枕業界の非常識!?「中材無料サービス」誕生の裏にある想い
お取り組み先やお客様からよく驚かれるのが、中材無料サービスだ。
いつ、どこで買っても、依頼をいただければ、1回に限り、中材を無料でお届けしている。今回のnoteでは、その裏側を掘り下げてお伝えいたしたい。最後までどうぞお付き合いを。
始めたきっかけは?
2008年にこの世に誕生した、まくらのキタムラ「ジムナスト」。販売当初は、高さのサイズこそあったが、縫い閉じがされていて中材の出し入れによる高さ調整はできなかった。
新宿にある百貨店にて、ポップアップでの展開があった際、思うように売り上げが伸びなく、当時の部長からはもどかしいフィードバック。
「お客さん、高さで迷ってたな・・」
ならばと、「ジムナストポケット」という高さ調整商材で対応することに。前後と両サイドに、ウレタン製のパットを入れることで、場所によって高さが調整できるような構造だ。それなりに工夫して開発したことがご理解いただけると思う。苦笑 ※日付は「平成」
ただ、どうしても、あの時の部長の言葉がずっと引っかかっていた。発売から3年後、ジムナストプラスとしてリニューアルをする際、高さが微調整できるよう、中袋を全開ファスナー付きの仕様に決めた。
当然、縫製は複雑になるので、職人と何度も悩みながら試作を繰り返したが、その甲斐あって、納得のいくものが出来上がり、その年(2011年)、初めてのグッドデザイン賞を受賞し、その点も評価いただいた。
こちら、グッドデザイン賞受賞までの道のりを綴った特設サイトをご紹介したい。涙ぐましい努力の成果、よろしければ、あわせてお楽しみを。
「よーし、これで大丈夫!!」
と思ったのも束の間、新たな課題が発生したのだ。
サービスは、何のため?
最後まで悩んだのは、中材を追加するサービスを、有料にするか、有料にするならいくらか。それとも、無料にするか。
依頼を受け配送するために、材料費や人件費、その他の経費は掛かる。まして、「どこで買っても、1度限り」としたのは、メーカーとしての責任を果たしたいというか、矜持だ。だから、卸先のお客様からお金をいただく、つまり、新しいお取引がそこで生まれてしまうことに抵抗を感じた。
商流上の倫理というと、厄介に聞こえるかもしれないが、場合によって、パートナー企業とお客様(コンシューマー)の関係性を飛び越えて介入し、お客様を獲得してしまうことになるかもしれない。一部のパートナーからは、ハッキリNGを出されたこともあったのだ。
なので、これは、正直、かなり迷った。
経営者としての判断は
決断しきれなかった別の要因として、金銭授受の煩雑さをなくしたい気持ちがある。つまり、お客様が仮に中材を求めるときは、高さが低くて寝にくくなっているのだから、きっとすぐにでもほしいはず。だから、こちらとしては、依頼をいただいたら、一日でも早く対応したい。
そこに、お金のやり取りがあると、それだけでどうしても時間を要してしまう。今でこそ、様々なサービス設計があるので、別の方法を検討できたかもしれないが。しかし、それでも結局は、前述の理由に戻るわけで。。
そんな折、ある気心の知れた通販サイトのバイヤーS氏と打ち合わせで、なにげなく相談した時のこと。
「キタさんがさ、『まくらは高さが重要』っていうなら、もうそこは損得勘定なしでいくべきでしょう。」
背中を押された。
この一言で、モヤモヤは晴れ、「無償提供しよう」と決意が固まった。腹が決まったら、もう迷うことはない。
実は、無償提供することによって、もう一つ、大きな利点があることに気づいた。話が長くなるが、もう少しお伝えしたい。
販売員さんに寄り添う
ショップで販売するスタッフも人間だ。枕を販売したお客様から、その後、残念な声はもちろん聞きたくない。高さが合わなかったじゃない、とクレームになっては大変だ。
なので、「もし合わなかったら、メーカーが中材を送ってくれますから」と言ってもらえれば、売りやすくなるのでは?と考えることができた。大切な方へのギフトの場合には、さらに効果はテキメンである。もちろん当社とのやり取りが増えるので、例えば、LowとMiddleで迷われるなら、Middleをお勧めいただき、中材を取り出して低くして調整いただく。
店頭で販売される際、POPなどでは伝えきれないこともある。だから、販売スタッフの押しの一手をこちらからもお手伝いしたい。つまり、一緒に販売するんだ、という想いだ。自信をもって販売してほしかった。
はじめから付属しないナゼ
だったら、始めから付けておけばいいじゃん、というお声は、確かにある。実際、他社の高さ調整ができる枕には、付属されていることが多いのではないだろうか。
ただ、不要な人は、それをどうするの?
前述のように、ジムナストプラスは、予め高さ設定があって、調整ができるのは、微調整という意味合いがある。それが不要な方にとっては、ひょっとしたら処分に困るかもしれない。プラゴミで廃棄するか、ヘタることを想定して保管しておくか。過剰サービス、ややもすればただの押しつけで、お客様にとってはいい迷惑にもなってしまう。ましてや、それに対するコストがかかっているのに、だ。ダレトク?
であれば、すべてアフターサービスにしてしまい、不要な人には行き渡らなくする。それで、いつでも注文できるようにしておけば、廃棄の手間はないし、お客様が長く保管している必要もない。不毛なサービスなど、ない方がいいに決まっている。
思わぬ、タナボタ!
長く書いたが、こういった経緯で、中材無料サービスを始めている。そして、今も毎日のように問い合わせをいただいているが、そのたびにしみじみ実感していることがある。
「いろいろ試していただいたんだ」とか、
「あー、長く使ってくれているんだなぁ」とか
「おぉ、ギフトで送ってくださってる!」などなど。
メーカーにとって、なによりこれが一番うれしい。
そればかりか、中には、一言二言、お書き添えいただく方や送付後にご丁寧にお礼のメッセージをいただくことも。「情けは人のためならず」とはまさにこのこと。巡り巡って、自分たちに還ってきていることに感謝したい。
そんなわけで、まくらのキタムラの中材サービスは、「いつでも、どこで買われても、1回に限り、無料」で続けていく。これからも皆さまの快適な眠りをサポートしていきたい。
もし、2回目以降ご希望の方は、こちらから!
まくらのキタムラ
北村圭介