見出し画像

手鏡日録:2024年5月28日

ひどい風雨だった。
今も轟々と風が暴れている。身の危険を感じる帰路だったが、なんとか帰り着いた。
激しくフロントガラスにぶつかる雨粒は、ひっきりなしに働かせたワイパーが何とかしてくれた。ただアスファルトに叩きつける雨は地面を波のように這ってこちらに迫り、あるかなしかの感覚で繰り返しタイヤを呑み込んでいく。ライトに照らされる雨は不器用なタップダンスのようで、雨脚、ということばが浮かぶ。
車道上には街路樹の折れた枝がここそこに落ちていた。ロードキルの犠牲になった骸と見紛うのは、そのサイズもさることながら、てらてらと光る葉をびっしり生やしているせいだろう。その葉が吹き荒ぶ風に蠢くさまは、死骸に群がる無数の蠅のざわめきのようで、心底ぞっとした。
交差点を無遠慮に横切るペットボトルはなぜかどれもラベルがなく、個性を喪って夜に消えていった。ペットボトルもロードキルの骸も、嵐に猛然と煽られて、夜の同じ場所に行き着くような気がした。
思い返すとどれもあまり現実味のない光景で、それはうっすらこめかみに纏わりついた頭痛のせいかもしれない。その頭痛がはっきりしたかたちをとるようになってしまったので、頓服を飲んで休むことにする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?