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愛から醒めるように|掌編小説
これからは違う道を歩いていくと、零れ落ちるウソの破片で感じた。枯れ果てた道を共に行くより、互いにちがう方向へ舵を取った方がいいとわかっているのに、僕の中に存在する何かがそれを拒む。その正体は一体なんなのか知っている僕は、ひとりで迎えた朝に君のことを想う。
外を見ると、優しい雨が降っていた。
窓を開けて、ベランダから手を伸ばして雨に触れた。冷たい空気を含んだ雨は、僕の心のスキマにも入ってきそうなほど、やわらかった。それからすぐに雨は上がり、日が差してきて、それはだんだんと強い光へと変化した。あまりのまぶしさにカーテンを閉めて、光をふさいだ僕は、コーヒーを入れるためにキッチンへと向かう。そしてマグカップに入ったコーヒーと一緒に君との記憶を飲み干した。
カメラを手に持ち、外に行くと、ハナミズキが風に揺れていた。もうすぐ梅雨がきて、汗ばむ気候は、空から強い光で影を焦げつかせて冷えた。ファインダーから見る世界は、色が浅く、現実味がなかった。そして、シャッターを切らずにカメラきら顔を離して遠く空を見上げると、透明に透き通っていた。瞼を閉じてただ彼女の姿を思い出す。
風に煽られた長い髪を片手で束ねる仕草を、
コーヒーを飲みながらどこか遠くを見る目を、
太陽にあたる彼女の薄い虹彩を、
小さな寝息を立てる肩を、
左利きの細く美しい手を、
そして、愛から醒めるように瞼を開けると、僕は最後にシャッターを切った。
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