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第7章 出産に向けて

第1話 もう一つの夢へ


「早紀、こないだ子供の頃に男の身体に人工子宮を作って、男が出産するなんていう小説を書いたっていう話をしたでしょ」と、翔は早紀に言った。
「うん。入れ替わろうって言った日だよね」

「今でもそういう話を書きたいと思う。いや、前よりももっと書きたい。だって本当に出産出来るんだから。この経験は小説を書くのに生かせるんじゃないかな」
「そうだね……でもちょっと奇想天外過ぎるんじゃない? そんな話読む人いるかなあ」早紀はちょっと不思議そうな顔をして言った。

「いや、男性出産ってさ、意外とマイナーではないかもしれないよ。BLボーイズラブ小説では良くある設定みたいだし」
「そうなんだ」
 BLとは、男性同士の恋愛をテーマとした作品の事。近年は書店にこの小説を集めたコーナーが出来る等、市民権を得たと言ってよい分野ジャンルである。

「一般の小説だと、甘粕りりこ著の『産まなくても、産めなくても』や、村田沙耶香著の『殺人出産』、田中兆子著の『徴産制』等が男性出産を扱っているんだ。けっこうあるでしょ」
「そんなにあるなんて知らなかった」早紀は驚いていた。

「他にも、坂井恵理著の漫画『ヒヤマケンタロウの妊娠』っていうのがある。これはNetflixで斎藤工と上野樹里のW主演でドラマ化されたんだよ」
「すごいね。そんなにあるならマニアックという訳でもないね」

「そう。僕は子供の頃小説家になりたかったんだ。今でもなりたいと思ってる。たださ、今は小説家で食べていくのはすごく大変だから、今の会社を続けながら書こうと思うんだ」翔はいつになく生き生きとした口調である。

「いいんじゃない。実はさ……私も小説書いてたんだ。やっぱり子供の頃にね。小説家になりたかったよ」早紀も翔と同じ夢を抱いていたのだ。
「そうだったんだ。今初めて聞いたよ」

「やっぱり恥ずかしいよ。実はね……イブが私に言ったのは私が書いてた恋愛小説の内容なの。思い出すと赤面するような恥ずかしい小説書いてたんだ」
「読みたいな~読ませてよ」
「ダーメ。それで今は恋愛小説とは違うのを書きたいの」

「どんなの?」
PSASイクイク病の闘病小説」
「おーそれいいね。そういうのは君にしか書けないよ。僕も協力出来るしね」

「そう。お願いね」
「もちろん」
「私ね……もし翔に出会わなかったら自殺してたかもしれないの。前にこの病気で自殺した人の話をしたでしょ。覚えてる?」

「うん」
「その人は、PSASが16年も続いたんだって。恥ずかしくて、家族にも打ち明ける事が出来なくて、仕事も続けられなくて、ほとんどの時間を自室にこもってひとりエッチして過ごすしか出来なくなったって」

「それわかる。あんなの絶対我慢出来ないよ」翔は昨日、電車に乗った時の大変な経験を思い出した。

「でしょ。それでね、意を決して雑誌の取材を受けて、多くの寄付金を集められたんだって。でもその人は取材から一週間後に自殺したの」
「やっぱり恥ずかしさに耐えられなかったのかな」

「そうだと思う」早紀も昔を思い出して心が痛んだのか、表情がさえない。
「あと裁判起こした人の話ももっと詳しく聞かせて」

「その人はブラジルの人で、比較的症状が軽かったの。当初一日50回弱くらいオナニーしてたのが、抗不安薬が効いて1日18回に減ったんだって。どうしても仕事を続けなければならなかったので、やむを得ず仕事中にも一人でしてたら解雇されたの。それで裁判を起こしたんだって。職場でのアダルトコンテンツの閲覧と、それに伴うオナニーの許可といった判決が出た」

「よくそんな判決が出たよね。それにその女性はとてもメンタルが強い」
「私も以前はそう思ってた。でもその人は生活がかかっていたみたいなの。だからそんな事するしかなかったんだと思う」
「なるほど」

「そういう色々な例を考えると、私は取材を受けるのも、裁判起こすのも無理だけど、小説書く事なら出来ると思うんだ。だってペンネーム使えば匿名で活動出来るじゃない」
「そうだね。僕も男性出産の小説はやっぱりペンネームじゃないと厳しい」

「それとね……同時並行でブログも始めようと思ってる。PSASとか他にも人には言えない病気とか、色々な事の相談とか出来ないかなと思って」
「いいね! 2人で協力すれば色々な事が出来そうだね!」
 翔もかなり乗り気である。

「私はお医者さんじゃないから、本格的なカウンセリングは無理だけど。でも、誰にも言えずに苦しんでいる人に『受診すればかなり良くなる』って伝える事は出来る。それだけでもどれだけ多くの人が救われるか分からないよ」

「僕と君が出会ったサイトも復活させたい。僕みたいなトランスジェンダーの人達や、色々なセクシャルマイノリティの人達も様々な悩みを抱えてる。色んな偏見にさらされているんだ。そういう人達の力になりたい」
「それもいい小説のテーマになるんじゃない」
「そうだね。一緒に色んな事したいね」

「小説の執筆はどうするの?」
「小説投稿サイトに投稿しよう」
 小説投稿サイトとは、主にアマチュアのオンライン作家が小説を公開する事の出来るウェブサイトである。

「『小説家になろう』とか、『カクヨム』とか?」
「そう」

「なろう」こと「小説家になろう」は、株式会社ヒナプロジェクトが提供する日本最大の小説投稿サイトだ。

「カクヨム」は、KADOKAWAと株式会社はてなが共同開発した小説投稿サイトである。

「新人賞には応募しないの?」早紀は翔に尋ねた。
「もう少し自信がついてからがいいかな。ほとんどの新人賞はネットで公開した作品は応募出来ないじゃない」
「そうだよね」

 小説を出版する方法としては、新人賞に応募するのが従来の一般的な方法である。コミックのように完成原稿を持ち込んだり、ビジネス書や実用書のように「企画書」を持ち込んで出版するのは困難なのが実情である。

 これは、小説が性質上、企画書で表現するのが難しい作品だからである。また漫画より読むのに時間がかかる。そのため、短時間で良し悪しの判断をする事が出来ないのだ。

 そこで新人賞に応募するのである。しかし、新人賞を受賞するのはかなり難しい。有名な大賞は応募が殺到している状況なので、極めて狭き門だ。それでも自分の小説を出版したいと考えた場合には、その出版方法は「自費出版」という事になる。

 この自費出版も決してあなどれない。累計発行部数200万部を超えた超人気作、山田悠介の「リアル鬼ごっこ」は自費出版だ。また、「さおだけ屋はなぜつぶれないか」の作者である山田真哉のデビュー作、「女子大生会計士の事件簿」は当初自費出版だった。自費出版からブレイクした作品もけっこうあるのだ。

 とはいえ、自費出版にはかなりまとまったお金が必要だ。薄給の翔にとっては金銭的にハードルが高い。そこで小説投稿サイトを使う事にした。

「それに、新人賞に応募するには完成するまでひたすら書き続けないといけないでしょ。小説投稿サイトなら、色んなコメントやレビューが付くからモチベーションを維持しやすいし」

「たしかにその方が続けられそう」
「ウエブでもコンテストはやってて、そっちは公開している作品でも応募できるんだ。例えば『カクヨム』の『カクヨムコン』なんてのがあるね」

「最近は新人賞をとれなくても、書籍化される事もあるしね。さらにドラマや映画になったり。『キミスイ』は色んな新人賞に応募しても受賞出来なかったけど、『小説家になろう』で人気が出て、それからトリプルミリオンのベストセラーになった」
「映画やアニメにもなったしね」

「キミスイ」こと「君の膵臓を食べたい」は、住野よるの小説だ。累計300万部売れた超ベストセラーとなった作品である。

「ひとまず『カクヨム』に登録して、『カクヨムコン』に応募してみよう」
「夢は広がるね。これから楽しくなりそう」
「ああ」

 こうして、翔と早紀は「小説家になる」という、もう一つの夢に向かって第一歩を踏み出した。

 そんなある日。翔の携帯電話が鳴った。
「もしもし、原口さん? 私加藤です」

 美波からの電話だった。明日マタニティビクス教室があるので、一緒に行かないかと誘われた。
「ぜひお願いします」

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第2話は、翔がカトミナとマタニティビクスにチャレンジします。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!


