絵をかくことがすきだとさけぶことが、できるか

わたしのお絵かき歴史は決して、短くなくてわたしの人生の相当な時間が絵をかくことに注ぎこまれている、そのことをうれしいともかなしいとも思わなくてだって、それはあたりまえみたいなことで息をすることと一緒だった。

自我が目覚めるまえ、物心つくまえ、絵ばかりかいているこどもだった。退屈でも退屈でなくても、絵をかいているこどもだったし、おとなだった、いまも変わらない、息をしないといきていけないから。

小学校のとき、しあわせだった、絵をかくことがすきな友だちがたくさんいて、休み時間も放課後も、ずっと絵をかいてた、家でひとりで絵をかくことが大半だったけれど、友だちの家で絵をかくことも多くて、いまでもそのころのノートが実家に残ってる。交換ノートはいちページずつ絵をかいてまわしてたし、交換漫画ノートもいちページずつ漫画をかいてまわしてた、すんごい内容だったと思う。

中学校のとき、絶賛黒歴史時、絵をかくことが黒歴史だと思ってた黒歴史時、自分に嘘をついていた、それをつらいと思えるほどこころが育っていなかった。絵をかいていて、オタク扱いされて仲間はずれにされるのがいやだったから、絵をかくことをやめた、すくなくとも休み時間にはかかないで、ノートのすみっこにらくがきをするとか家ですこしかくとかその程度、ちょうどよく部活と勉強が忙しかった。あたりさわりなく生きることに、生きるために、懸命にあわせた、ひとや環境に、世界に、あわせることができたがゆえにあわせられてしまった。チューニングがうまくなって、うまくなってもどこかさみしかった、まわりに絵をかく子がいたらもっと、楽しいのになと思っていた。

高校のとき、彼女に会った。はじめは互いに絵をかくことを知らなかったはずだけれど、気がついたら一緒に絵をかいていた、同じクラスだったのにほとんど話をしたことがなくて夏、ゴーグルの中に入った水を出すときってこうだよねっいって急速になかよくなったほんとよくわからない、たぶん互いにわかってない。彼女は絵がうまかった、そのころからいまも。一緒に絵をかく時間はなによりも楽しくて、昼前からファミレスで絵をかいて、昼ごはんを食べてそのまま夜ごはんも食べた、今はさすがにできないけど、女子高生だったわたしたちはわたしたちが最強だった。授業中も勉強せずに絵ばかりかいて、授業をきくふりだけがうまくなって、センター試験の点数は悪かったから地方でひとりぐらしをすることになった、彼女との物理的な距離はあいてしまう、それでもわたしたちは変わらないんだろうなと思ったし、実際そんなに変わることもなかった。

大学いち年目は食堂があいてたからそこに入り浸って誰かと絵をかいていた、クロッキー帳に、くだらないことを話しながらかく絵は楽しくて、落書きばかりで埋まっていく紙をめくるのもうれしかった。に年目からはキャンパスが変わったこともあって、誰かと絵をかく機会が格段と減って、でもオタクが世間で認められはじめて、絵をかくことに対する自分への、抵抗が薄まったから絵をかかないひとにも自分の絵をみせられるようになった。

絵をかくことがすきなのにすきと言えなくて、つらいと認識してなかっただけでずっと悲鳴をあげていた、わたしの気持ち、大切にできていなかった、大切にできるのはわたしだけなのに、わたしだけの気持ちを、やっと消化できた気がする。絵をかくことがすきな自分を、わたしはやっと認められた、わたしがなにかしたわけじゃあなくて、世間が移ろっただけ、ほめられはしないけれど、でもずっと変わらずに絵をかくことがすきだった自分を、自分だけがほめてあげたい。

社会人になって、お金を持って、画集を買えるようになった、美術館にもいけるようになった。いままではお金もなくて、地方の田舎にいたから大きい本屋もなければ美術館もなかったから、ほかのひとの絵にふれる機会がぐんと増えてうれしい反面、自分の絵のへたさにかなしくなった、それでも絵をかくことがやめられなかった。すきで、絵をかいていて、それは誰かのためではなくてただ、わたしがかきたいからかいていた。しだいに気にならなくなった、ほかのひとの絵はほかのひとの絵でそれは結果だ、結果として生まれる絵とはまた別でわたしは、絵をかくその時間がすきなんだ、絵をかく自分もすきなんだ。

ねえ、世界でいちばんすきなことは絵をかくことだよ、右手が使えなくなったら、わたしにとってそれは心臓が止まるのと一緒で、ほかのもので代替できるのかわかんないんだ、いけるかな、無理かもな、そのときはひとまず水族館の写真をとりにいこうか、そのあと海に還ろう。

わたしはわたしを許していいよ、そろそろいいんだよ。ついったーはずっとやっていなかったけれど、やりはじめた、絵を投稿して、いいねだとかそういうのが目にみえてしまって、こわい、こわいけれど、もう、いいんだよ。

すきなことを、すきだと叫ぼう。