された自分だけの世界。子どもの空想の世界がどれほど豊かなものなのか、そして生きていくうえで空想することがどれほど大切なものなのか。
この映画は、それをこんな表現で伝えてくれるのか!と驚き、胸がいっぱいになりました。

最初の空想シーンはトットちゃんがトモエ学園に初めて登校する日。張り切りすぎて一番に登校したトットちゃん。まだ誰もいない電車の校舎で、期待に胸をふくらませながら、存分に想像の世界に浸ります。

2つ目は泰明ちゃんが初めてプールに入った時。泰明ちゃんは手と足が不自由なので、運動がとても苦手です。歩くのが遅いので、みんなとお散歩に行くこともずっと遠慮してきました。プールも最初は入りたくないと言って、1人で本を読もうとしていたのですが、トットちゃんが強く誘ったため、意を決してプールに入ります。水に初めて入った泰明ちゃんの心に広がるイマジネーションの世界。
このシーンは明らかに、『窓ぎわのトットちゃん』と深い深いつながりのある画家の作風を意識していると感じました。
私は映画全体のなかで、このシーンが一番好きでした。

3つ目は戦争が始まって食べるものがなくなってしまった時。トットちゃんと泰明ちゃんは、空想に浸ることで辛い現実を乗り越えようとします。トモエ学園の教育が2人の心を救ってくれたシーンでもあります。

この3つの空想のシーンは本当に素晴らしかったです。
そしてもう一つ、終盤にトットちゃんが街の中を走って駆け抜けていくシーンは、涙なしでは見られませんでした。今、思い出しても泣きそうになります。

「子どもの世界を大切にしたい」、「多様性を認め合える生きやすい社会を作りたい」そして「戦争は絶対的な悪である」。これらのメッセージを多くの人に伝えるんだ!という作り手の矜持が見える素晴らしい作品でした。

原作本と同じく、教育・保育に携わる方皆さんに観ていただきたいなと思います。

最後に、私が大好きな動画を紹介します。
弊社が開発しているICT教材KitS(きっつ)のmobie(モビー)というお話づくりのアプリを使って作った動画です。
サンリオが大好きな女の子がお話の世界に没頭して作った作品です。
女の子の語りを聞いているだけで、とても幸せな気持ちになります。
子どもの声の記録って、実はあまり残す機会がないですよね。声を残すことができるのは、ICTの利点だと思います。

思いを表現する手段は絵でも文章でも踊りでも歌でもなんでも良いと思います。でも自分の世界に没頭できる時間と、自分の思いを表現する選択肢はたくさんあった方が良いことに間違いはありません。
子どものこういう時間を、本当に大切にしたいです。


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