そして今日もお湯を入れる

みそ汁を買った。

インスタントの12食入りのわかめみそ汁と、8食入りのあさりのみそ汁。中には、ダシから具から全部混ぜられた味噌が入っており、お湯を注ぐだけでみそ汁ができる。これに狂わされてから、もう3ヶ月近い。


その日はたまたま時間が余った。それも、3時間くらい次の予定まである。前の予定をともに過ごしたKさんと共に、カラオケにいこうかと話していた。

その当時カラオケはほぼ毎週行っていて、その日は前回のカラオケからあまり間があいていなかった。そこで、Kさんからの提案が、ネカフェに行こう。だった。

ネカフェという響きにはロマンがある。ネカフェとか漫喫とかと言われるものに漂う、不健康を体現したような空気感。アウトローな感じ。髪を金髪に染めるときのような背徳感があったので、ウキウキしてその提案に乗った。どんな場所なのだろう。泊まる場所がなかった先輩が一日過ごしたそうだが、泊まれるものなのだろうか。慣れた感じのKさんに全部任せ、私は一人ワクワクしていた。

初めてのネカフェは、想像以上に快適だった。図書館戦争を手に、シートへ入ると人間をダメにするソファーがあった。私は図書館戦争を数ページ読んで居るうちに、眠ってしまった。一度眠ると、体は鉛のごとく重くなる。ゆっくり起きあがるものの、中途半端に寝てしまっただるさというのはどうにもならない。

すると、Kさんが「ドリンクバーがあるから、何か飲むと良い」と教えてくれた。ファミレスのドリンクバーと同じ機械が設置されていて、自由に飲める。暖かいものが飲みたかった私は、スープのコーナーを見た。粉末のスープがいくつか置かれていて、お湯があった。スープはスプーンですくって入れるタイプだったが、どのくらい入れればいいのか解らないので、ちょっと怖い。その隣を見ると、インスタントのみそ汁があった。

これが、とんでもない効力だった。お湯を注いで出来上がったそれを飲むと、引くほど元気になった。体と言うよりも、脳の思考回路の方への影響が大きい。モヤモヤと頭の中で煙っていたものが、おでこのあたりをパカッと開けて換気したかのごとく消え去った。

すごく引いた。インスタントみそ汁で鬱々とした気分が消し飛んでいる自分と、実際問題感じているその魔法のような効力と、即効性。オカルトか、そうでなければ麻薬か何かかと思った。Kさんも引いていた。


一応調べてみると、味噌や大豆に含まれるアミノ酸によって、なんだかいい感じになることがあるらしい。詳しい原理はよくわからないが、実際に効果が抜群なのでみそ汁を夜や朝に飲むようにしている。不摂生の代表格とも言える場所で、自分の生活がわずかながら改善するアイテムと出会ってしまった。


コンビニでもインスタントみそ汁は買えると解り、帰りがけに買った。それ以降、いろいろなメーカーのみそ汁を試している。しかし、私の味覚も中途半端で、このみそ汁じゃないと体が効果がない! というものは今のところ無い。全部元気になる。そこは何でも良いらしい。もうちょっとみそ汁ソムリエみたいになれたらよかったのだが、別に高くてもやすくても良いようだ。なので、スーパーやコンビニでは、なんとなく気になってインスタントみそ汁を買ってしまう。

「部屋に電子ケトルを置こうと思う」とKさんに話したら、引きつった笑みを浮かべられた。しかし、私がこうして道を踏み外すきっかけを作ったのは、ネカフェに行こうなどと言い出したKさんなので、今後も逐一報告はしていく所存だ。

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