「エンパイア」のジャマル役、ジャシー・スモレットの自作自演襲撃事件が残すもの
ここ数日のSNSフィードはこの人の顔で埋め尽くされている。ドラマ「Empire 成功の代償」で、ライオン家三兄弟の真ん中、繊細な心と美しい歌声の持ち主、ジャマルを演じるジャシー・スモレット。
1月29日の夜、ジャシーがシカゴで2人の男に襲われ、暴行された上に人種差別的な暴言を浴びせられ、さらには漂白剤のようなケミカルな液体をかけられたという事件。ヒッピホップ業界のロイヤルファミリーを描く「Empire」は、映画「大統領の執事の涙」(The Butler)監督のリー・ダニエルズ製作総指揮。キャラクターがきわだつストーリーだけでなくオリジナルな音楽やゴージャスなファッションも話題で、私も最初のシーズンから観ていた。ジャシーはゲイである自分を認めてくれないマッチョな父親との関係、さまざまな恋愛、母親クッキーとの関係・・・など複雑なジャマルのキャラを演じる上、歌も披露し、このテレビドラマから誕生したスターだ。
事件が明らかになった当初から、「ジャマルに何が??」と注目していた。ジャマルは怪我をして病院に運ばれ、他の俳優など有名人もジャマルへのサポートや人種差別・ゲイ差別のヘイトクライム(憎悪犯罪)撲滅を呼びかけるなど大騒ぎになった。
でも、最初からなにか変だった。
事件のあとすぐに、事件が起きた場所近くに多数ある監視カメラを調べてもそういう映像が出てこなかったという話や、ジャシーが携帯電話を警察に提出するのを拒んでいるという話が報道された。警察がリークしているとしか思えない情報だ。警察がこういうリークをするということは、事件の正当性を疑っているということだ。なんだか嫌な感じだなと思っていたのだ。
シカゴはこの冬、歴史的な寒さ。憎悪が動機になっていると言っても、真夜中に黒人でゲイの俳優を待ち伏せて襲撃するという犯罪の構図そのものが少しおかしいとは思った。
そのうち、事件の容疑者として浮上したのが二人のナイジェリア人兄弟だということがわかる。二人は事件後、オヘア空港からナイジェリアに帰国していた。人種差別的な言葉を吐いて襲撃したのがアフリカ人?そのうちひとりはジャシーを知っている人物だった。
警察は二人が2月13日にアメリカに戻ることになっているのを突き止め、空港に到着したところを確保。ジャシーから3500ドルを受け取って襲撃の自作自演を手伝ったという二人の主張が裏付けられた。2月21日の午前5時、ジャシーは警察に出頭した。
シカゴ警察は即、ジャシーを虚偽申告の疑いで逮捕、本人はその日の午後、1000万ドルの保釈金を払い、国外逃亡をしないようにとパスポートを提出して釈放された。警察は記者会見で、ジャシーが「Empire」の出演料に不満をもち、売名行為としてこのような襲撃事件の芝居を仕組んだのだと発表した。
ジャシーはいまだに無実を主張しており、「Empire」撮影のセットに復帰。自作自演を否定した。ジャシーは出演料に不満を漏らしたことなど一度もないという報道もある。いずれにしても、数時間前に、ドラマを制作するFOXは、ジャシーのキャラクターを撮影が残っている「Empire」のエピソードからははずすと発表した。
まだ謎の部分も多い今回の事件は、一人の野心的で未熟な俳優の軽率な自作自演だったと簡単には片付けられないものがある。シカゴの警察署長は会見で、「今後、本当の憎悪犯罪の被害者が(今回の自作自演事件のせいで)疑いの目で見られることになる」との懸念を語った。
#metoo の動きの中で、「被害者を信じよう」「女性を信じよう」というスローガンがよく聞かれるようになった。とくに、軽んじられ、退けられることが多い、有力な男性による性被害を受けたという女性の主張に耳を傾け、信じようというものだ。昨年、最高裁判事に指名され、公聴会で学生時代の性暴力疑惑が噴出したブレット・カバノー裁判官がよい例だ。勇気を出して証言した女性たちに対し、本人は強い言葉で否定し、保守派の多くが裁判官を支持したが、「被害者を信じよう」というスローガンが広まった。
ジャシー・スモレットは性被害を主張していたわけではないが、彼の自作自演がほぼ明らかになったことで、#metoo が行き過ぎだと感じている保守派が、「具体的な証拠が無ければ信じられない」との主張を強める結果につながっている。
ちょっとした売名行為のつもりだったのかもしれない。実際今度のことで、「Empire」を知らない人にもジャシーの名前と彼は広く知れ渡っただろうが、虚偽申告をしたという以上の傷を残したのは確かだ。
スモレットのキャラクターの母親、クッキー・ライオンを演じるタラジ・ヘンソンは事件後、テレビのトークショーに出てジャシーをかばう発言をしていた。いまは何を思っているだろう・・・。
参考にしました
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