【創作】彼を殺したのはだれ

彼はとてもお金持ちだった。
大きなマンションの、高い階の広い部屋に住み、綺麗なテラスで高いワインを飲むのが好きだった。

仕事は充実していた。彼には責任も権限もあり、誰もが彼を頼りにしていた。

素敵な恋人もいた。背が高くて髪の長い、誰もが振り向くような美しい女性だった。

彼はいつも高いスーツを来ていた。スーツは彼にとって鎧であり、ステータスだった。

彼は人助けが好きだった。恵まれない子供達や災害に遭った国、路頭に迷うホームレスに食事やお金を分け与えた。

誰からみても彼は完璧で、幸福だった。

ある日仕事に行くと、彼の会社はなくなっていた。
「今日でこの会社は倒産します。みなさんはこれから自由です。各々頑張って生きてください」


彼は驚いて、困り果てた。
それでも彼はまだお金持ちだったので、大きなマンションの、高い階の広い部屋に住み続け、スーツを着ながら、ワインを飲み、恋人に愛の言葉をささやき、人助けをし続けた。

時が過ぎるごとに、永遠に使いきれないと思っていたお金が減り始めた。
それでも彼は、高いワインを飲み続けることを止めることはできなかった。

お金はどんどんと減り続けた。
彼は仕事を探し始めたが、なかなか雇ってくれる人はいなかった。
ようやく見つけた小さな売店の仕事は、とても給料が低く、その上仕事は辛かった。

それでも彼は、今の生活を手放すことはできなかった。

ついにお金は底をついた。
彼はマンションを追い出された。

家をなくしたことを、彼は誰にも言うことができなかった。
彼のことを招いてくれそうな友達は何人か心当たりがいたが、それでも誰にも言い出すことはできなかった。

彼は最高の1着以外のスーツを全て売った。そこそこのお金が手に入った。
そのお金で、彼は夜になるとバーを渡り歩いた。家がないから、バーでお酒を飲みながら夜を凌いだ。

そのうちに、仕事をクビになった。彼が酒臭いまま売店の仕事に来るからだった。

恋人は、たった1着のスーツを着続け、みすぼらしくなってゆく彼をみて、姿を消した。

彼は仕方なく、公園で夜を凌ぐようになった。
昼間はウィンドウショッピングをして過ごしていたが、そのうちにそれもやめてしまった。

食うに困って、いつでも腹を空かせていた。
だが、彼は物を拾ったり、誰かからの施しを受けることはできなかった。

ある夜、彼は公園のベンチで寝そべっていると、見知らぬ若者に話しかけられた。
若者は彼にひどいことを言った。彼が言い返すと、若者は彼を小突いた。

彼は何日もなにも食べていなかったので、衰弱していた。
抵抗できるだけの体力がなかった彼は、ふらつき、倒れ、打ち所が悪くて死んでしまった。

さて、彼を殺したのはだれ?

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