第2話 ぼくはマタニティビクスで、ちょっとブルー


「早紀、先日の五ヶ月検診なんだけど」
「そう言えばどうだった? ごめんね送っていけなくて」
「いや、しょうがないよ。僕の仕事上の都合なんだから。特に異常なしだった。順調だよ。だけどまだ男の子か女の子か分からなかった」

「そろそろ分かる時期だよね」
「あとちょっとなんだって」翔は残念そうに言う。
「そっか。でも私は生まれるまで聞きたくない派だな。翔は?」

「僕は聞きたい派。だって名前考えないといけないじゃん。生まれてすぐ決めるよりもじっくり決めた方が良くない? 姓名判断とかもしてさ」
「そういえばそうだよね。でも事前に分かっちゃうと生まれた時の感動が少ないよ」

「早紀が嫌なら聞かないでおくけど……」
「う~ん。でも今回は産むのは翔だからね。翔が決めて」
「聞いちゃってもいいかな?」翔は少し申し訳なさそうな感じだ。
「いいよ」

「そうだ……鷺沼医師が自然分娩出来るかもって言ってた」
「本当! よかったね翔。あなたが食事とか色々考えてくれたからだよ。本当にありがとう」早紀も嬉しいみたいだ。

「これで君の身体に傷を付けずにすみそうだ。それでね、さっきの電話なんだけど、担当の助産師さんから。加藤さんって言うんだ」
「ふうん」
「自然分娩では体力がいるから、一緒にマタニティビクスしようって誘ってくれた。彼女も妊婦なんだよ」

「いいじゃん。でも翔、マタニティビクスって結構激しいよ。大丈夫なの?」
「うん。加藤さんてPSASイクイク病の患者を担当した事があるんだって。だから配慮してもらえる」
「そっか。それなら心配いらないね」

「早紀、出来れば明日車で鷺沼医院まで送ってってくれない? もう電車はなるべく避けたいから」
「いいよ。私も加藤さんに会いたいし」

「そうだね。よろしく頼むよ」
 美波が通っているマタニティビクスのスタジオは、鷺沼医院の入っているビルの最上階にあった。

 翔は早紀に車で送ってもらうと、美波は既に来ていた。
「こんにちは。加藤さん」翔は美波に挨拶した。
「こんにちは」
「紹介します。主人の翔です」

「翔と言います。妻がお世話になります。今後は僕もなるべくつきそいますので、よろしくお願いします」早紀は、もうすっかり男言葉に慣れていた。
「じゃあ、終わったらまた電話する」
「了解。がんばってね」そう言うと、早紀はいったん自宅へ戻って行った。

 翔と美波はスタジオのロッカールームに入った。
「今はプライベートだから敬語やめない?」美波はちょっとくだけた口調で言った。
「分かった。加藤さんはマタニティビクスは生まれるまで続けるつもりなの?」

「うん。そのつもり。私はみんなからカトミナって呼ばれてるの。あなたもそう呼んでくれると嬉しいな」
「いいニックネームね。タレントみたい」

 マタニティビクスとは、エアロビクスを妊婦でも出来るようにアレンジしたエクササイズの事である。

「早紀さんは今まで運動してた事は?」
「中学2年までは卓球をやってたけど、それ以後は何もしてない」

 マタニティビクスはまずメディカルチェックを行う。看護師か助産師によって血圧や体重測定、赤ちゃんの心音等をチェックするのだ。アレンジしているとはいえ、かなり激しい運動である。赤ちゃんに、もしもの事があってはいけない。

 妊娠中は身体の変化が起こりやすく、必ず毎回メディカルチェックを行って、運動しても大丈夫かどうか確認するのだ。

 翔(早紀)のように持病があればなおさらである。
 電車よりはずっとましだが、やはり車でもPSASの症状を完全に抑える事は出来なかった。翔は連続した絶頂オーガズムで既にかなり疲労している。

「ちょっと心拍数が高いかな。今日は見学だけにしようか?」
「そうだね」
 PSASに詳しい美波には何度も達した事を知られたと思い、激しい羞恥に顔を赤らめる翔。残念ながらメディカルチェックに引っ掛かってしまったようだ。

 やむを得ず見学する事に。まずはウォーミングアップ。ストレッチで筋肉を伸ばし、身体を温める。軽いステップを行う場合も。

 メインのエアロビックパートに入ると、音楽に合わせてステップ、全身運動をする。

 これが終わると、再びマットの上でストレッチをする。
 最後にクールダウン。時間を取って気持ちを落ち着かせていく。

「どう? 見学してみた感想は」
「やっぱり思ったより激しいね。すぐには無理かなあ」
「そしたらヨガと、他のリラクゼーションもやってみよっか」

 ヨガとは、呼吸とポーズ、瞑想を合わせ行う事で身体を整え強化し、心身の安定をはかるエクササイズである。

「他にもリラクゼーションの方法は色々あるの?」翔は好奇心いっぱいの目で美波を見ながら言った。
「瞑想とか、アロマとかね」

 瞑想とは、目を閉じて深く静かに思いをめぐらす事だ。
「そんな事したって意味あるのだろうか?」
「宗教的なものでは?」
 そういう疑問をいだく人も多い。
 
 美波が実践していたのは、マインドフルネス瞑想と呼ばれるものであった。これは 「今に集中して、今の自分を受け入れる」という瞑想である。この瞑想には宗教的要素は少ない。

 椅子や床に座って肩の力を抜いてリラックスし、自然なペースで呼吸し、呼吸に意識を向けていく。

 多くの有名人も実践している。クリントン元大統領やビルゲイツ、レディガガ、日本人だと稲盛和夫やイチロー等だ。

「信じられないかもしれないけど、瞑想を始めてからシンクロニシティっていうのかな、必要な時に必要な人に出会ったり、起こって欲しい事が起こったりするようになったの」
「信じるよ。カトミナ。私も試してみる」

 アロマとはアロマセラピーの事。エッセンシャルオイルの芳香や植物由来の芳香を使い、病気の治療や心身の健康・リラクゼーション、ストレスの解消等を目的とする療法である。

 美波の粋な計らいで、目に見えてPSASの症状は軽くなった。軽くなればなる程精神的にもより落ちつくというポジティブスパイラルに入り、マタニティビクスにも参加出来るようになるまで体力が回復した。

「前に私が担当した妊婦さんが緊急帝王切開になってしまった事がとても残念だったから、あなたにはぜひ自然分娩して欲しくて色々調べたの。絶対私が取り上げるからね」
「カトミナ……」
 翔は美波の配慮がとても嬉しかった。

「私の考え方はすごく偏っているかもしれないけど、やっぱり自然分娩へのこだわりがかなり強いんだ。上の子もそうだったし、この子も下から産みたいと思ってる」
 今美波のおなかにいる子は二人目なのだ。
「やっぱりそうだよね」

「よく言われてる『自然分娩の方が子どもへの愛情が強くなる』というのは、実際に医学的にもそういう研究論文もある事なの」
「へー」

「自然分娩でも帝王切開でも子どもはかわいい、誰だって自分の子どもに愛情はわくはずっていう考え方はちょっと危険かもしれない」
「どうして?」

「帝王切開で分娩した人が『なぜ自分の子どもを愛せないんだろう』と悩んでいるとするじゃない。そんな時に『帝王切開か自然分娩かは関係ない、みんな子どもはかわいい』なんて言われたら追い詰められるんじゃないかな」
「そういう考え方もあるんだ!」

「自然分娩で産まれた人には『だからあなたはこんなに愛されている』と言えるでしょ」
「そっか」

「帝王切開で生まれた人には『お母さんは愛情が注げるように頑張ってくれた』と言える」
「う~ん。深いんだね」

「だからさ、分娩の方法で異なる『愛し方・愛され方』があるって事なの。そういう事を理解した上で、対応出来るようにしてあげた方がいいと思ってる」
「カトミナ、あなたは本当に素晴らしい助産師だね。あなたに担当してもらえる事がとても嬉しいよ」
「そんな……ありがとう。私も嬉しい」

 美波は少し照れつつも、毅然とした口調で続けた。
「でも誤解しないで。私は決して帝王切開を否定するとか、良くない事だなんて思っている訳じゃないの」
「分かってるよ」

「なげかわしいのがさ、『陣痛の痛みを味あわない帝王切開は楽でいい』とか、『帝王切開は甘え』みたいな考え方。考えるだけなら本人の勝手だけど、実際に息子のお嫁さんに口に出して言うって最低。年配の人にたまにそういう人がいるけど」

「友達とかで聞いた事ある」翔は早紀の友人、美香の話を思い出していた。美香は帝王切開で出産していたのだ。しゅうとめからかなりひどい嫌みを言われたらしい。

「第一、帝王切開が楽だなんて事実誤認も甚だしいよ。術後の2~3日間は地獄の痛みなの。曲がりなりにもお腹をバッサリ切るんだから」
「だよね~」

「それに、帝王切開したくてする人なんて一人もいない。好きで選んだ訳じゃないの」
「そうそう。私も前は体が衰弱してたから仕方がないと思ってた」

「もし本当に楽に産めるのなら、帝王切開は誰でも選べる出産方式になるはずでしょ。でもそうじゃないから。医師が判断して初めて帝王切開になるの」
「うんうん」

「赤ちゃんの頭と骨盤の大きさってすごく微妙だから、ほんのわずかな大きさの違いで自然分娩出来たり出来なかったりするの。逆子になるかどうかも原因はわかっていないし、逆子を直す事だって医師でも難しい。他にも色んな異常があるけど、どれも偶然に左右される」

 翔は、男性出産の小説を執筆するために色々な調査をしていた。以前テレビで見たホルモンの問題の他に、男の骨盤では小さすぎて自然分娩は不可能に近いという事が分かった。本当に出産というのは大変な事だと再確認した。

「私ね……実は産婦人科医になりたかったの」美波は少し寂しそうな表情を浮かべて言った。
「そうなの?」

「でも結局医学部への進学は出来なかった。だから今でも医師へのコンプレックスが凄くある。帝王切開は私から仕事を取るような存在でもあるんだ」
 助産師は医療行為はする事が出来ない。自然分娩でなければ取り扱えないのだ。

「もし私が医師だったら、必要ならば帝王切開も会陰切開もすると思う。でも私は助産師だから。自然分娩“命”だし、出来れば会陰切開だってしなくてすむように、会陰保護術に磨きをかけたんだ」

 翔もやはり会陰切開は出来ればして欲しくなかった。でも、しないと赤ちゃんの頭が大きすぎる時にアソコが派手に裂けてしまうらしい。これが会陰裂傷だ。助産師はなるべく会陰裂傷が少なくなるような技術を色々持っている。

「組織はゆっくり広がると損傷が少なくて、急に広がると大きく裂けるの。だから赤ちゃんの頭が出る時に、なるべくゆっくり通る事が重要なの」
 助産師は、赤ちゃんの頭が見えて会陰が伸ばされた時に手で押さえて裂けないようにしたり、頭の一番大きい所が通る時に「もういきまないで」と声がけをする。会陰裂傷を小さくするためだ。

「でもね……今までの事はどれも私が自然分娩にこだわる理由としてはそんなに大きい事じゃないの」
「もっと大きい事があるの?」

 すると、美波は目をキラキラさせながら言った。
「出産はね、女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時なんだよ」

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第3話は、カトミナの驚くべき秘密の一端が明らかに。いったい何なのでしょうか? お楽しみに!


