見出し画像

『来世ではちゃんとします』は、青春をいつまでも捨てられない大人のピュアネス物語

芸能界屈指のモテ男と呼ばれている芸人が、とある番組で「学生時代に彼女が7人いたんですけど、曜日ごとに違う女の子を家にあげるから、母親に“ここはホテルじゃないんだよ!”って怒られて」とモテエピソードを披露してスタジオが沸いていた。当時大学生で恋愛低迷期だった私は「こんな人に愛される女の子ってどんな子なんだろう」と少々嫉妬するとともに、「これをモテとして堂々と話せるのは男の特権だな」と思っていた。美人タレントが同じようなことを言ったら大変なことになる。

『来世ではちゃんとします』(以下、『来世ちゃん』)の主人公・桃ちゃんは絶賛盛り中の女の子である。Aくんという本命がいながらも、B,C,D,Eとセフレが計5人もいる。彼らをローテーションしている桃ちゃんは「5人もいれば、ひとりがダメでも誰かが盛ってるからちょうどいいんだよ」とさらっと言ってしまう。

さっきのモテ芸人がやっていたことと何ら変わりないんだけど、なんせ女子はクリーンでいることが“正”なので。“ちゃんとしてる”女や男からみたら一見クリーンに見えない桃ちゃんは理解されづらいし、チャラ男からは都合よく扱われたりして、とてもあのモテ芸人と同じとは言えない。酸いも甘いも経験中の女子、この世では肩身が狭すぎる。

そういうわけで大抵の女子は、桃ちゃんのような悩みを抱えたことがあったとしても、泥臭い恋愛については知らないふりをしたり、「私はしないけど……」と理解できないそぶりを見せることが多い。ありのままの自分でいよう!という清らかなメッセージを見かけるたびに、なんだか申し訳ない気持ちになるのは私だけじゃないはず。ありのままの女子を受け入れてくれる体制はあるが、大事にしてくれる体制はまだまだなので。私はこれからも隠し続けていく次第。

『来世ちゃん』があれだけ超人気でシーズン3まで放送されてるのに、口コミが極端に少ないのもそういうことなのかもしれない。テーマも、ビジュアルも、女子が人前で「好き!」というには少々過激。だって、私たちはあらゆることを極端に隠し続けてきたんだもの。でもね、このドラマはそうやって一生懸命自分を隠してきた人にこそ響くドラマなんだよ。

ブラック企業「スタジオデルタ」に勤める性依存ぎみな桃ちゃん、恋愛に全く興味がない梅ちゃん、女たらしな松田くん、処女厨な林、ソープ嬢にガチ恋中な檜山をはじめ、奴隷プレイ好きなAくん、約270万円かけて整形手術したみかんちゃん、猟奇描写に興奮するりんごちゃん、女装男子・凪ちゃんなどなど。世間からなかなか理解されてこなかったであろうキャラクターたちが、“個性豊かな……”ではなく“普遍的などこにでもいる人”としてどんどん登場する。

それぞれが好きな人に愛されたい(もしくは愛されたいと思えないのはなぜか)というピュアな悩みを抱えながら、でもそれなりに大人だから、ずる賢くもなったりする。ただそれだけのアラサー物語だ。“ただそれだけ”の超シンプルな話が特別に映ってしまうのは、それだけ“普通から外れた人”という型にはめられてきたからである。

でも本当は、「そういうのはちょっと……」的に受け入れてもらえないことが怖いから隠してきただけで、どこにでもいる当たり前な存在であるはずなんだけどね。

『来世ちゃん』は私たちが隠してきた(でもそれもひっくるめて誰かに受け止めてほしいと思い続けた)あらゆる秘密ごとをおおっぴらにして、肯定していくという超多様性ドラマだ。誰もが普通であり大事にされるべき存在という当たり前の価値観が未だに当たり前になっていないわけですが。そんな世の中をひっくり返そうとするような、そんな気概を感じます。まあ泣けてきますわ。

しかしこの物語はちと不安定。だって、誰かひとりに絞らなければならない恋愛はいつだって残酷なものだから。誰かを選び、誰かが選ばれ、幸せと不幸を行ったり来たりしながら、今日も好きな人を想い続ける……その抜け出せないループは割と地獄である。そんな日々を繰り返すうち、好きな人に愛されたいという思いは複雑に変形していき、時に若干モラルに反することだってしてしまう。セフレを複数作ったり、元カレに頼ったり、好きでもないのに思わせぶりなことをしたり。そしてまた好きな人と両思いになる道は遠ざかる。人を好きになるのはシンプルだが、愛されるまでの道のりは非常に険しい。

そんな彼らの葛藤を見てたら思い当たる節ありすぎるし、これってどれをとっても私たちの物語そのものじゃんか!たとえキャラクターに当てはまるタイプがいなかったとしても、ドン引きしたとしても、いつの間にか、共感!涙!共感!涙!大好き!となること必至でしょう。そして、恋愛に盛り上がる彼らを横目に、アセクシャルな梅ちゃんは夢に向かって大奮闘……!アラサー三大葛藤である仕事・恋愛・夢がさらっと網羅されてるのも凄い。

性依存系女子だって誰かに愛されれば一途になることはできるし、女たらしだって想いを寄せた元カノに振り回されてたし、その元カノだって本当は元彼に甘えたかったし、Aくんだって桃ちゃんからのLINEの既読に安堵するし、整形までして両思いになれなくても好きな人に「綺麗」って言われただけでよかったと思えるし、夢に恋してたまに自分の作品がバズって嬉しくもなればダメ出しされて凹んだりもする。超不毛な青春を終わらせられない大人たち、ただそれだけ。最高だよ。同じく青春を終わらせられずに突っ走っているアラサーの私はドス黒ピュアネスな感情をぐちゃぐちゃにさせながら毎回鑑賞してますわ。

恋に悩む、若く、美しい時間の中にいる、全アラサーたちに届いてほしい……というか、届け!と願いを込めて。こういうドラマがもっと増えたら、世の中もうちょっとマシになる。

あと、オープニングも最高!


『来世ではちゃんとします3』(テレビ東京系)
毎週水曜深夜0時30分〜
第9話は3月1日放送。
過去回はTVerもしくはParaviにて。
Paraviでは先行配信もしてるぞ!




この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

おすすめ名作ドラマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?