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マンハッタンアパートに招かざる客の到来

「ニューヨークといえば?」
と質問された時、最初に頭に浮かぶものはなんだろう。

自由の女神、摩天楼、りんごにタイムズスクエアにブロードウェイ…

しかし、今の私の頭に浮かぶものは、

「ネズミ」

である。


そう、数日前の深夜3時ごろ、リビングのカウチでうとうとしながら歌詞を書いているとき、私はついに出会ってしまったのだ。

ネズミに。。。

そんなニューヨークのシンボルは、「ぎや!」と間抜けな悲鳴をあげる私のことなどお構いなしに、引き戸の溝に消えていった。

私の家に、ネズミがいる。それを知った瞬間、日本にいる夫に三行半を突きつけらかけても住み続けているニューヨークの街が、ゴミ捨て場に見えてくる。私は気持ちを落ち着かせるため、

「ゴキブリとネズミなら、ネズミの方がマシではないか」

というどうしようもない2択で自分を慰める。

あぁ、私はなんという愚かな生き物なのだろう。
ハムスターが好きで、人気ハムキャラクター助六のスタンプまでお金出して購入しているくせに、いざ少し品種の違うネズミが家に現れただけで、この世の終わりのような悲鳴をあげる。これは、ネズミに対する差別だ。

更にいうと、私は千葉のネズミの国で8年間働かせてもらい、そこで貯めた貯金で今のニューヨーク生活が成り立っている。ネズミのおかげで今の生活があると言ってもいいのに、自分の生活を守るため私はネズミを抹殺する方法を考えている。ディスニーはネズミで世界中の子供を笑顔にできても、ネズミたちの地位向上まではできていなかった。

翌日、家にネズミが出たことをルームメイトの夫婦に知らせると、我が家は2020年大統領選以上の盛り上がりを見せた。

私たちのアパート専用の清掃員に連絡を取り、ネズミの駆除を依頼し、その日の夕方には来てもらった。きっと、この人がネズミの巣を突き止めて抹殺し、ネズミが入ってきた穴を閉じてくれるのだろう。誰もがこれで今夜は安心して寝られると信じた。

しかし、よく見ると清掃員は、CVSの手提げビニール袋しか持っていない。そして、その手提げビニール袋からネズミホイホイを取り出し、私に「チーズはないか」と聞いてくる。

私は唖然とした。

AIが人間の仕事を奪うと議論され、ストライキまで起こっているこのご時世で、今だに20年以上前に見たトム&ジェリーに出てくるネズミ取りが第一線で活躍しているなんて。イノベーションのジレンマである。(正しい使い方かはわからない。)

ルームメイトと私は、"ネズミが通りそうな場所はどこか"という、家の中ではしたくないテーマベスト5を議題にあげ、8つほどのネズミホイホイとチーズを設置した。

しかし、私よりネズミショックを受けたルームメイトの奥様が、ネズミホイホイではネズミ根絶はできない、とさらなる改善策を旦那に求め、家の中の緊張感が高まる。

私と旦那さんは、猫を借りてきてはどうか、というアイディアを出した。これまたトム&ジェリーを超えられないアイディアである。しかし、藁にでもすがる思いの私たちはすぐに実行に移した。

旦那さんは、近くに住む猫を飼っている妹さんへ電話をした。しかし、残念なことに、少し会わないうちに妹さんの猫は、年老いて太ってしまい、とてもネズミを捕まえられる能力は持ち合わせていない、と断られた。それでも、旦那さんは「2日くらいその猫に餌を与えなければ走り出すのではないか」と提案したようだが、すぐに電話は切られてしまった。

あと私たちができることは、静かにネズミがトラップにはまってくれることを待つことだ。いつも深夜リビングで作業をする私は、ネズミが怖がらずリビングに出てこられるよう作業場所を自分の部屋のベッドに移した。

そして翌朝、トラップを確認するがネズミはまだ捕まっていない。その日以来、私とルームメイトの挨拶は、"How are you?"から、"Did the mice get caught?"に変わった。しかしなかなか、現れない。

数日がたったある日の昼間、チャイムが鳴り先日とは別の清掃員が、今度は大きなキャリーケースを持って家に来た。きっとなかなかネズミが捕まらないことに苛立ちを感じたルームメイトが、もう一度相談し駆除の専門家でも呼んできてくれたんだろう。

彼は、この前の清掃員はしなかった、ネズミが消えていった引き戸を揺らし、何やら確認している。きっと、上の階の迷惑にならない作業のやり方を考えてくれているんだろう。そして、その作業員は行った。

「なんて、優秀なネズミなんだ!ここに入られちゃぁ誰も捕まえることはできないね!」

そして、別の形状のネズミホイホイを3つ置いて帰って行った。これで、私のアパートには11個のネズミホイホイが置かれた。1日でも早く、ネズミが罠にハマることを願って、私は今夜もベッドで作業をする。

しかし、もし捕まった時、そのネズミホイホイをゴミ捨て場まで持っていく役割は誰が担うのだろう。私も奥様も、きっと旦那さんがやってくれるに違いない、と信じている。

これでは、"女性はお茶汲み"と同じ理論だ。

性別によって役割を決めるのは良くない。絶対に良くないのはわかっているのだけど、今回だけは目を瞑ってほしい。それか、せめてネズミホイホイをゴミ捨て場まで運ぶための画期的な技術が、イノベーションにより生まれていると信じよう。


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