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おしゃべりは、いつもふたりで

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猫のきなこと、うさぎの道明寺。ふたりだけでいる時は、かの子(お世話係)がいる時よりもすこしだけおしゃべりです。寝る前に読める、穏やかで心のざわつかないお話。(に、なる予定)
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2018年3月の記事一覧

おしゃべりは、いつもふたりで(4)

おしゃべりは、いつもふたりで(4)

『二本足サイド(2)』電話の向こうから母の笑い声が聞こえてきた。

「雪、降ってるんだって?」

私のところに遊びにきていた母が、東京は暑すぎるといって札幌の家に帰っていったのが一昨日の夜。空港で見送って帰る途中、なんだか寒いと思ってはいたけれど、まさか3月に雪が降るとは。

「先週、上野に連れていってもらったとき、桜、咲いてたわよね」
「そうだね、早咲きの種類だったらしいけど」
「変なところね、

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おしゃべりは、いつもふたりで(3)

おしゃべりは、いつもふたりで(3)

『二本足サイド(1)』「あら、きなこチャン。お久しぶり、元気ぃ?」

頭のてっぺんから噴出したような高い声で、母はきなこにあいさつをした。

「相変わらずゴージャスなしっぽねぇ。襟巻きにしちゃいたい」

シルバーフォックスの襟巻きを外して壁のハンガーにかけながら、うふふと笑う母。彼女を見るきなこの視線はいつにもまして冷たい。

「で? こっちの黒いうさチャンは……さくらチャンだった?」
「道明寺だ

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おしゃべりは、いつもふたりで(2)

おしゃべりは、いつもふたりで(2)

『ヒトの言葉』テレビの中、数人の男女が早口で持論を熱く語っていた。
きなこはソファで丸くなりながらそれを見つめ、何となくわかったときには一度、全然わからなかったときには二度、まばたきをした。

「言葉、ずいぶんわかるようになったみたいだな」

すこし離れたところから道明寺が声をかけた。シルバーのラックに足を投げ出して、大して興味もなさそうに、しかし少年のように潤んで輝く瞳はしっかりときなこを捉えて

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おしゃべりは、いつもふたりで(1)

おしゃべりは、いつもふたりで(1)

『満月の夜は何かが起こる』電気のついていない部屋の中、雑に開けられたカーテンに身を隠すようにしてきなこは窓の外を見た。

「今日は満月なのね」

都会の空に星は少ない。今日は余計に少ない気がする。金曜だから、皆、夜の街にくりだしているのかもしれない。
しかし月はまわりに誰もいなくなってもおかまいなしで、一寸の欠けもない堂々とした姿で静かにいつもの場所にいた。

「なによ、ちょっとかっこいいじゃない

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