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「暮らしてみたい」と思える場所が、また増えた

旅が好きだ。

飛行機で行くにしても、新幹線や船で行くにしても、移動の段階からとてつもなくワクワクして、心が浮き立つのを止められない。

実は高いところはちょっと怖いのだけど、いちばん好きなのは飛行機移動。ちょっと早めに行って空港をぶらぶらするのも、本を買って機内に持ち込んで読むのも、うきうきする。

10月。世界は感染症対策に奔走している。大きな声で「旅行たのしい!」と言えない空気ではあるけれど、Go to トラベルなんてありがたいキャンペーンもやってくれているのだ。私にできることは、こまめにアルコール消毒しながら地域にお金を落としていくことのみである。

行先は香川。香川はずっと、憧れの対象だった。はじめての四国。はじめてのうどん県。

飛行機だったら1時間半ほどの距離が、なぜかこれまでの私には遠く感じられていた。乗ってしまえばこんなに早かったのに、私を阻んでいたものはなんだったんだろう、と到着したいまとなっては不思議に思ってしまう。

たくさんの人に出会った。月並みでほんとうに恐縮だけれど、旅先ではたくさんの経験と出会いに恵まれる。空港の受け付けのお姉さん、タクシーの運転手さん、カフェの店員さん、博物館の担当の方、ホテルのスタッフさん、道端で声をかけてくれた美容師のお姉さん。

みんなみんな、良い人だ。東京から来た私は、まかり間違ったら招かれざる客になり得るのに、誰ひとり迷惑がることもなく、あたたかく迎え入れてくれて。心身ともにあたたまった。

道端でチラシ配布していた、オレンジ色のマスクの美容師さんが、とくに忘れられない。私は気づいたらその場でハンドマッサージを受け、翌日もマッサージの予約を入れていた。

ショートカットがとてもよく似合って、オレンジのマスクが派手でかわいい、美容師のお姉さん。店内を覗いてみたら内装までオレンジでめちゃくちゃ派手でポップで、人目を惹く。

「ご旅行でお疲れなら、マッサージだけでもどうですか?」

渡されたチラシを見ると、初めての方限定でハンドマッサージ15分が1500円。ここは旅先だし、しも香川だし、確かに旅行で疲れているし……とたくさんの言い訳を心の中でしながら、中へ招かれていった。

「指先、痛いでしょう? 手を使う仕事なのはもちろん、頭も使う仕事だと余計に痛いんですよ。お姉さん、お仕事何されてるんですか?」

「ライターを少々やっておりまして」

「やっぱり!パソコン、デスクワーク!凝るわけですね~」

普段の人見知りが嘘のように、会話のキャッチボールが軽快に行ったり来たりする。これも旅先マジックだ。15分はあっという間に過ぎて、両腕で飛べるくらいに軽くなった。気づいたら、「明日も来ます」とマッサージを予約していたのだから、旅はやっぱり、自分を変えてくれる。

「これ、もし良かったら」

帰り際に渡してくれたのは、お姉さんとお揃いのオレンジのマスク。お揃いできる嬉しい!と思ったけれど、オレンジなんて明るい色、私にも似合うかな……と少しだけ不安になった。

「香川、最後まで楽しんでくださいね!また明日!お待ちしてます!」

でもきっと大丈夫。ここは旅先だし、香川だし。明るい気持ちでオレンジのマスクをつけて、私はまたここに来る。

まさか、旅の最中に誰かと約束をするなんて思わなかった。ただ美容室でマッサージの予約を入れただけなんだけど、私はまた、1日分の疲れと思い出を引っさげてここに来るのだ。

こうしてまた、暮らしたい場所が増えていく。次はいつ来られるかな、なんて、旅が終わったばかりなのに考えている。


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