第3話 女が最もキレイになる時


 美波が翔に言った「出産はね、女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時なんだよ」という発言。

 翔は、この時点では冗談半分だろうと思ってあまり気にもとめずにいた。


 翔と早紀は、カクヨムに登録して小説の投稿を始めてみたものの、全く反応がない状態がけっこう長く続いた。コメントもレビューもゼロ。PVページビューもほんのわずかである。

「う~ん。このままじゃ鳴かず飛ばずだな。どうしようか」
「ツイッター始めてみよっか」早紀が提案した。
「そうだね」

 やはり、ただ投稿しただけではなかなか読んでもらえないようだ。



 そんな中、美波の粋な計らいでマタニティビクスが問題なく出来るようになった翔は、出産に向けて順調なプレパパ(?)生活をおくっていた。

 美波と会った時に、いつも出産について熱く語る彼女を見て、翔はこう思った。
(そうか。今まで自分はなぜこれ程まで出産したかったのか良く分かってなかったのかもしれない。言葉に出来なかった事を、カトミナはとてもうまく言葉でズバッと言い表してくれたんだな)

「カトミナ、前に言ってた『出産でキレイになる』っていう話、もっと詳しく聞かせて欲しいんだけど」
「ちょっと違うんだな。『出産は女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時』だよ」

 そして、美波はニコッと笑って今度はこう言った。
「私があれこれ言うよりも、百聞は一見にしかず。実際に見た方が早いよ。これから私の家に出産のDVDを観に来ない?」
「ぜひ観たい」

 美波の家は鷺沼医院のすぐ近くにあった。
「出産DVDは後で母親学級でも見るけれど、もっとずっとあなたに見せたいのがあるんだ」
「へーどんなの?」

「アクティブバース。自宅出産だよ」
 美波が翔に見せた出産のDVDは、家族全員の前で産んでいた。
「今は修行のために病院勤務だけど、いずれは助産院に転職してアクティブバースを極めようと思ってるんだ。将来的には自分で助産院を開きたい」

「カトミナすごいね。その夢叶うといいね」
「絶対叶えるよ」

 産婦は、まだあまり痛そうには見えない。
「もう始まってるの?」
「今は10分間隔くらいかな」

 少し経つと、かなり痛そうな表情に変わってきた。うめき声もすごい。間隔もだんだん短くなっていった。

「うわー不謹慎過ぎるけどちょっと変な気分になってきちゃった。だって表情と声がなんかエッチしてる時みたいだから。それに私、腹痛フェチっていうか、子供の頃、いや今もか。お腹が痛くなってウンチするのがちょっと気持ちよくて。だから女の人がお腹を押さえてるの見るとドキッとする」翔は、なぜか美波の前だとあっけらかんと本音トークをしてしまう。

「いやだーもう。でも私も同じ。ちょっとじゃなくてかなり気持ちよくない?」
 翔は、まさか同意してもらえるとは思わなかった。

「今の時期が一番辛い時期なの。いきみ逃ししなきゃだから。ちょっと汚い例えだけど、ひどい下痢でトイレに行きたいのを我慢しなきゃいけない所を想像してみて。それも普通の下痢の100倍痛いのを我慢するんだよ」

 この時期にいきんでもまだ赤ちゃんが子宮内にいるから出産が進まない。それで疲れてしまい肝心な時に力が入らなくなって難産になる。子宮口が開いて膣内に降りてくるまでは我慢しないといけないのだ。

「アクティブバースはね、自分が一番産みやすい姿勢をとるの。病院出産であお向けだと『産み落とす』じゃなくて『産み上げる』みたいな状態になって産みにくいから」

 産婦は四つん這いでやや横を向いた姿勢をとっていた。病院での出産のイメージを持っていた翔はこれにもびっくりした。

 翔は美波の解説を聞きながら、初めて見る無修正の出産動画に見入っていた。
「このDVDだと見えにくいけど、だいたいこのぐらいの時期に破水するの。そうなるとすぐ赤ちゃんの頭が見え始めるよ」
 もちろん下着は付けていない。無修正だからアソコも動くたびチラチラ見える。

「う~ん」
 さらに、苦痛の表情で一生懸命いきむ産婦の顔と、激しい痛みにうめく声がまるで快感を感じているかような錯覚に陥った。変な話であるがとてもセクシーだ。

精神的に激しい刺激を受けた翔は、ここの所かなり軽減していたPSASイクイク病の症状が再びぶり返してきた。
「んっ……」翔は、手を全く使わずに絶頂オーガズムに達してしまった。
(うう恥ずかしい……病気とはいえ出産シーンを見ながらイッちゃったよ。カトミナにはバレてるよなやっぱり)

 翔の危惧したとおり、美波はいつ翔が達したのか手に取るように分かっていた。でも、いつも女の股の間で仕事をしている専門家プロフェッショナルだ。全く顔色を変える事なく、いつもどおり出産への熱い思いを語っていた。

 良く見るとアソコの奥に赤ちゃんの髪の毛らしいものが見えていた。もうすぐ出てくるのだろう。
 産婦がいきむ声を上げるたびに、少しづつ赤ちゃんの頭が見えて、だんだん大きくなる。

「ここ、ここよ。肛門の方に力を入れて。なるべく長ーくいきんで。はい上手よ、その調子」

 助産師は産婦の肛門の当たりを押さえながら声掛けしている。そして陣痛の合間になると今度はいきむのをやめるように指示した。

「今痛くないでしょ……痛くない時は深呼吸を繰り返して。いきまないでハーハーして」

 陣痛の合間にはまた元の頭が見えない状態に引っ込む。少しずつ出てくる感じだ。

「なんか出そうでなかなか出てこないね。かなり頭が見えてきても陣痛の合間には元に戻ってる」翔もなるべく平静を装い、美波の話に合わせる。
「この時期が排臨。でもこの後頭が引っ込まなくなる。発露って言うの。それから少し経つと頭が完全に出てくる。頭が出た後は早いよ」

 美波は続けた。
「この時期が一番陣痛が強くて間隔も短いけど、いきめるからつらさは前半よりましかな」

 膣口からわずかに見えていたくらいの赤ちゃんの頭が、いつのまにかビラビラが壊れるんじゃないかと思う程、伸ばされて出てきている。さすがにこれは苦しそうだ。

 そして、ついに陣痛の合間にも頭が引っ込まなくなった。
「うわーこんなにアソコが広がるの? ちょっとびっくり」
「これが発露だよ」

「この時期に会陰切開するんじゃなかったっけ?」
 翔は、早紀から聞いていた事を美波に聞いてみた。

「アクティブバースでは会陰切開はしないの。だから赤ちゃんの頭が出てくる時にアソコが裂けないように、私達はしっかり会陰保護をするの」
 ついに、あかちゃんの頭が完全に外に出ると共に、すごい量の羊水が飛び出てきた。

 翔は美波の言葉が身に染みていた。出産は病気ではなく生理現象なのだ。陣痛はいわば大宇宙が子宮に与えた巨大パワー。その果てしないエネルギーに突き動かされ、体内の赤ちゃんを必死で産みだそうとするその姿は本当に美しい。こんなに女が魅力的な姿をさらす事は他にはないと思った。

「本当にすごい。感動するねー」
「でしょ。ここからがすごいから。良く耳を澄ましてね」
「耳を?」翔は何の事なのか分からず、思わず聞き返す。
「そう」

 頭が出たら後はすごく早かった。あっという間に肩、胴体、足とスムーズに全身が出てきた。頭が見え始めてから完全に出るまで、かなり時間がかかっていたのが嘘みたいである。

 そして、翔はこの時、自分の耳を疑った。なぜなら産婦が「気持ちいい!」と叫んでいたからである。それも3回も。介助していた助産師も「気持ちいいでしょ。気持ちいいね~」と声掛けしていた。

「感じちゃってるでしょ」美波は真顔で言った。「これAVじゃないからね。ちゃんとした医学教育用のDVDだから。助産師学校とかで見せたりするんだよ」
「すごい……こんな事あるんだ……」

 翔も激しく感じていた。既に何度も達している。もう美波の前でイってしまう事は翔にとって日常と化していたのだ。
「でも出産て死ぬほど痛いんでしょ。こんな風になるのってこの人くらいじゃないの?」

「ううん、他にもけっこういるよ。年の離れた旦那を捨てて若い男と結婚したタレントのМ.Мとか、シンガーソングライターのCとか、元AV女優のTのように、有名人で『出産が気持ちよかった』ってカミングアウトしている人は多いから。それに……」

「それに?」
「なにをかくそう、今あなたの目の前にもいるから」
「って、カトミナ?」
「そう。一人目産んだ時にね、すごく気持ちよかったよ。セックスよりもずっとずっと気持ちよかった」

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第4話は、翔に貞操の危機が訪れます。いったいどういう事でしょうか? お楽しみに!


