見出し画像

言葉を食べたい

まだまだ足りない。私は、言葉を食べたい。食べ尽くしたい。隅の隅まで食べ尽くして、ぜんぶ、ぜんぶ、私のものにしたい。どこまでも、使いこなせるようになりたい。

どんな言語も、どんな表現も、巧みに繰り出せる手練になりたい。誰もがハッと驚くような、目にした瞬間に読んだ瞬間に心を掴まれて離れられないような言葉を、私は使うのだ。もう数年も経っているのに、ふとした瞬間に思い出してしまうような表現を、私は繰り返すのだ。そんな、夢をみている。

言葉そのものを食べたら、どうなるだろう。どんな味がするだろうか。きっと、ひらがなか、カタカナか、漢字かによっても味が違うだろう。「ひ」はマイルドな味わいで、「キ」はクッキーみたいなほろ苦さ、「叶」は舌が溶けてなくなるくらいに甘い。想像だ、ぜんぶ、想像だ。

言葉に口をつけて、舌で触れて、前歯で噛んで、奥歯ですりつぶして、のみくだす。食道をとおり、胃に落ち、消化されて、やっとはじめて私のものになる。言葉がほしい、言葉を食べたい。


「なぜ、書けないのだろう」「どうして、書こうとしないのだろう」と自分に対して思うことが、山ほどある。頻度にすると毎日だ。自分で言うのもなんだけれど私は幸福に生まれてきて、心身ともに健康だし両親は健在だし、お金に困ることもバカさ加減に泣きたくなることもそこまでなく、無事にここまで生きてきた。それなのに、「書きたい」という欲だけはしつこくある。

ここから先は

1,867字
月最低10本~最大20本の記事が読めます。リクエストにも軽率に答えます。

月刊・偏愛録

¥380 / 月

2020.05~フリーライターとして息も絶え絶えに死線をくぐり抜ける北村の月刊偏愛録。小説・エッセイをはじめとする読書録から、ハマっている…

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。サポートいただけた分は、おうちで飲むココアかピルクルを買うのに使います。