Eternal Dreamer 乙
睡眠と覚醒の狭間を往来して、ちょうど心地よい微睡へ到達した。意識を集中しすぎると覚醒するし、集中が緩むと入眠してしまうので
これは夢?それとも現?
っていうくらいの曖昧さのバランスをとる行為は綱渡りに似ていると思う。いや、綱渡りしたことないけれど。不安定な綱の上で集中し過ぎず、力み過ぎず、しかし、緩和し過ぎず、みたいな。絶妙なバランスを保って微睡の中を彷徨い歩く。
𓆡𓆜𓇼𓈒𓆡𓆜𓇼𓈒𓆡𓆜𓇼𓈒𓆡𓆜𓇼𓈒𓆡𓆜𓇼𓈒
この場所は名のないところ。重力は存在しているのに浮遊を感じる。すると、遠景から「おーい!おーい!」と、私を呼ぶ声が聞こえるから目を凝らしながらそちらへ向かったら、白装束を着て狐の面を被ったひとが立っていた。
「やっと来た。お祭りの準備で忙しいから手伝って。はいこれ、お面。」
私はそのひとからお面を受け取ると不信感も覚えずにすんなりとお面を装着したら、いつの間にか私も白装束を着ていた。そして、そのひとに言われるがまま、手を洗い神社の広い境内を通り過ぎて大きな社殿へと入ると、たくさんのひとが白装束で狐や狸や河童のお面をつけ、しめ縄を編んだり、お神輿を拭いたり、食事を作ったり、食事を摂ったりしていた。
「じゃあ、料理手伝ってもらえる?」
そのひとは、そうつぶやくと私の返事も聞かずに
「なみさん、この子料理担当にするからお願いね。」
そう言うと、私の肩をポンと叩いて「じゃあ、またね。」と、そのひとはもと来た道を戻っていく。私はその後姿に声をかけようとしたけれど、喉が塞がれて声が出なくて、そうしているうちにそのひとはどこかへ消えてしまった。
「あなた名前は?」
私の背後からそう訊ねる声が聞こえたので振り返ると、猫のお面をつけてたひとが立っていた。私は自分の名前を言うと
「じゃあ、こっちに来て里芋の皮を剥いてね。」
と、たくさんのひとが働いている横をすり抜けて、大鍋に入った大量の里芋の皮を包丁で剥きはじめた。淡々と作業を進めながらも、周囲の様子を窺うと、そうめんを茹でたり、米を研いたり、私のように野菜の下拵えをしたり、たくさんのひとがそれぞれの役割分担で動いていた。誰も無駄口を叩かず、自分の役割をこなしていく姿は、清潔感があった。私も手元の作業に没頭して、そして、やっと里芋の皮をすべて剥き終わると、なみさんがやってきて
「おつかれさま。じゃあこれを洗って、炊いていきましょうか。おねがいね。」
と、言われて、こんなに大量の里芋を炊いたことはないけど大丈夫かな?と思ったけれど、口には出さずに言われるがまま、洗い場へ行き大鍋に水を注いだ。ザーザーと流れる水の音に意識がトびそうになる。その瞬間、体が浮遊すると、上へ上へと浮上していく。足元を見ると大きな社殿は漆喰と朱色が美しくて思わずため息が漏れた。すると、広い境内の方から「おーい!」と手を振るひとがいる。目を凝らすと、私を案内してくれたひとだった。私も手を振っていたら、急に水膜を破るように覚醒した。
「夢?それとも──」
私は顔を触ってみたけれど、お面をしていないし、服もパジャマだし。全身が脱力すると、微睡から夢へ移行したことを知った。私はどこへ行ったのだろうか、とてもとても不思議な夢の余韻は私を夢中にさせる。あの案内人のひとに対しての安心感はなんだったのか、祭りとはどんな祭りだったのか、あのあと里芋はどうなったのか、そんなことをぐるぐると考えていたら、瞼がぴくぴくと痙攣した。そして、愛猫が「にゅあん。」と鳴いて、私の顔に体をなでつけた。顔がふわふわの毛でいっぱいになると、太陽の匂いがした。
なんか、生きてる。
その匂いを嗅いだことで自身の生存確認ができた。
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