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私たちはどう生きるか(エコロジー展)

地球温暖化が騒がれ、最近でもSDGsという言葉が広まり、人類の環境問題に対する意識は年々高まっているように感じます。人間の生活を便利にする代償として地球に与えてきたダメージはどれだけでしょうか。そしてそれは人類にどのような形で返ってくるのでしょう。
森美術館開館20周年を記念した本展覧会では、人間と地球環境との関わりの歴史を振り返り、また今後、どのように生きていくべきなのか、「エコロジー」をテーマにあらゆる視点からアートをとおして考えます。


展覧会概要

名称:私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために
開催場所:森美術館(東京・六本木)
開催期間:2023/10/18(水)~ 2024/3/31(日)
展覧会公式サイト:

作品リスト:


感想

森美術館の開催する展覧会は個人的にツボにハマるものが多いのでワクワクしながら会場へ。
ちなみに同時期に開催しているキース・ヘリング展のチケットを持っている方は割引価格でお楽しみいただけます。

第1章:全ては繋がっている

あらゆる生物、非生物、自然現象。地球環境はそれら森羅万象が繋がり、影響を与え合いながら形成されています。その関わりを、アーティストそれぞれの視点で捉えた作品が並ぶのが最初のセクション。


エミリヤ・シュカルヌリーテ《時の矢》 2023

《時の矢》は映像作品で、「人間の文明」と「自然」の関係を描きます。
まず映し出されるのは海に沈んだ古代遺跡。そして海底に建造された近未来的な施設。途中差し込まれた、「機械の上を這う蛇」のアンマッチ感。
ラスト、真っ黒な人魚が一人きりで古代遺跡の上を泳いでいく様子は、なにやら儚さを感じると同時にゾッとしました。

セシリア・ヴィクーニャ《トランジスタ(不安定なもの)》 2014

個人的に好きだったのがこの作品。
作者のヴィクーニャは詩人でもあり、作品を用いて空間に詩を表現しているのだとか。人工物が絶妙なバランスで存在していることに不思議な心地よさがあります。

第2章:土に還る 1950年代から1980年代の日本におけるアートとエコロジー

高度経済成長期の日本では、国の発展と共に環境汚染が進み、多くの問題が生まれます。水俣病、イタイイタイ病、などなど授業で習った公害の歴史を思い出しました。
近年でも原発についての議論が交わされたり、時代が移り変わってもなお、人間は自然との付き合い方の正解を見出せずにいます。

このセクションでは、日本に絞った視点でエコロジーについて考えていきます。

環境問題というと地球規模の大きな課題のように感じますが、自分が住む国をテーマにすると、身近なものであるという認識を持つことができました。

第3章:大いなる加速

文明は「人類の知恵」と「地球が自然に生み出した資源」が組み合わさって発展していったものです。
それらの関係性を表現した作品が並びます。

殿敷 侃《山口―日本海―二位ノ浜 お好み焼き》 1987

写真にあるのは、山口県にある二位ノ浜に落ちていたゴミを集め、それらを浜に掘った穴に投じて油をかけて燃やしてできた作品です。
プラスチックが溶けて固まり、小さなゴミたちは一つの巨大な塊となりました。その重さは約2トンにも及ぶそうです。

制作の様子はビデオに収められ、会場の壁掛けモニターで観ることができます。
おそらく地元の人たちでしょうか、大人から子供まで、この塊が煙をあげクレーンによって引き摺り出されるのを見守っていました。
彼らの目にはそれがどのように映ったのでしょう。

ジュリアン・シャリエール《制御された炎》 2022

《制御された炎》は映像作品です。

真っ暗な画面に、1つの小さな光の玉が上に昇っていく様子が映し出されました。
徐々に光の玉は増えていき、いずれも同じ方向に向かって動きます。自ら動いているというより、一箇所に吸い寄せられているように見えました。
説明書きを見ずに鑑賞し始めたので、最初は何が起きているのか分かりませんでしたが、美しい映像でした。

徐々に、これが花火の映像で、さらに逆再生されているものだと気が付きました。
花火の爆発で辺りが一瞬明るく照らされる時、”視点”が空を飛んで移動していることが分かります。

四方から火の玉が尾を引いて一箇所に集まり、ぶつかった瞬間、一番強い光を放って消滅する。
それがいろんなところで繰り返し起こっていて、”視点”は通り過ぎていくのでした。

保良 雄《fruiting body》 2023

一室に足を踏み入れると「カコンッ……カコンッ……」という金属音が響く暗い空間があります。

写真に写る白い地面は大理石、黒い部分はスラグという物質でできています。
スラグというのは、産業廃棄物等を燃やす際に発生する燃えカスのようなものだそうで、人間が排出した人工的な物質です。
対して大理石は自然が何千万年という時をかけて生み出した自然物。
保良は、これら対極にあるものが複雑に混ざり合う様子をこの作品で表現しているといいます。
また部屋に鳴り響く金属音ですが、実は鳥の鳴き声をデジタル信号化したものだそうです。

自然物と人工物、生物と無生物。それらの存在が混ざり合い、境界が曖昧になる、そうして世界は構成されています。

第4章:未来は私たちの中にある

これまでのセクションで、地球環境の在り方、我々人類がそれに与えてきた影響などについて観てきました。
最後に、「私たち人類と地球の未来はどうなっていくのか、どうすべきなのか」について考えていきます。

ジェフ・ゲイス《薬草のグリッド六本木》 2023

会場である六本木ヒルズ森タワーの周囲1km四方で採取された植物が、押し花となって展示されています。

それぞれに付けられた学名があり、植物学的特徴があり、薬効があります。
駅から会場まで歩いて向かう道中、これらの存在に全く目を向けていなかったことに気付きました。

視界に映る背景の一部、意味を持たない雑草、そう思っていたものたちの個性を再確認させられます。

イアン・チェン《1000(サウザンド)の人生》 2023

大きなモニターに、アパートの一室を歩き回る、「サウザンド」と名付けられた一匹の亀がいます。

サウザンドは、エサや水の確保・気温・危険からの回避といった、生命を維持するための条件を達成するために活動します。
彼の知覚、判断、行動などは、すべてAIによりシミュレーションされたものです。
つまりサウザンドは決められた行動をしているわけではなく、デジタルの存在でありながらそれはもはや一つの生命であるように感じます。

サウザンドはこの展覧会の期間を通して”成長”していきます。
またその人生は、展覧会によって異なるものになるのです。


まとめ

普段、散々耳にしている環境問題ですが、どこか他人事というか真剣に向き合ったことはありませんでした。規模の大きさや、複雑さを前に思考が停止していたのだと思います。
本展覧会で作品と向き合うということは、その先にある問題について考えることにも繋がっています。
「鑑賞後の私たちが、これからどのように地球と関わっていくのか」までを含めて、本展覧会の意義となるのです。
最後のセクションでは、今ある資源を再確認する行為、そして最新のテクノロジーを提示しています。
これらは、今後の私たちの在り方についてのヒントとなるかもしれません。

鑑賞日:2023/12/29(金)15:00〜17:50
個人的評価:★★★☆☆

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