第4話 大ピンチ! 男(?)の操


 翔と美波は、美波の家で一緒にアクティブバースのDVDを観ていた。驚くべき事にそのDVDに出演していた産婦は、出産で快感を感じていた。

 更に、美波も一人目を出産した時に、快感を感じていた事を翔にカミングアウトした。

 そして……
 出産直後の産婦の表情はとても気持ちよさそうだった。
 苦痛の限界から解放された事による至福の表情。さらに声も「フーフーフー、はぁはぁ」といった感じの安堵のため息。これはそそる。

「また興奮してきちゃった。だって今の産婦の表情がさっきとは違ったエロさだから」翔は目をトロンとさせながら美波に言った。もうずっとPSASイクイク病の症状が出っぱなしになっていた。お酒を飲んだ訳でもないのに泥酔しているような状態だった。

「ものすごくスッキリするからね。なにせ10か月に渡る便秘が一気に解消されたようなものだから。かなりの爽快感かも。でも子供が生まれた感動でそんな事考えてないと思うよ」
「すごい例えね。でも的を射てる」

 お母さんと赤ちゃんをつないでいたへその緒が切られた。
「本当見て良かった」
「まだ続きがあるよ。へその緒が出てるでしょ。このあと胎盤が出てくる」

「そうだよね」
 少し経つと胎盤が出てきた。
「ちょっとグロいかな。でも場所によってはこれ食べる風習がある所があるの。レバーみたいで結構美味しいよ」

「それにしてもすごい量の血だね。生理どころじゃない」翔はなんとかして平静を保とうとなるべく冷めそうな話を振ってみるも、ほとんど効果なし。

「ねぇ、早紀」
「ん?」
「あなた、今とっても感じてるでしょ?」

 図星だった。顔がカーッと熱くなり、頬を真っ赤に染める翔。
「いいよ、そんなに恥ずかしがらなくたって。私もだから」

 美波はそう言うと、翔の手を取り、自分の股の間に持っていった。
「カトミナ、すごい……こんなに濡れてる……」
 美波のそこは愛液ラブジュースでぐっしょりだった。

「私ね……他の人が出産している所を見るのもとても感じるの。出産フェチって言うのかな……」
「私もそうかも……アッ……もうダメ……」翔は、秘められた性癖が開花したのを感じ、ひときわ深い絶頂を迎えて喜びの声を上げた。
「ああああっ!!」

「かわいいのね、早紀……好きよ……」美波は翔の耳元でささやいた。
(えーっ! 今好きって言ったよね? 聞き間違いじゃないのか?)

 そして、素早く翔の肩に手を回し、唇を重ねてきた。
 美波は翔とキスしたのである。しかもかなり上手だ。

 翔は不覚にもうっとりしてしまった。なんという情熱的なキスなのだろう。まずは軽く唇を重ねただけだったが、すぐに舌を絡めてきた。すごいテクだ。
(……あっ……またPSASの症状が……イッちゃう……)

 美波が呟いた「出産フェチ」という言葉。翔は多分自分も同じだと思った。そうか。だから出産したかったのか。胸が苦しくなった。次々と異次元の快感が込み上げてくる。
(ダメだ、気が遠くなる。体が動かない……アアッ……)

 すると、美波は翔から身体を離して別の部屋へと姿を消した。良かった。このままでは翔も美波の誘惑を拒否する自信がなかったからだ。ところが……

 美波はとんでもない物を持って再び翔の前に現れたのだ。双頭ディルドである。レズプレイに使う、両側が男性自身を模した形をしているロングディルドだ。
「早紀、あなたってとてもかわいいわ。私がもっとすごい快感を教えてあ・げ・る」
 
 美波はディルドの一方を自分に入れてから翔を押し倒し、もう一方を入れようとした。

「い、嫌……私さすがに女の子とするなんて……ダメ……」翔はもともと女の心を持っていたのか、それとも早紀への深い愛からなのか、ごく自然にこのセリフが出て来た。

 レズには役割がある。タチとネコ、更に両方できるリバ(リバーシブル)である。タチは男役。リードする側だ。そしてネコが女役。リードされる側である。美波はタチ寄りのリバだった。

 翔は、入れ替わる前も小柄でケンカ一つした事もない男であった。今は早紀という女の身体で、しかもPSASでヘロヘロになっているのだ。

 その上、出産フェチという秘められた性癖に目覚めたばかりというおまけ付きである。

 こんな状態で、果たして翔は美波の誘惑を跳ねのける事が出来るのか!?

◇◇◇◇◇◇

 翔が貞操の危機に陥る少し前。カクヨムに登録して小説の投稿を始めた翔と早紀は、全く反応がない状態がけっこう長く続き、心が折れそうになっていた。

 そこで早紀の提案にしたがってツイッターを始めてみたものの、初めのうちはフォロワーも少なく、状況は変わらなかった。

 あいかわらずコメントもレビューもゼロ。ほんのわずかPVページビューが増えた程度であった。

 そんなある日、ついに初レビューが入った。とても温かいレビューだ。

 これを読んだ翔と早紀は、飛び上がって喜んだ。

 それだけではなかった。レビューがされるとカクヨムのトップページにリンクされるのだ。

 その結果、レビューがされた日の一日で今までのPVをすべて足したよりもはるかに多くのPVが得られ、更にハートやコメントをもらえるようになった。他の執筆者の方達とも繋がるきっかけとなったのである。

 こうなってくると執筆活動に大きな変化が生じた。今までは悶々としながら孤独な執筆作業を続けるのみであったが、温かい交流が生じて精神的に癒されると共に、今までのやり方でまずかった点、改善すべき点が明確になってきた。

 まずは、既に書いた原稿を、一刻も早く誰かに読んで欲しいと思い、あせって一気にアップしてしまっていた。これは大変もったいない事なのだ。

 なぜなら、新着記事というトップページにリンクされるチャンスが減ってしまうからだ。

 次に、良く考えずにタイトルを決めていた。特にウェブ小説としてはいただけないタイトルだった。また、当初はサブタイトルなしであった。

 タイトルから物語の内容が分かりにくかったのだ。

「クマノミの出産」これではどんな話なのかさっぱりわからず、人間のサガとして分からないものはスルーするという事になってしまう。

 これからどの小説を読もうかと物色している状態から、一歩進んで読んでもらう必要がある。そのためには、ぱっと見てどんな話か分かるタイトル(さらにキャッチコピー)でなければいけない。

 だから長いタイトルが多いのだ。単に一時的に流行っているだけではない。

 更に、各話ごとの題をつけていなかった。当初、章にのみ題を付け、各話については数字で示していた。これは、一般の小説をまねたのである。

 一般書籍ならばそれでも特に問題はないのであるが、ウェブ小説では困る。なにしろ貴重な時間を費やして読んでもらう訳だから、各話ごとにどんな話なのか分かった方が良いのだ。

 もし仮に、途中で多少つまらない話があったとする。でも、その後とか2~3話先に興味深い題の話があれば、「読んでみよう」という気になってもらえる可能性がある。

 ところが、数字しか並んでいなければ、もうその人は脱落して戻って来てはくれないのだ。

 当初はプロフィールにもほとんど情報がなかった。これでは自分に合った読者が獲得出来ないというミスマッチの原因になってしまう。

 一話あたりの文字数が多すぎた事も、改善すべき事項だ。文字数が多すぎるとなぜまずいのか。なにかの事情で、どうしても途中で読むのを中断しなければならない時がある。

 そんな時、文字数が少なければその話を最後まで読み、続きは次の話とすれば良い訳だ。

 ところが、話の途中だと、自分がどこまで読んだのかが分からなくなってしまう。

 だから、目安として1話あたり3000字以下ならば、この問題をクリア出来る。

 当初、多い話だと1話1万字とかになっていた。これだと明らかに多すぎる。

 ここまでの事項は、翔と早紀が他の人の作品を読んでいる時に、「これはまずい」と気が付いたものだ。

 他には、ランキング上位や面白い作品を執筆している人達がどんな事をしているかという事がとても参考になった。
 
 例えば、☆や♡をもらうための記載がなかった。ランキングをあげるためには☆や♡をたくさんもらう事が重要である。とはいえ、ひと手間要するこのアクションを取ってもらう事はなかなか大変なのだ。

 何もなければそのままスルーされてしまい、あまりしつこくても嫌われる。

 そこで、章が終わった時等、区切りのいい所でお願いの記載をする事にした。また、なぜ☆や♡をくれるのかの理由を提示した。

 パソコンの画面ではあまり感じなかった事が、出先等でスマートフォンやタブレットで読むと大変読みづらい文章だった事に気付いた。行間がギッチリと隙間なく、読みづらい状態だったからだ。

 このような改善が功を奏し、またツイッターのフォロワーが増加して徐々にバズり始めた。

 バズるというのは、インターネット上でSNSSocial Networking Service等を通じて爆発的に話題になる事をいう。英語の「buzz」を語源として作られた造語である。

 英語の「buzz」は、元々「ブーン」といった音を表した語であるが、転じて人の噂話や口コミによる評判等を意味するようになった。

 かくして、翔と早紀の作品はだんだんランキングの上位に食い込む事が出来るようになったのである。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第5話は、貞操の危機に陥った翔。一見抵抗不能な状態に見えます。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

第5話 私、男も女も愛せるの……


 ランキング上位に載るようになると、おのずとTOPページを見るのが楽しくなる。それと同時に、いかにTOPページの研究不足だったかを痛感した。TOPページは、色々な改善ネタの宝庫なのだ。

 まず、コンテスト期間中はランキング上位がかなりのスペースを占める。そして、注目の作品。これは5分ごとに入れ替わる。新作時、更新時、長編(8万字以上)の完結時、レビューされた時、新着自主企画時等にTOPページにリンクされる。

 同様に、お知らせのチェック不足も実感した。意外と重要な情報がさりげなく示されているからだ。

 色々な失敗もしてきた。でも失敗は誰にでもある事だ。大事なのは同じ失敗を繰り返さない事である。この経験を今後に生かしていく事が大切だ。

 そんな中で、また新しい試みを実施した。短編の投稿である。

 早紀は仕事の合間に、翔は家事と、慣れない早紀のために在宅時のデスクワークもこなしていたため、その合間にもう一作の長編の連載を加えるのは難しい。しかし短編で、それも完全な新作や続編ではなく、スピンオフという形をとればなんとかなると考えた。

