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『彗星書架』第4号 ~初デート~ のこと③

『彗星書架』第4号、いよいよ本日までのプリントになります。
極私的、ひとりよがりレビューの〆は、王道デート作品で…!

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夜の白』 西川火尖

はい出ましたルミナリエ。
もうこの時点で火尖さんの作品であることを確信していましたよ。
新調するコートを選ぶいじましさも、指で呼吸を探りあう初々しさも、ルミナリエへと回収されていく。木は森へ隠すように、デートはルミナリエへ溶けていく。やや人目を忍ぶところがあるぶん、大勢の人に紛れることの安心感もあるのだ。なんという絶妙なシチュエーションだろう。さすがは火尖、王道を知り尽くした男。
からの抱擁。霜柱なので、ぎゅっとしていてもいずれ溶けてしまう儚さがある。こうなってしまっては、もう片方の意思ではほどけない。
そして王道デートは果てる。交わすのは唇の熱か。それともさらにその深くにある、荒々しい熱源か。ここからは第二部が待っている。今度は霜柱ではなく、けだものになつて。


連れ合う』 相田えぬ

休みづらい年末、示し合わせて休みを取るところからすでに秘め事めいていて良い。しかも水族館、いいなぁ。
句会の折には五句連作だったので、水族館の場所当てとかしょうもない考察をしていたのだが、ネプリでは十句作品、しかも受→攻と主体が変わるとあって、これはご飯がススム。
手や名前、それに着ている衣服に焦点を合わせているあたりが、いかにも初デート感。
面白いのが、イルカショーとジンベエザメの句。受け視点がイルカショー、攻めはジンベエザメのあるかなしかの歯に着目しているのだが、互いの食性はまったく違う。愛くるしいイルカは魚を、巨大なジンベエザメはオキアミなど小さな餌を食す。おおらかで豪胆に思える攻めに、実は繊細な魂が宿っていることを示唆しているに違いない。
そして掉尾の句である。五句作品では酔っ払いの句で終わっていて、「あー肝心なとこで残念…!」と思ったのだった。ところが実際には酔っ払って見えた攻めが、実は受けの曇る眼鏡にじっと視線を向けていたのだ。…清い。これは清らかすぎる。神聖な空気すら漂っている。
冬銀河のまたたく清澄な夜に包まれ、初デートのふたりは闇に溶け込んでいくのだ。
……いやもう初デートでドロッとしたナニを描こうとした自分が小っ恥ずかしいわ!えぬさんを見習え!悔い改めろ!

はい、ということで今回もありがとうございました。
次回、また『彗星書架』の奥深くで皆さまと一緒に悶えられる日を楽しみにしております。その際にはどうかよろしくお付き合いくださいませ。

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