大聖堂の中のアート ウサギとキツネとサルのブロンズレリーフ
学術研究室 北村友里江
2024年は、大聖堂建立60周年です。大聖堂は佼成会の多くの会員さんのご尽力によって、1964年、8年の歳月がかかった末に完成しました。3月4日には久遠本仏のご本尊像が勧請されます。大聖堂建設を主導した開祖さまは、沢山の会員さんが集まってご法を聞くことができる施設が早急に必要だと感じ、大聖堂の建設を計画しました。当初はできるだけ沢山の人が入れる建物をと思われていましたが、海外の宗教施設を視察するにつれて、宗教建築が荘厳であるべきであると考えを改められ、大聖堂は各界から優れた芸術家や職人の方々が集められ、当時の技術の粋を集めた宗教建築となりました。
大聖堂には、高い技術と貴重な材料を用いた装飾が施されています。今回は、大聖堂参拝後に階段を下りていくときに見える、ブロンズレリーフに注目してみたいと思います。
・布施する心の尊さ ― ウサギとキツネとサルのブロンズレリーフ
大聖堂の正面玄関を上りきると、文殊(右)、普賢(中央)、弥勒(左)の三菩薩の大漆絵が飾られています。この大漆絵については、また別の機会に取り上げたいと思います。こちらの大漆絵と向い合せに飾られているのが、ウサギ、サル、キツネのブロンズレリーフです。
さて、このブロンズレリーフには、なぜこの動物たちが描かれているのでしょうか?それは釈尊の前生物語、ジャータカに答えがあります。
●ジャータカ ウサギの説話●
昔むかし、森の中に賢いウサギが住んでいました。ウサギにはキツネとサルとカワウソの友達がいて、四人で仲良く暮らしていました。ある日、ウサギは、明日は布施の修行をする日だと思い出し、他の三人の友達にも一緒に布施をしようと呼び掛けます。「布施の修行をしよう。自分が食べ物を食べる前に、誰かに食べ物を分けてあげよう。」と言いました。
ウサギの提案に乗った三人は、それぞれに食べ物を調達しました。カワウソは人が釣った魚を見つけ、キツネは畑で人が残した肉とチーズを手に入れました。サルは木からマンゴーを取りました。ところが、ウサギは何も食べ物を見つけることができませんでした。みんなに布施をしようと言い出したにもかかわらず、布施できるものがなにもないことに困ったウサギは、「誰か食べ物を乞う人がいたら、この身を焼いて食べてもらおう」と決めました。
次の日になり、布施をする日になりました。天にいる帝釈天が旅人に姿を変え、動物たち四人の所に順番にやってきました。カワウソもキツネもサルも自分たちの食べ物を全て旅人にあげますと申し出ました。旅人は、「また戻ってくる」と言い残し、その場では食べ物をもらわず、最後にウサギのところへやってきました。
旅人は、ウサギに「私に食べ物をください」と言いました。ウサギは、「私にはあげられる食べ物がありません。かわりにこの身を差し上げます。火を起こして下さい。」と言いました。すると、帝釈天が化けた旅人は神通力で燃え上がる炎を出現させました。それを見たウサギは、自分の体に、もしノミやダニがついていたら、その命は取られないようにと念じて体を振り、炎の中に飛び込みました。
ところが、その炎は全く熱くなく、むしろ涼しいくらいで、ウサギの体は燃えることはありません。ウサギは旅人に「あなたの炎は燃え盛っていますが、全く熱くありません。なぜですか」と尋ねます。旅人は、「私は旅人ではなく帝釈天です。あなたの布施の心がいかほどかを試すために天上から降りてきたのです」と答えました。帝釈天はウサギの素晴らしい布施の心を讃嘆し、その善行為が後世の人々に伝わるようにと、山を圧搾した汁で、月にウサギの姿を描きました。
その後、ウサギとカワウソとキツネとサルは、修行をしながら仲良く暮らしました。
いかがでしょうか?大聖堂のレリーフには、こんな深い物語が隠されていたのですね。うさぎとキツネとサルが描かれたこのブロンズレリーフには、このジャータカのウサギの説話が表す、我が身を省みない善行為、布施のすばらしさが描かれています。大聖堂を参拝し、このレリーフを見ると、布施の修行の尊さや、神仏は私達の修行をいつもご照覧くださっているという思いを新たにすることができるのではないでしょうか。また、このレリーフは、大聖堂を参拝した後、帰る時に見える位置にあるのも見逃せないポイントです。大聖堂を参拝し、法華経の教えを聞いた後に、我が身を惜しむことなく菩薩行に励んでほしい、という庭野開祖さまの願いがこのレリーフには込められています。
<参考文献>
・『久遠の光 大聖堂建立五十年 写真集』佼成出版社アーカイブズ事業課編集、佼成出版社、2014年。
・浄土宗ウェブサイトhttps://jodo.or.jp/
「浄土宗新聞 連載 仏教と動物 第6回 兎にまつわるお話」〔online〕https://jodo.or.jp/newspaper/special/2317/ (参照2024-5-29)。
・日本テーラワーダ仏教協会 「法話と解説 ジャータカ物語 兎の話」〔online〕https://j-theravada.com/jataka/jataka001/ (参照2024-5-29)。
・「立正佼成会 本部施設 大聖堂 ブロンズレリーフ」〔online〕https://www.kosei-kai.or.jp/official/hub/cathedral/ (参照2024-5-29)。
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