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KITEN、秋のコットン畑周辺の生き物調査。
むせ返るような暑さとセミの大合唱が懐かしく感じるほど、すっかり秋めいた10月のある日。夏に続き、起点の畑へ生物多様性調査に訪れた。
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収穫の最盛期を迎えた畑では、綿の実がはじけ、ふわふわのコットンが顔をのぞかせている。この日は、収穫のためにお手伝いに来ている方たちが和気あいあいと作業をしていて、その風景がなんだかとてもよかった。
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秋に生息する虫たちを探す
今回も、東京大学総合研究博物館研究事業協力者の須田真一先生と、日本自然保護協会の岩橋大悟さんの協力をいただきながら、起点の代表・酒井さんと一緒に、四倉町大野地区の生物多様性調査をおこなった。
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↓夏の調査はこちら
オジロアシナガゾウムシ
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まず最初に発見したのは、「オジロアシナガゾウムシ」。写真を見てもらうとわかる通り、鼻?がゾウのように長いので「ゾウムシ」と名付けられたのだとか。正直、虫が得意な方ではないけれど、ゾウに見えると、なんだか可愛くて愛おしく思えてくるから不思議。
パンダのような白黒もようは、「鳥のフン」に擬態しているのではという説があるらしい。鳥のフンだったら食べられる心配はないもんね。こんな小さな虫でも生き残りをかけた戦略があるのだ。
ツマグロオオヨコバイ
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次に発見したのは、「ツマグロオオヨコバイ」。色や形がバナナに似ていることから「バナナ虫」と呼ばれている。「最初にバナナ虫って名付けた人センスあるよねー」とうれしそうに話す須田先生。
そういえば子どものころ、学校帰りにバナナ虫をよく見かけたっけ。最近めっきり見なくなったのは、数が減少しているのか、はたまた、小さな世界を見過ごしているのか。
オオアオイイトトンボ
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金緑色に輝く美しい「オオアオイトトンボ」。水面におおいかぶさった木の樹皮に産卵する習性があり、木陰のある池などによく生息している。
この美しいイトトンボ、以前は害虫指定されていたというから驚いた。和紙の原料となるこうぞに産卵することが多く、実害を及ぼすことはほとんどないのに害虫と判断されたのだそう。「人間って勝手だよね」と須田先生。そうやって、身勝手に自然界にラインを引いてしまっていることってあるのかもしれない。
トノサマバッタ
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突然、ピョーーンと目の前に現れたのはトノサマバッタ。バッタのなかでも特別感があり、子どもの頃に憧れた人も多いのでは。
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殿と名前が付くほど大きなトノサマバッタだけれど、自然界には天敵が多い。たとえば、スズメバチやカマキリなどの肉食昆虫や、カエルやトカゲ、小鳥など。そのため、トノサマバッタは警戒心が強く、捕まえようと近づいてもすぐに飛んで逃げてしまう。殿様とはいえども、自然界のなかで生き残っていくのは大変なのだ。
ナツアカネとアキアカネ
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秋の風物詩といえば「赤トンボ」。畑の周辺で見つけたのは、「ナツアカネ」と「アキアカネ」の2種類だ。どちらも同じように見えるけど、胸の模様と微妙な色の違いで見分けるのだそう。
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ナツアカネとアキアカネ、季節で名前が分かれているけど発生はほぼ同時期。その違いは、夏の過ごし方にあるのだそう。アキアカネは暑さが苦手で、夏の間は高原の涼しい環境まで移動して過ごし、秋になると生まれ故郷に戻ってくる。一方、暑さに強いナツアカネは、わりと同じ場所で過ごすのが特徴だ。旅するアキアカネと、地元が好きなナツアカネ。トンボにも色々なタイプがいるのだなーと思うと、面白い。
「この2種類がいる地域は、いい田んぼが残っている証です」と須田先生。しかし、農薬や耕作面積の減少が関係し、2000年代に入ってからは各地で急激な減少が報告されている。
今回の調査で畑の裏山を歩くと、空一面にトンボが飛び交う景色が広がっていた。今、こんな景色を見られる場所は、どれぐらいあるのだろう。
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どんな景色を残していきたいか
夏に100種類ほどいた昆虫も、今回見つけたのは30種類ほど。同じ道を歩いても、生命に満ち溢れた賑やかな夏とは違い、秋は少しもの悲しい雰囲気で、季節の移ろいを感じた。
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ぐるりと畑の裏山を一周して堤防沿いに出ると、一面ふさふさの黄色い花で覆われていた。皆さんもおなじみであろう「セイタカアワダチソウ」だ。明治時代に北アメリカから持ち込まれ、あれよあれよという間に本州に広がった外来種であり、帰化植物。種子と地下茎の両方で増えるので、在来植物とは比べ物にならない繁殖力を持っているのだそうだ。
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秋といえば、私はススキが揺れて赤とんぼが飛ぶ日本の原風景のようなイメージがある。けれど、実際はそんな景色を目にすることは少ない。現代の子どもたちには、一面黄色に覆われた風景の方が馴染み深いのかもしれないと思うと、寂しい気持ちになる。
自然との共生を目指して
起点の生物多様性調査に同行させてもらって気づかされたことがある。子どものころに親しんでいた昆虫は急激に減少していること、昔見ていた風景が当たり前じゃなくなっていること、里山や田畑は、実はその土地の自然と人が持続的に共存していくために必要な仕組みになっていたこと。
経済成長がはじまって以来、人は都市に集まり、地域は高齢化が進むようになった。生産地と消費地がわかれ、食べ物も衣類も、自分たちの地域で作らなくても安いものが簡単に手に入るようになった。手軽で便利な恩恵と引き換えに、先人たちが培ってきた持続可能な仕組みのバランスを崩し、自然も生き物も追いやっている。
日本自然保護協会の岩橋さんは、「2050年までに『自然と共生する世界』の実現を目指して私たちは活動しているんです」と話していた。約25年後、世界は変われているのだろうか。
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悲観ばかりはしていられない。人と自然が持続的に共生できる仕組みを模索し、土壌やそこに生息する生き物の保全について、正しい関わり方を真剣に考えていく必要がある。そして、ここには動き出している人たちがいる。
起点の畑がある大野地区には、本当にさまざまな生き物が生息していた。お互いが心地よく暮らしていけるように、何ができるか。穏やかな風が吹くこの場所で、みんなと一緒に考えていくようなことができたらいいなと思った。
文責・奥村サヤ