 スピンオフとは、「派生作品」の事だ。元々は海外のドラマや映画から日本に広まったと言われている。外伝、番外編等とも呼ばれる。

 元となる作品の世界観や設定等を引き継ぎ、本編で登場した脇役を主役にしたり、まったくテイストの異なるストーリー展開とする。本編とゆるいつながりはあるが、続編ではない作品だ。

 例えば、ドラマ「相棒」にはスピンオフが多い。俳優の六角精児演じる「鑑識の米沢守」を主人公とした「鑑識・米沢守の事件簿」や、俳優の川原和久演じる「捜査一課の刑事、伊丹憲一」を主人公とした「相棒シリーズ X DAY」等がある。

 特に日本では、漫画やアニメの人気作品のスピンオフが多い。例えば、荒木飛呂彦の人気マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」の登場人物である、岸部露伴を主人公にした短編集「岸部露伴は動かない」等が有名だ。

 スピンオフのメリットは、執筆においてかなり手間と時間のかかる「世界観構築」や「キャラクター作り」が不要で、文章も流用できるため、新作よりも手軽に作れる事があげられる。それでいて、場合によっては本編よりも面白い作品を作る事も不可能ではない。

 まあ、創作の楽しみは少ないのであるが。

 実際に、翔と早紀は本編よりも人気を博した作品を作る事が出来た。

「赤いきつね」「緑のたぬき」幸せしみるショートストーリーコンテストに、夫婦愛を描いた作品を出した。

 当初は、このコンテストに参加する予定はなかった。でも、ある人の作った家族愛を描いた作品に感化されて、締め切り間際に急いで書き上げた「セミダブルベッドで愛を語る~ある夫婦がセックスレスになった甘く切ない理由」という作品で参加した。

 この作品は残念ながら受賞はかなわなかったものの、長期間ランキング上位に残り続け、翔と早紀の前途が明るいのだと感じるきっかけとなってくれたのだ。

 小説の執筆と同時並行でスタートした早紀のブログと、再開した翔のサイトでも動きが出て来た。訪問者から色々な相談等のメールやコメントがされ、真摯に回答する事でお礼がされたのだ。これも良い励みになった。

 特に、早紀の闘病ブログでは、今までPSASイクイク病の存在を知らず、自分は色情狂なのではないかと悩み、自殺を考えていた人が強く生きようと考え直し、それが早紀のブログのおかげであるというメールが届いた。

 翔のサイトでは、再開のあいさつとして結婚して子供が出来た事を報告した。すると、激励とお礼のメールが相次いだ。翔のようにセックスが出来なくても、ちゃんと結婚して子供も出来るのだという事実が、多くの同じような悩みを持つ人達の光となったのだ。

◇◇◇◇◇◇

 一方、美波の誘惑に陥落寸前の翔はどうなったのであろうか。

 やっぱり翔は早紀の事が大好きなのだ。翔は渾身の力を振り絞って美波を引き離して言った。
「ごめんカトミナ。あなたはすごく魅力的だよ。でも私、主人の事が大好きなの。お願い、離して」

しかし、美波はそう簡単にあきらめるような女性ではなかった。
「早紀、あなたの事が好きなの。世界中の誰よりも大好き。私の気持ちに応えて。お願い」美波の目は真剣だ。決して冗談半分ではなさそうだ。
「あなたのおなかの子はどうなるの。上のお子さんもいるんでしょ。女の子だっけ?  それに旦那さんを愛していないの?」翔も負けずに返す。

「愛してるよ」美波はこともなげに言う。
「それなのに私の事好きってどういう事?」

「ちょっと話すと長くなるんだけど……しょうがないな。私もあなたを無理やり犯すつもりはないから。ちゃんと分かってもらいたい」
「聞かせて」

 翔はとにかく時間を稼ごうと考えた。今のままでは美波にヤラられるのは時間の問題である。でも身体を鎮める事が出来ればどうにかなると考えた。そうこうしているうちに上の子か、旦那が帰宅してくれれば美波も自分に手を出そうとは思わないだろう、そう考えての事だった。

「まず私は男も女も愛せるの。バイセクシャルって言うのかな」
「知ってる。LBGTのBでしょ」
 翔もトランスジェンダーだから、やはりセクシャルマイノリティーである。それなりの知識はあった。しかし美波の方がずっと深い知識と経験を有していたのである。

「バイなんだけど、実はかなりガチレズに近いの。主人の事も好きだけど、結婚したのはどっちかと言うと子作りのためかな。女同士の方がずっと気持ちいいから」

 美波は更に続けた。
「男なんてせいぜい数回達しただけで打ち止めになっちゃうからね。女同士なら体力の限界まで愛し合えるよ。まさにエンドレス・ラブ。だから早紀、私としよっ!」
「そんな……」翔はとてつもない身の危険を感じ、身構えた。

「早紀、私はてっきりあなたはこちら側の人間だと思ってたよ。だって私を見る目がすごくいやらしかったから。変な言い方でごめんね。嫌じゃないよ。嬉しかったんだ。だって私あなた超好みでど真ん中ストライクだから」

 翔の性的指向は女だ。よく勘違いされるのが性自認と性的指向である。性的指向とは「どんな性を好きになるか」を表す。

 性的指向は一般の人には良く性自認と混同されているが、それは「男は女を好きになる→性自認が男なら性的指向は女に向く」「女は男を好きになる→性自認が女なら性的指向は男に向く」という思い込みがあるからだろう。

 だから、早紀の身体になっていても、翔の心は女好きのままである。この事が美波に「翔が自分と同じ側の人間=同性が好き」という勘違いをもたらしたのだ。

 そして、これとは別に明らかに「美波と同じ側」な事がある。「出産フェチ」という性癖だ。いくらPSASという病気とはいえ、出産シーンに激しく感じてしまったのは事実である。

 更に、こうして早紀の身体と入れ替わった上で、目の前の美波の誘惑に際し、少しだけ女同士のセックスに興味が出て来たのも事実だ。美波のいう事にも一理あると言わざるを得ない。

(まずい……このままではカトミナにヤられてしまう……なんとかしなければ) 
 イブに助けを求めようかとも思ったが、よだれを垂らしながら高みの見物をしかねない彼女を想像して首を振った。

(自分でなんとかするしかない……ええい一か八か……)
「あなたの気持ちには応えられない。許してカトミナ……」

 翔は必死で美波の股間に手を伸ばして愛撫した。すると……
「アアッ……やめ……すごい……」
(ん……思ったよりいい感じだぞ……よし、この調子でカトミナを懐柔するしかない)

「早紀……嬉しい……私の気持ちに応えてくれたのね……なんて上手なの……ああ気持ちいい……う~ん、イクッ!」
 翔の愛撫で美波はすぐに最初の絶頂を迎えた。これは一体どういう事なのか。

 翔も早紀もセックスレスで、オナニーの見せっこばかりしていたのだ。セックスはおろかペッティングすらした事がない。他人の身体を愛撫した経験はほとんどないから、本来ならば百戦錬磨の美波をメロメロにする程テクニシャンではなかったはずだ。

 でもそうではなかった。これは翔が早紀という「女の身体」を手に入れていたからである。

 しかも早紀はPSASで、その症状を鎮めるために通常では考えられない回数で自分を慰めていた。その回数は普通の女性の一生分に相当する。つまり早紀は無意識のうちに、自分自身という「女の身体」を感じさせる驚くべきテクニシャンになっていたのである。

 さすがの美波も、この秘められた早紀のテクニックで何度も絶頂を迎え、あっさりと陥落した。
「早紀……もうダメ……ゆるして……身体が動かない……」

 翔は、心の中で今は翔の身体になっている早紀に謝った。
(早紀ごめん。君以外の女性にこんなに快楽を与えてしまった。でもこれはカトミナへの愛じゃない、君への愛がゆえの苦肉の策だから)

 こうして翔は、ギリギリの所で早紀への操を立てる事が出来たのだった。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第6話は、かろうじて貞操の危機を免れた翔。だが今度は別の危機(チャンス?)が! いったいどうなるのでしょうか。一瞬たりとも目が離せない! お楽しみに!


第6話 あなたに子供を産む所を見て欲しい……私も見たい


 美波はしばらく放心状態でぐったりしていたが、やおら起き出したかと思ったらすぐにまたうずくまって、お腹を押さえてうめいた。
「あ……痛いっ」

「……大丈夫? カトミナ」
「始まったみたい……陣痛だこれ。あ……痛っ……」
「え~っ!」

「もう予定日まであと3日だからね。十分あり得るよ」
「そんな状態で私としようとしたの……もうカトミナったら!」
「さっきは素敵だったよ。でもこれでしばらく無理ね。ちょっと残念……うう……おなかが痛い……」

「あれが最後だからね。もう二度とダメだから。ところでさ、カトミナ出産が気持ち良かったんじゃないの。初産で快感だったら二人目以降はもっと気持ちいいんじゃ……」
「うううっ……気持ちいいのは最後の産まれる瞬間だけだよ。それまではやっぱめちゃくちゃ痛い。でもそれもたまらなく好きだけど。あっ痛っ」

「カトミナ、あなたって実はマゾなんじゃ……」
 美波はだんだん陣痛の間隔も短くなってきたようだ。
「おしるしも来たみたい。間違いない、絶対始まってる」

「鷺沼先生の所へ行く? 私送っていくよ、肩を貸して」
 すると美波は首を横に振った。

「早紀、私ここで産みたい。鷺沼先生にも自宅で生みたいって伝えてあるの。もうすぐ上の子と、主人も帰って来るから。それまで側にいて欲しいの」

「いいけど……大丈夫?」
「大丈夫……っく、上の子もここで主人と二人で産んだんだ。良かったら……」

 美波は、苦痛に堪えながら必死で笑顔を見せる。そして……
「あなたに、私が子供を産む所を見て欲しいの……うっ、」
「え~っ! それは見てみたいけれど……」

「でしょ。あなたに私が一番綺麗キレイになった姿を見て欲しい。……お願い、私の事ずっと見ていて」美波は目をうるませながら哀願した。

 さすがの美波も出産中に自分を襲う事はないだろう。翔は、美波の出産に立ち会う事で、自分の出産にプラスになるであろう事を考え、承諾した。

「私も、ぜひあなたが子供を産む所が見たい……」
「早紀、ありがとう。ううう痛い~」

 それにしても、美波の旦那は出産の場に友人の女性(?)が同席する事をどう思うのだろうか? こんな事して大丈夫なのか? 実は美波の所の夫婦は驚くべき関係で繋がっていたのである。

