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ひとり野生動物の如くただ自由に野山を駆け巡る。


「女って面倒くさいよね?化粧してさ、乳盛ってさ、ミニスカ履いてさ、足丸出しにしてさ、高いハイヒール履いてさ、男に尻尾振って、正直しんどくね?」

その男は、それ爪楊枝?くらい細いタバコを吸いながらそう言った。よくよく男を見ると、エリンギがTシャツを着ているように見えて、なぜそう見えるのかビビビとキた。それは、髪型がストリートファイターのガイルに似ているからそう見えたのだと納得した。

あのー、エリンギに似てるって言われません?

と、質問したくなったけれど、ソニックブーム出されそうなのでやめておいた。

当時の私は、大衆居酒屋の相席になったエリンギの隣になる運命と、時代遅れの男尊女卑思想と、くっさいタバコの煙に舌打ちした。話したくなかったから無視したかったけれど、女の複雑怪奇な構造を簡素にカテゴライズされたことに腹が立ち、正面からぶん殴りたくなった。

「あのー、そんな女の人、いませんよ。そもそも化粧も、乳盛りも、ミニスカも、足丸出しも、高いハイヒールも、自分を鼓舞するためにするんです。その姿を見て、勝手に男が寄ってくるんじゃないですか?知らんけど。」

私は、初対面の人には口下手になるのに、エリンギに対しては、すらすらと言葉が出てきた。それは、私の中にある怒りがそうさせるのだろう。すると、対面の友達も、頷きながら

「そうですよ、私が化粧するのも乳盛るのも、その他諸々、あなた方、男のためにしていませんよ。自分が生きたいように生きているだけですよ。」

と、自由を謳った。生き方is freedom.

エリンギは「は?は?何言ってんの?バカじゃない?」みたいなことを言うから、エリンギを赤土へ還したくなったけれど、やっぱりソニックブーム出されそうなのでやめておいた。

それから私たちは、だし巻きたまごを食べ切り、席を立った。すると、エリンギは

「え?帰んの?」

と、言うから鮮やかに無視し、店をあとにして違う居酒屋で飲み直した。

私は、フェミニストではない。けれど、ときどき出会すこういう類の男には、正気ですか?と言いたくなる。女も自分が着たいもの着て、生きたいように生きれる時代で、ただ「服装」や「髪型」という社会性を自己主張しているだけなのに、古の悪習部分だけを抽出した思想に出会すと真っ向から反論したくなるのだ。

やだー、そんなこと言わないでくださいよー。

と、上部だけの愛嬌で遇らうことすらできない、かわいげのない女なのだ。どうしようもない気分をぶら下げて女同士で「あれはないよね。」と愚痴り合うだけでは解決しないしね。

男尊女卑の観念の中では私は「悪」になる。それは、野生動物の如く、ただ自由に草を食み野山を駆け巡りたいだけなのに、ごく少数の男からすれば、私が野山を駆け巡るだけではなく人の育てた農作物を食い荒らす獣害と見做し、そしてお洒落な名前さえつければ赦される節のある現代で『ジビエ』という名前を頂戴して、その食卓に並んでいるのだろう。

いけ好かない、生意気な女。

私は、お洒落な木のまな板の上に乗せられてサイドに小綺麗な葉っぱを添えられ、その食卓を彩っていることだろう。これは勝手な被害妄想だけれど、そう思ってしまう。『シンプル イズ ベスト』な幸せを感受しながらひとりで生きているだけでは世間が納得しないのかもしれない。結局、いくら頑張って働いて納税したとしても、なんだか肩身の狭い思いをするのだ。そう感じるのは私自身が女として負い目を感じているのかも知れない。そんな負い目を受信するアンテナが私の体内に存在するならば、それをすぐさまぶっ壊そうと思う。私は破壊されたその残骸を横目で見遣り、ひとり野生動物の如くただ自由に野山を駆け巡るのだ。

どうせ最期はひとりで逝くのならば、来るその日まで存分に生きよ。日々迷い弱音や孤独に苛まれ心が折れそうな時にはそれを優しく飼い慣らしたらいい。だから私は私の生きる道を諦めるな。胸を張って生きよ。













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