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『彗星書架』第4号 ~初デート~ のこと②

『彗星書架』第4号のレビュー、第2弾です。
なんか真面目な感じになりました。書きながら泣いてる。いや泣かされてる。

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何でもない日』 みやさと

相手を大切に、とても大切に思っている。
何でもない日常、そこに君がいることのかけがえのなさ。だから画像にとどめておきたいのだ。君との日々が、永遠ではないことを知っているから。この一句目でもう泣きそう。
検索履歴は、デートで訪れる名所やカフェなどをたくさん、繰り返し調べたんでしょうね。それを笑う君の眼差しにも、愛情が脈打っている。
鯉に餌をやること、キスすることが並べられている三句目。貪欲な鯉の口に、いくらくちづけをしても足りない底なしの愛おしさが重なる。わかる、わかりすぎるよ…。
そして唐突にあらわれる胸の手術痕。外傷なのか疾患なのか。いずれにせよ胸の手術痕は命の危険を思わせる。これは作中主体の手術痕ではなく、お相手のそれだろう。
ここで冒頭の「何でもない日」に帰ってくる。ただでさえ私たちの日常は、一瞬一瞬消え去っていってしまう。日常のかけがえのなさは、その一回性の裏返しなのだ。ましてや命に関わる手術を経た相手ならば、いっそう切実さがある。しかも同性カップル、手術同意もできないんだよ。
萌えの背景に、社会の酷薄ささえ浮かび上がってくる。これは妄想なんかじゃない。現実の地続きなのだ。


合図』 佐々木紺

あ、これが人外ものってやつか…、と一読して虜になってしまった。
一、二句目は日本の説話集にある猿神譚を思わせる。村外れの小屋で声を潜めて猿神を待つ生贄、村人からはせめてもの慰めにと魔除けの菊枕を供えられている。やがてやってくる猿神は、だいたい退治される運命だけど、ここでは違うらしい。
助かった生贄、でもきっと村人からはどこか冷たい目で見られているんじゃないかしらと心配になる。口笛なんて吹いてる場合か、と思うけど、この口笛は猿神と仲良くなったことの証なのだろう。
そして猿神との逢引きのお約束。橋、というのが橋姫伝説を連想させて、巧みに昔話的な雰囲気を纏わせている。ただし逢うのは橋姫じゃなくもっと毛量の多いモノでしょう。五句目にトトロみがあるから。あちらは団栗と龍の髭だったけど。南天と龍の玉、これがモノから人になる合図だったのだ。供犠からの初デート、意外でした。
と、BL句会でつらつらと得意げに感想を披瀝した後に、いのりさんから「人外ものかもしれないし、因習村的な感じかも」と鋭い考察が。
あ、そっちだったのか!恥ずかし…。


目覚めても』 星野いのり

いろいろイベント的なことを盛り込みたくなってしまう初デート…ではなく、こちらはなりゆき展開。初デートのお題で、初デートに至るまでの葛藤を描いているのが素敵。
とにかく二人の距離に葛藤しまくりの作中主体がいい。目の前で相手が眠りこけているこの状況が、なりゆきじゃなかったらな…という迷いや切なさ、ずっと慈しんでいたい。
結局意気地なしなのだけど、内心での「心臓が心を吼えてゐる」状態のすさまじさ。胸を掻き毟るような、やりたくてしょうがないこの衝動。すごい。そしてちゃんと我慢してエラい。
最後の句で初デートの話に漕ぎつけるのだけれど、それがどこかほっとする感じを与えてくれる。理性を保ってくれて本当によかった。ここから健全な関係が積み上がっていくのでしょう。そして、ちゃんとおおかみになれる夜も近い…。

(つづく)

『彗星書架』第4号は、こちらから!

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