◇◇◇◇◇◇

「セミダブルベッドで愛を語る」の健闘ぶりに気を良くした翔と早紀は、さらにカクヨムコンの短編に、色々な作品を作って応募した。

 個人的に百合好きの翔は、「お姉ちゃん大好き! カワイイ妹がぐいぐい迫って来るのだが」という作品と、LBGTの悲哀をからめて私小説的な「セクシャルマイノリティーが結婚したら悪いか」という作品を作った。後者は特にランキングが高く、読者選考を通過する可能性が高い。

 やはり自分がセクシャルマイノリティであるため、リアリティのある内容となり、しかも興味を持つ人の多いテーマである事が幸いしたようだ。

 さらに、株式投資の経験のある翔は、「こうすれば、株で生活できるかも!」という作品を作り、応募した。

 早紀は早紀で、絶対に翔には見せたくないと言っていた以前書いた自称「恥ずかしい恋愛小説」を少しアレンジした作品を応募した。タイトルは「好きだから、好きと言えなかったあなたへ」である。

「早紀のぜんぜんエロくないじゃん。なんでこれが恥ずかしいの?」
「当然エロい部分は書き換えてあるからね」
「オリジナルが読みたいな~」
「ダメ! ゼッタイ!」

 カクヨムコンの中間選考結果の発表が近づいていた。昨年の実績によると通過率は約10%との事である。

 残念ながら「クマノミの出産」は総合での順位が悪かった。昨年よりも異世界ファンタジーや現代ファンタジー、ラブコメ等の激戦区がかなり手強かったようだ。残念ながら今回は通過可能性は低い。

 短編のうち、翔の作品は3つ共ランキング上位で、通過可能性が高かった。しかし、少し問題があった。

 それは、カクヨムがエロに異常に厳しいという事である。

 翔の作品のうち、「お姉ちゃん大好き! カワイイ妹がぐいぐい迫って来るのだが」と、「セクシャルマイノリティーが結婚したら悪いか」の二つはかなり性描写がされている。もっとマイルドな描写であるにもかかわらず、カクヨムの運営から警告を受けたり、公開停止になってしまった作品もある。

 これに対して早紀の「好きだから、好きと言えなかったあなたへ」は性描写こそないものの、残念ながらランキングはあまりいい位置につける事が出来なかった。

 今回は翔の短編3作品が通過可能性大であった。

 そんな中、ついにカクヨムコンの読者選考結果が発表された。

 まずは第7回カクヨムWeb小説コンテスト。残念ながら翔の長編小説、「クマノミの出産」は通過出来なかった。

 次にカクヨムWeb小説短編賞2021。翔の作品は2作品が通過した。

「セクシャルマイノリティーが結婚したら悪いか」と、「こうすれば、株で生活できるかも!」である。

 残念ながら、翔の「お姉ちゃん大好き! カワイイ妹がぐいぐい迫って来るのだが」と、早紀の「好きだから、好きと言えなかったあなたへ」は通過できなかったのである。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第7話は、予定日よりも少し早く陣痛が始まったカトミナ。翔の貞操の危機は免れたが、カトミナの赤ちゃんは大丈夫なのか! お楽しみに!


第7話 やっぱり出産する女はとてもキレイだ


 美波の出産に立ち会う事になった翔。

 しかし、翔はPSASイクイク病でしかも出産フェチという性癖に目覚めたばかりである。はたして何事もなく、無事美波の子供は生まれるのだろうか。


「まだ弱い陣痛が長い間隔でじわじわときてる感じかな。まだけっこう時間がかかりそう。早紀、何か用事があったら今のうちに済ませておいて。旦那さんには連絡した?」

「まだ。これからするね」


「私も主人に電話する。仕事を切り上げてすぐ来るように言わなきゃ。あと上の子はお母さんに保育園まで迎えに行ってもらって、そのまま面倒見てもらう」

 さすがに、まだ幼い子を出産に立ち会わせるのは刺激が強すぎるのだろう。


「もう少し大きくなったら子供にも立ち会わせようと思ってるけどね」

「カトミナ、あなた何人産むつもりなの?」

「出来るだけたくさん。2人くらいじゃやめないよ」

 美波は、陣痛の合間に旦那と母親に電話していた。


 翔も早紀に電話した。

「今カトミナの所にいるんだけど、彼女陣痛が始まってしまって。それで彼女の出産に立ち会う事になった」

「へー。いいんじゃない。きっと参考になるよ」

「ちょっと遅くなるけど迎えに来てね」


「でもいいなあ。私も見たい」早紀も興味津々な様子だ。

「(小声で)今の身体じゃ無理でしょ。残念だけど」

「そうだね。後で感想聞かせて」

「うん」


 だんだん陣痛が強くなり、間隔も短くなってきた。

「ンんっ……アアッ!……」

「カトミナの声エッチしてる時みたい。気持ちいいの?」


「良くないよ。とにかく痛い。それに今の時期はいきみたいけどいきめないから苦しいんだよ。子宮口が全開になって分娩第2期に入るとかなりいい感じになる。私いきむの好きだから」

