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難しいこと

べに


11月の末になり、急に時間の流れが早くなった。紅葉は散り、人に踏まれた落ち葉は色を失っている。師走の足音が近づいている。去年までは乾燥しらずだった手が、急にカサカサし始めた。
そんなこんなで大学4年生の終盤になり、身の回りの話題がガラッと変わるのを感じる。未だに就職や結婚という言葉は私の中で現実味を帯びない。大人になりたいわけもない。やりたいことも、特にない。大学生活でやり残したことを聞かれたとき、長期旅行などと答えたが、別にそんなにしたいわけではない。何に追われることもなく、家で自由に昼寝ができる生活が良いに決まっている。どう考えても大学生の特権はそれだ。
深夜に友人と語り合えることもまた、大学生ならではかもしれない。終電という概念の無い京都の夜は時間の流れが遅く、明日なんて来ないのではないかと錯覚する。そうあってほしいと願った。そんな夜に、とりとめのない話に付き合ってくれる友人と共有する時間は、間違いなく自分にとって大切で、必要だった。



そうやって、誰かに頼らないと、自分の中身を言葉で規定していないと自分を保っていられないほどに、苦しい日々があった。大学での4年間で、何事にも終わりが来ることを、身をもって知った。大切なものは、大切にしているつもりでも手からこぼれていくことを知った。何度も自分を嫌いになって、何度も自分を肯定しようとした。自分を好きでいることは、難しいことだと知った。
どれだけ考えても、生きていること自体の価値が、頭ではわかっても実感できなかった。好きなものを買っても、好きなことをしても、一時的にしか満たされない。満たされれば満たされるほど、どこからともなく大きな不安がやってくる。
でも、自分がSNSの投稿に残しているのは、楽しそうな日々だけだ。4年間、苦しいときに自問自答したことが、全く思い出せない。何かに残そうと紙に書いていたこともあったが、すぐに破いて捨ててしまった。苦しんでいることを、馬鹿馬鹿しいと思ってしまう自分がいた。
大人になったら、解決すると思っていた。苦しい日々は、いつか終わると思っていた。けれど、卒業を目の前にしても、あまり変わらなかった。変わりたいとさえ思っていないのかもしれない。大人という言葉が何を示すのかも全然わからない。幸せになるのが怖いのかもしれない。今の自分を忘れてしまうのではないかと危惧しているのかもしれない。これが言い訳だということもわかっている。
完璧になりたいわけでも、成長したいわけでもない。何が欲しいのか、自分がどうなりたいのかもわからない。ただ、大切なものを大切にしたい。好きな人をずっと好きでいたい。それが、最も難しいことだと、私は知っている。




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