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コーラがはじけた指と瞳|掌編小説



コーラがはじけた 指


紺青の空がちらちらと舞って、私たちの肌を撫でて後ろへ通り過ぎる。
うつくしい指をした彼が、コーラの瓶をサラリと持ち上げて口へと運んだ。私はぼんやりとしたまま、ただ彼の喉仏が上下する動きを眺めていた。機械的に規則正しく動くそれは、私の鼓動と一緒にドクドクと音が鳴っているように聴こえる。

「ねぇ、付き合わない?」

私は彼がコーラを飲み終えたことも気付かずにいたのだろう、その言葉を理解するには少し時間がかかった。そして彼の横顔を見ると、困ったように眉毛を掻いていた。

「なんつって。冗談。」

私は知っている。
彼がいつもそうやって、自分を誤魔化していることを。

私の隣を歩いている時、そっとこちらを見ていることを。

私が好きな音楽を夢中で聴いていることを。

私の機嫌を取るように言葉を囁くことを。

私が他の人と仲良くなると嫉妬していることを。

あえて去り際に「髪型、似合ってる」と褒めることを。

飲み会の時は必ず隣に座ることを。

そして、私の言葉を待っていることを。


彼の薄い虹彩が私を離さない。
炭酸のようなに泡立つ私の心臓が、勝手に展開を待ち望んで騒いでいた。私たちはずっと友達だったけれど、この熱帯夜に「いつも」から、はみ出したくなった私は、コーラの瓶を持っていた彼の綺麗な指に、自分の手を優しく重ねた。




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コーラがはじけた 瞳


視界の片隅で、彼女の炭酸のような泡立つ視線を感じていた。僕はその視線に絆されるように、彼女の背後に張り付いている「本音」をどうやって確認しようかと思案しながら、コーラの瓶を手に取り、一気に飲み干した。ドクドクと喉を通り抜ける炭酸の勢いに彼女の「本音」が溶けて露わになればいいのにと、透明な心で願った。そうしていると、僕の「冗談」で糖衣コーティングしてあった本音が何の前触れもなく、露出した。

「ねぇ、付き合わない?」

暴走した言葉が体温を上昇させながら、全身を駆け巡る。勇気を出して彼女を見ると、キョトンとした表情で僕を見ていた。そして咄嗟に口走る。

「なんつって。冗談。」

それを耳にした彼女は、開いていた手をグッと握った。
僕は知っている。
彼女がいつもそうやって、自分を誤魔化していることを。

僕の隣を歩いている時、歩幅を合わせていることを。

僕の好きな音楽を夢中で聴いていることを。

僕の機嫌が悪くなると口を噤むことを。

僕の機嫌を取るように優しく微笑むことを。

髪を切ったら「似合ってるね。」と髪の毛を触ってくることを。

飲み会の時は必ず隣に座ることを。

そして、僕の言葉を待っていることを。


僕は彼女の炭酸のように泡立つ視線を離さない。
この熱帯夜に、純度の高い透明な空気に重なる二人の視線を離したくはなかった。そして僕の沸騰した心臓が溶け出して、勝手に展開を待ち望んでいる。僕は露出した本音をまた口にしようかと迷っていたら、指に彼女の潤んだ温度が伝わってきた。












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