 いきみたいのにいきめないこの状態は結構辛いのである。さすがの美波もしんどそうだ。


 必死でいきみ逃しをする美波。なかなか時間が経過せず、長い苦しみの時間が少しづつ進行していった。


 かなり時間が経過し、ようやく変化が現れた。

「あ……破水したかも。水がおりて来た」

「破水ってかなり出産が進んでから起こるんだっけ?」翔が尋ねた。

「そう。普通だと子宮口が全開大してから。羊膜が風船みたいにふくらんで破裂するから、感覚を研ぎ澄ませると身体の中で何かがはじけるような感じがするよ」


「そういう実況があると本当に勉強になる。やっぱり立ち会って良かった」

「でしょっ。ううっ……」

「大丈夫?」

「 破水すると急に陣痛が強くなるの。んっ、はぁっ」


 かなり苦しそうな表情を見せる美波。

「でももういきめるから楽なんだ。痛みにあわせて思いっ切りいきむとちょっと気持ちいい」


 何度かいきむ美波。

「うーーーーん」

 心なしか表情が柔らかい。

「痛いけど気持ちいい……」


「あなたって本当にすごい助産師だね」翔は感心して伝えた。

「もうすぐ主人が戻って来るの。その前にあなたに大事な事を伝えなくちゃ」

「何? 大事な事って?」


「私達の出産はとても変わってるの。オーガズミックバース※って呼ばれてる」

※ オーガズミックバースは「オーガズミックバース 〜気持ちいいお産の秘密〜生命の根源とセクシャリティ」という映画に登場した驚異的な出産方法の名称

https://peraichi.com/landing_pages/view/naturalbirthclub/


「出産は本来気持ちいい事なんだっていう考え方に基づいて、出産を積極的に楽しむの。そうすれば私みたいにきっと気持ちいいお産が出来ると思う」

「そんなものなの?」

「そう、難しく考えちゃだめ」


 美波は更に続けた。

「それと、あなたの場合PSASの症状があるでしょ。陣痛の合間に症状が出ると思う。かなりきついと思うよ」

「それってけっこう心配なの。詳しく教えて」


「出産時は産道に大きな刺激が来るでしょ。電車の揺れなんてレベルじゃない刺激だからね」

「やっぱりそうなんだ」


「だから陣痛の合間に身体を休める事が難しくなるの。私が産む所を良く見ていて。それがどんな事なのかあなたに見せてあげる」

「お願い」

 美波はプロ意識からなのか、それとも早紀(翔)への愛情からなのか、自らを人柱にする事に躊躇ちゅうちょはなかった。


 美波は自分の股間の一番感じる突起をやさしく触った。

「あン……」何と美波は陣痛の合間に自分で自分を慰め始めたのだ。

「カトミナったら何て事を……」


「早紀、目をそらさないで。しっかり見て」

「そんな……」あの美波が恥じらいで顔を赤らめながらこちらを見つめている。

「あなたはもっと激しく感じる事になるから。あなたが産む時に絶対参考になるから」


 美波は真剣そのものだ。

「PSASのあなたは、苦痛と快感に交互に襲われて、一時も休めない状態になる。耐えられなければ自然分娩は出来ないよ」

「分かった。私絶対下から産みたい」


 翔は覚悟を決めた。せっかく美波がここまで自分の事を考えてくれているのだ。これからの出産に向けて、出来る事はなんでもしておこうと思った。


 すると……

「ただいま」

「おかえり。今破水したから、もうすぐ生まれる。早く手伝って」


 美波の旦那である加藤辰巳たつみは翔の方を見てびっくりしている。それはそうだろう。なにせ今にも生まれそうな様子で陣痛に苦しむ美波のそばに、見知らぬ女性がいるのだ。

「辰巳、紹介するね。友達の早紀」美波は、辰巳に翔を紹介した。


「原口早紀です。今日は美波さんの家に遊びに来ていたら突然陣痛が始まってしまいました。今まで心配なので付き添っていましたが、私はこれで失礼します」

 翔は、美波の出産に立ち会いたいのはやまやまであるが、旦那さんが帰宅した以上は自分がひどく場違いな気がして、帰ろうとした。しかし……


「待って早紀」美波は翔を引き留めて、旦那である辰巳に言った。

「辰巳、早紀に私達の出産に立ち会ってもらいたいの。ねぇ、かまわないよね?」

 すると、辰巳は少し困ったような表情で言った。


「早紀さん、あなたさえ良ければここに残っていただけませんか?」

 本心ではないかもしれない。でもせっかく夫婦そろって立ち合いを希望してくれているのだ。ここに残らない手はない。


 単刀直入に言えば、翔は立ち会いたくてウズウズしていた。なにせ出産フェチであるし、これから来る自分の出産に役立てたかったから。

「本当にいいんですか。私お邪魔ではないでしょうか?」


 美波は断るはずがなさそうなので、翔は辰巳の方を見ながら尋ねた。

「ぜひお願いします。でも……」

 辰巳の表情はさほど嫌そうではないみたいだ。でも何か言いたそうな感じがしたので、翔は続けて聞いてみる。


「何でしょうか? ぜひおっしゃってください」

「私達の出産はとても変わっているというか……ちょっと一般の方の参考にはならないかもしれないんです」


 翔は辰巳に伝えた。

「そんな事ないと思います。先ほど美波さんからお話しを伺いました。絶対参考になると思います。だからご迷惑でなければ私も立ち会わせてください」

 翔は、興味津々で美波達の出産への立ち合い継続を決意した。


「早紀、出産の様子をスマホで撮影してくれる?」

「いいよ」

「そこにミニ三脚があるでしょ。録画ボタンを押したら、あとは三脚に固定して置いておけばいいから」


 今どきのスマホの動画機能は、数年前のムービーカメラよりもずっと性能が良くて操作も簡単である。動画に撮っておけば後日何度でも見返して、参考にする事が出来るのだ。


 美波は陣痛の合間には部屋の中を歩き回っている。歩きながら大切な所を触っていた。出産の進行を確かめながら、快感も得ていた。

「うくっ」時おり、痛みなのか自慰の快感なのかわからない感じで微妙にうめく美波。


 そして、陣痛が来ると小さなトイレのような椅子に座っていきむ。

「カトミナ、その座ってるの何?」

「分娩イスって言うの。これに座るといきみやすいよ」


 可愛らしいマタニティウェアをまくり上げ、下着を脱いで分娩イスに座る美波。そして股を少し開いた美波の前で、美波の旦那が出産の手伝いをしている。


 美波はウェアも脱いで生まれたままの姿になった。足に保温のためのルーズソックスのような物を履いている。そして乳輪は黒ずんだ色素を沈着させ、広がっている。同様に色濃くなりながら親指の先くらい肥大した乳首。心なしか硬く勃っているかようだ。


 美波の身体はとてもセクシーだった。豊満で柔らかな女体の美しさそのものだ。

「くっ」翔はたまらず絶頂に達する。目のやり場に困ってしまう。


「カトミナ、裸にならなくてもいいんじゃない。下だけ脱げば」

「この方が産みやすいよ。汗びっしょりになるしね」

 美波は大きなおなかをさすりながら赤ちゃんへ優しく声をかけている。すっかり母親の顔になっていた。


 また陣痛がきた。懸命にいきむ美波。

「うーーーーーん」

 陣痛が止むと、再び分娩イスから立ち上がる美波。そして……


 驚いた事に、美波と辰巳は陣痛の合間にキスしたり、辰巳は美波の身体を愛撫しているのだ。甘いため息をもらす美波。

「どう? 早紀。これがオーガズミックバースよ」

「す、すごい……こんな出産なんてあるんだ」


 翔はあまりに非現実的な光景を目の当たりにし、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 とても立っていられなくなり、へなへなと座りこむ。

 翔にはあまりにも刺激が強すぎたようだ。

◇◇◇◇◇◇


 読んでいただきありがとうございました。


 次の第8話は、カトミナの言う「オーガズミックバース」を目の当たりにした翔。カルチャーショックとPSASの症状で気絶寸前に! これは貞操の危機以上のピンチだ! 果たして大丈夫なのでしょうか。 お楽しみに!


第8話 驚異のオーガズミックバース


 美波の出産に立ち会った翔。彼女とその旦那は陣痛の合間にキスしたり、美波の身体を愛撫していた。「オーガズミックバース」と呼ばれるその出産法に翔はカルチャーショックとPSASイクイク病の症状で気絶寸前になっていた。
「す、すごい……こんな出産なんてあるんだ」

 果てしない痛みと闘う美波。
「んんーーーッ!!!」
 分娩イスに座った彼女は歯をくいしばり、苦痛の表情でいきみ声を上げる。全身から大粒の汗が流れ出ている。

 その非日常の姿をしっかりと目に焼き付ける翔。すると……
「早紀、もっと近くに来て。赤ちゃんの頭が見えかかってる」
 美波はその指で大きく秘所を開くと、奥から黒々とした髪の毛がわずかに覗いているのが見えた。

「ほら……んっ」
「本当だ……すごい、もうすぐだね。がんばって」
「痛いッ──もうすぐ出るゥ……」美波がいきむと、その髪の毛が生えた胎児の後頭部の見え方が少しづつ大きくなる。

 陣痛の合間になると、出始めた黒いモノが引っ込む。それは今にも生まれようとする胎児の頭だ。新たな生命であった。

「今の時期を『排臨』って言うの。私は2人目だからすぐに赤ちゃんの頭が出てくるけど、あなたは初産だから1~2時間はこの状態が続くんだ」
「うんうん」翔はヘロヘロになりながらも、痛みに耐えて専門的な解説を加えてくれる美波の言葉を一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてた。

 彼女の周りには録画中のスマホが3台セットされていた。3人分のスマホを異なるアングルで撮影しているのだ。

 陣痛のピークの時にはマクロ機能という、接写を可能とするモードで本体を美波の身体に近づける。そこに映る彼女の産道と、そこを押し広げる胎児の頭。何度も黒い髪の毛が見え隠れを繰り返していた。
「くぅっ……アアッ!……う~ん」

 排臨の時期は、胎児の頭が徐々に進む。陣痛がきていきむと、それにつれて児頭は膣口から覗いてくる。美波がいきむ声に合わせるように出始めた赤ちゃんの頭部。しかし、その後に陣痛が止んで力を抜くと再び戻ってしまう。進むと戻るを何度も繰り返す。それにつれて出口が少しづつ押し広げられていく。

 美波の息づかいがかなり荒くなってきた。
「ハーッハーッ」
 陣痛の合間はいまや一分足らずにまで短縮されている。
「辰巳、ここからは自分でするから……いつ生まれてもいいように準備して」

 美波に言われて辰巳は身の回りの準備にいそしむ。
 美波は、翔(早紀)のためにこの貴重な次の陣痛に備えて体を休めなければならない時期に、その最も敏感な場所を触って頂点へ導く。

 彼女が望んだ絶頂ではない。PSASの発作に苦しむ翔と類似の感覚を味わい、その様子を翔に知らせるためなのだ。その事は翔も十分理解していた。

 そんな複雑な快楽に顔をゆがめる美波。彼女の体力の限界がすぐそこまで来ていた。

「くうッ……っ」
 声も表情も、苦痛か快楽か全く区別のつけようがない。この二つの感覚は本当に紙一重である。

 もどかしい児頭の一進一退は終り、経産婦の美波の排臨は、すぐに発露へと移行した。
「ほら……良く見て……赤ちゃんの頭が引っ込まなくなったでしょ。……ううっ……この時期を発露って言うの」
 自分が出産しながら、苦痛に耐えつつこうして解説してくれる美波に感心し、尊敬する翔。
 
「うーーーーんっ」最後の力を振り絞っていきむと、赤ちゃんの頭の一番大きな部分が体外に出た。

 ここからはいきむと会陰裂傷を起こしてしまう。病院出産のように会陰切開はしないから、ゆっくりと娩出しなければ大事な所が裂けてしまうのだ。

「はっはっはっはっはっはっ……」
 短息呼吸と呼ばれる呼吸法でいきみを逃す美波。
 頭が完全に出ると、すぐに肩も見え徐々に体も出て来た、あと一息だ。
「あぁぁああ~っ!!!……出るうゥ!!」

 ひときわ大きくうめく美波。その後はズルッという感じで赤ちゃんの下半身が出て来た。辰巳が赤ちゃんを受け止める。
「ハアッ、はぁ、ハア……はぁ」

 美波は体内を胎児が一気に抜けていく摩擦感と爽快感を味わい、恍惚の表情を見せる。
「美波、良くがんばったね。生まれたよ。また女の子だ。おめでとう」辰巳が声をかけた。
 まるでフルマラソンを走り終えたような激しい呼吸であえぐ美波。

 美波の股の間で、へその緒がついたままの赤ちゃんが産声を上げていた。
「ふぎゃあああああっ」
 美波は、自ら新しい命を産み出した幸福感に深く陶酔していた。
「ハアッ……すっごい疲れたあ……でもやっぱり気持ちよかった。はあ~スッキリした~。一人目よりもっとよかった。何人でも産みたいよ」

「おめでとうカトミナ。とてもキレイだったよ。私絶対あなたに取り上げてもらいたい。これからもよろしくね」翔は笑顔で美波に声掛けした。

「ありがとう。嬉しいよ」
 自分に気がある美波に取り上げてもらう事は、身の危険もなきにしもあらずではあった。美波に襲われそうになった時には、他の人に担当を変わってもらった方がいいとも考えた。でも、それ以上に美波のプロ意識と、出産に対する真摯な姿勢に賭けてみたいと思った。

 もうこの人しかいない。確かな確信であった。

「でもね、早紀。ちょっと厳しい事を言うかもしれないけど、今のあなたの体力じゃまだまだ自然分娩は難しいかもしれない。いつ緊急帝王切開に移行するか分からないの」

「そっか。そしたら私はオーガズミックバースは無理ね」
「そうね、それはちょっと無理。やっぱり鷺沼先生の所で産んだほうがいいよ」
「残念だな~してみたい」翔もやはりこの出産法を試してみたいだろう。

