【日記】性暴力と『快楽に溺れ』ることとインシマティー・コーディネーター
ガラスの四十代の短い日記です。
性を消費する立場から
7月5日頃から話題になった『インシマティー・コーディネーターを入れていない映画』。
恥ずかしながら原作を知らず、映画と原作のあらすじを読んで「自分を守るために触れないでおこう……」となったのですが。
よせばいいのにおすすめタイムラインを見ていて、あるポストに行き当たりました。
『快楽に溺れ』。
このワンフレーズで、結構メンタルがえぐれました。
私は趣味で二次創作を読んだり書いたりしています。
今好きなのは『暗い過去があり荒んでいた男×活発美少女』です。
荒んでいた、と過去形なのは原作で性格に変化が起こっているからですが、初期はとにかく荒みきっていたので、活発美少女ちゃんを無理やり押し倒してことに及ぶ作品が多くありました。
そこで恐怖を抱き、傷つきながらも『快楽に溺れ』ていた活発美少女ちゃんの作品を消費していた自分の心にナイフを押し当てられたような気分になったのです。
お前が軽々しくポルノファンタジーを消費している陰で、実際に性被害を受けて苦しんでいる人たちがたくさんいるのだ、と。
理不尽な性暴力に晒され、脅された恐怖から『快楽に溺れ』たふりをさせられている人も、心の傷から己を守るために「自分の身に起きたことはたいしたことではない」と思いたくて『快楽に溺れ』ようとしている人もいるのだ、と。
性を消費する立場としては、「それがどうした、実際につらい目に遭っている人がいるとしても、俺は被害者のいないポルノファンタジーが見たいんだ」と自らを保つのが正解だと思うのですが……なかなかうまくメンタルを持って行けません。
などと言いつつ、これからも心の奥に罪悪感と愚かさを飼いながらポルノファンタジーを消費していくのだと思います。
よしながふみ『大奥』の性暴力
『快楽に溺れ』というワードで思い出した件がもう一つあります。
今更私などが紹介するまでもない名作、よしながふみ先生の『大奥』。
男女逆転の元凶だった疫病・赤面疱瘡がワクチン・熊痘の普及で駆逐され、早死にしなくなった男性の人権が急速に高まった時代、大名家でも再び男子に家督を譲ることが増えました。
そんな中、12代将軍・家慶(男性)は娘の家定が幼い頃から性的虐待を加え続け、己の元に縛りつけるため嫁がせず跡取りにします。
父親から逃れられずに絶望して、生きることをあきらめていた家定の境遇を知った若き老中・阿部正弘(女性)は、信用できる男たちを集めて性暴力から家定を守る大奥を作りました。
それを知らずに家定を訪れた家慶は、味方を得て強くなった家定と大奥総取締・瀧山(男性)の機転にやり込められて、すごすごと帰らざるを得ませんでした。
いつまでも己に従順だと思っていた家定に反抗された家慶は、
と悔しがります。
情事の直接の描写はありませんが、密室でどんなやり取りがなされていたのかは容易に想像できます。
これが性暴力加害者側が言う『快楽に溺れ』ることなんだなぁ……としみじみ思いました。
23年にNHKでドラマ化された時にこの最悪の父親・家慶を演じた高嶋政伸さんは、家定役の子役さんや自分自身の心身を守ろうとインティマシー・コーディネーターの参加を提案しました(もともとドラマ側でもインシマティー・コーディネーターの監修をお願いしていました)。
今回の件と並べて考えると、本当に皮肉ですね。
最後のひとりごと
現在進行形で現実につらい思いをされている方はたくさんいます。
そんな立場の人たちを的確に描き、エンタテインメントという形に整えて問題提起するフィクションもたくさん見聞きすることができます。
けれど、なるべくなら楽しいことを目に入れていたい……と思ってしまう自分はどうしようもありません。
強くなって世界を変える側に行けばいいのか、軟弱者として世界の端で水滴と埃を摂って飢えをしのぐかを決めないまま、もうしばらく生きたいと思います。