「もう! だから私がいない間も必ずマタニティビクスは続けて。出来ればジョギングなんかもするといいよ。がんばって」
「ありがとう」

 どれくらい経っただろうか。美波はようやく体の緊張が解けベッドへドサッと横たわった。今度は深い脱力感が襲ってきた。いきみと陣痛の合間の快感に疲れて苦しそうな息をする美波。すっかり放心し何も考えられない状態のようだ。

 へその緒が繋がったままの赤ちゃんを見て、無事生まれた嬉しさに笑顔を見せる美波。次いで、再び下腹部に軽い陣痛を感じた。分娩第三期、胎盤が出てくる時期である。

 辰巳は赤ちゃんのへその緒を切った。これで母親である美波との連絡が断たれ、赤ちゃんは一人の独立した人間としてこの世に存在する事になった。

 この後は胎盤が出てくる。

 子宮内から剥がれ落ちた胎盤が美波の体内から出る。赤ちゃんよりもずっと小さく、かるいいきみですぐに見えた。
「はあ~っ」

 胎盤が出てくる感覚に小さな吐息をもらす美波。彼女にようやく誕生の実感が込み上げ、嬉しさのあまりわずかに涙を浮かべていた。

 その後、無事胎盤も排出された。
「赤ちゃんは沐浴させないの?」
「うん、実は沐浴させない方がいいの」

 赤ちゃんには胎脂と呼ばれる白いモノがたくさん皮膚についている。でも、これをすぐにとったりせず、そのままにしておいた方が赤ちゃんの皮膚の保護になるのだそうだ。

 美波は大量の血液と羊水で濡れた股間部分を拭いた。胎盤を広げてデリケートゾーンを隠し、「早紀、記念撮影しよっ!」と無邪気に言う。胎盤はハートマークのような形をしていた。なんかいい感じだった。
 
◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第9話は、美波の夫、辰巳と翔が色々な話をします。どうなるのでしょうか。お楽しみに!


第9話 他人の馴れ初めはやっぱり気になる


 さすがの美波も疲れ切ったのか、そのままスヤスヤと寝息を立て始めた。

「早紀さん、びっくりされたでしょう。お恥ずかしい所をお見せしました」
 美波の夫、辰巳はほほを赤らめて翔に言った。出産の渦中では夢中だったのだろう。いざ落ち着いてきて自分がした事の意味を冷静に捉え、途端に羞恥が込み上げて来たのだ。

「いえ、そんな……たしかに最初は少し……でもすごく参考になりました。本当にありがとうございました」翔はお礼と共に言った。
「よかったら少しお話ししませんか」
「ぜひ。こちらこそお願いします」

「早紀さん、私と妻の美波はインターネットを通じて知り合ったんです」
「そうだったんですか。実は私と主人もインターネットで知り合いました」意外な同じ出会いに、翔は話をしようと思った。
「本当ですか? 偶然とは思えないですね。さしつかえなければお話しいただけないでしょうか」

「ちょっと恥ずかしいんですけど……実は私達夫婦はセックスレスなんです」
「本当ですか! 私達も同じです。いや~これはもう神様が私達を引き合わせてくれたとしか思えないですね」

「でもあんなに仲良さそうでしたのに、エッチしてないんですか?」翔は不思議そうに尋ねた。
「仲はとても良いんですよ。でもセックスしないで、先ほどの出産中みたいにペッティングとか、ひとりエッチの見せっこばかりしています」

「私達も同じような感じです」
「妻が目を覚まさないうちに、場所を変えてナイショ話しません?」
「いいですね。ぜひ」翔は少しワクワクしていた。

 辰巳と翔はベランダに出て話を続けた。
「すごく変な話なんですけど、私達夫婦は出産に性的な魅力を感じてしまうという性癖があります。『出産マニア』とか『出産フェチ』って呼ばれてます」

「変じゃないと思います。私、今まで気づかなかったんですけど、美波さんのおかげでその『出産フェチ』にすっかり目覚めてしまったみたいなんです。今日初めて本物の出産DVDを見せてもらって、その後に美波さんのあの出産でしょ。もうすっかりとりこになってしまいました」翔は目をキラキラさせながら言った。

「やっぱりなりますよね。私と美波はかなり幼い頃からこの性癖を自覚していました。普通のセックスはできないんです。だからインターネットでそういうサイトの掲示板で美波と知り合ったんです。実際に会うようになってからは美波の持っていた出産動画を観ながら、ひとりエッチの見せっこばかりしていたんですよ」

「そうでしたか。私達夫婦は少し違いますけど、やっぱり普通のセックスが出来なくて、主人がそういうサイトを運営していたんです。だから私達も一人エッチの見せっこばかりしてました」
 翔は自分の事を上手く早紀の立場で話せた。すっかり入れ替わった状況に慣れて、順応しているようだ。

「あるんですね。こんな偶然」翔は言った。
「今度もっとゆっくりじっくりお話ししたいです。ぜひ旦那さんも一緒に」
「はい」

「今日はそろそろ戻りましょう。美波の目が覚めて、私達がこんな話してるの知られたら怒られそうです」
「アツアツですね。うらやましいです」
(これはカトミナに口説かれたなんて絶対言えないな。墓場まで持って行かなきゃ)

 その後、早紀が迎えに来て、翔は興奮さめやらぬまま早紀の運転するリーフに乗り、帰路についた。

「早紀、今日は本当にすごい体験をしたよ。聞いてくれるかな?」
「ぜひ聞きたい。どうだった?」
「まず結論から言うと無事生まれた。女の子だった。上の子も女の子って言ってたから、2人姉妹だね」
「ふうん」

「それでさ、出産が始まる前に、カトミナと一緒に本物の出産のDVDを観たんだけど、これが壮絶で。だって産婦が赤ちゃんが出てくる時に『気持ちいい!』って叫んでいたんだ。それも3回も。自分の耳を疑ったよ」
「本当? そんなのあるの?」

「本当さ。更に介助していた助産師も『気持ちいいでしょ。気持ちいいね~』と声掛けしてた。AVじゃなくて真面目な医学教育用のDVDだって。助産師学校とかで見せたりするって」
「すごいね。出産って鼻からスイカを出すみたいだとか、男の人が経験したら死んじゃう痛みだとか言うのに、そんな快感を感じるような人がいるんだね」

「驚きだよね。しかもカトミナも出産が気持ち良かったって言ってて、その後の実際の出産の時もすごい気持ちよさそうだったよ」

「へー。やっぱり私も見たかったな。いいな~翔」
「スマホで動画撮ったからさ、後で一緒に観てみようよ」
「本当? うわー楽しみ……」
「元に戻ってもカトミナとは仲良くするといいよ。次も彼女に取り上げてもらおうよ」

「いいね。すごくいい人そうだしね」
(あ……しまった……そういえばカトミナは早紀に気があるんだった。でもそんな事言えないしなあ……黙ってて後でバレるのも怖い。どうしよっか)

 翔は途方にくれていた。美波は本当に困ったちゃんである。自分を口説こうとしたり、あんなに愛してくれている辰巳をじゃけんにしたり。

 自宅に戻って、翔と早紀は早速美波の出産シーンの動画を鑑賞した。
「陣痛の合間にBなんてしてるんだね」
「そう、これがオーガズミックバース。すごいでしょ」

 Bとはペッティングの事。Aがキス、Bがペッティング、Cがセックスという男女交際において体の関係を持つまでの流れだ。Cは、某アイドルタレントの歌のタイトルにも使われていたが、今や死語だそうである。

 排臨になると、美波は自らを慰めていた。
「今度は自分でしてる。これもオーガズミックバースなの?」
「そうとも言えるんだけど、これは僕のためでもあるんだ」
「どういう事?」早紀は、不思議そうな顔をして聞いた。

「出産中にPSASイクイク病の症状が出たらどうなるのか、僕の前で実演してくれたんだ。この時期は陣痛の合間がすごく短いから、本当は身体を休めないといけないのに。だから苦しそうでしょ」
「そう言えば肩で息してる。優しいんだね。それにすごいプロ意識」

「本当にね。カトミナぐらい熱心な助産師、そうそういないんじゃないかな。最近PSASの症状が軽くなったのも、彼女に瞑想とかアロマを紹介してもらったのが大きいんだ」
「そうだね」
「もう感動しちゃって。絶対下から産みたい」

 そしてクライマックスの胎児娩出だ。
「うわーすごいね。『出るゥ~』なんて叫んでる。表情も本当に気持ちよさそう」
「でしょ。この後で彼女も言ってたよ。すごく気持ち良かったって」

「私、何か感じてきちゃった。私も出産フェチなのかも」
 早紀もほほを染めて下を膨らませている。
「えーっ! そしたら僕達とカトミナ夫婦って四人ともそうだって事?」
「あ~やっぱり自分で産みたかったな。翔、すぐ二人目作ろうね。約束だよ!」

「もちろんさ。何なら今すぐにでも」
「バーカ。今妊娠中なのに作れっこないじゃん……アッ」
「あん……」
「すごい……」

 翔と早紀は、かなり大きくなった翔のおなかを気にしながらも、いつも以上に激しく燃える夜を過ごしたのだった。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 もし、カトミナ二人目出産おめでとう! と思っていただけましたら、ぜひ♡評価とフォローをお願いします。

 よろしければ、私のもう一つの長編小説「ひとり遊びの華と罠~俺がセックス出来なくなった甘く切ない理由」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816700429286397392

 次から第8章に入ります。第1話では、無事復帰したカトミナと翔が来るべき出産のためのバースプランを組みます。お楽しみに!

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