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奇書が読みたいアライさんの『るるぶ架空都市⑧』

29.ブラックロッド (古橋秀之/電撃文庫)

【ケイオス・ヘキサ】
テクノロジーと呪術が融け合うサイバーオカルト積層都市

【CITY GUIDE】
 妖しくもハイテクな最新の大陸趣味を満喫したいなら、積層都市・ケイオスヘキサを訪ねよう。

 祈祷塔から流れる毎秒50メガ祝福単位の念仏、街を行き交う重格闘用力士や少年僧侶(ボーズキッズ)、正午に一面を除霊する聖水散布(スプリンクラー)──目に映る風景すべてが濃密な異国情緒に溢れている。

 新婚旅行なら、聖アーノルド教会の聖光浴で日焼けを楽しみ(マスコットのケルビムくんが大人気!)、C層に構えるソロモン社直営の呪具販売店でお土産を買うのがいいだろう。しかしこの街が多くの旅慣れた旅行者を虜にするのは、最下層都市のスリルだ。

 霊走路から漏れる霊気を啜る自縛霊を避けて進むと、人狼風の尖り耳や3つ目に改造したヒップな若者たちが行き交う大通りが見えてくる。『骨ビル』2階のジェフの店でガンやドラッグを買い込んで、悪名高きサキュバス通りのクラブ<メルクリウス>で肉体改造した娼婦を抱けば、貴方はもうこの街の一員だ。

 だが火遊びはほどほどに。降魔局の忌まわしき魔女──妖術技官や、黒杖捜査官にでも目を付けられたら一巻の終わり。ナウマクサマン弾をお見舞いされて捕縛された後、社会奉仕に対する強迫観念を植え付けられ<菩薩>として生きるか、三重絶対精神拘束を施されたゾンビーにされるのが末路だ。

 悪徳の街で上手に遊ぶコツは、危険な話に深入りしないこと。悪魔を封じた記録符、吸血鬼の生き残り、3つの都市を<奈落落ち>させた大日本帝国将校……妖しい噂にはくれぐれも首を突っ込まないように。


【BOOK GUIDE】
 ──世界よ、これが日本のニューロマンサーだ!

 ギブスン直系の短文ハードボイルド、サイバーパンクと仏教/オカルトが融合する妖しい造語で建築された異形の都市──『ブラックロッド』は、第ニ回電撃文庫大賞受賞作にして、アライさんがいちばん好きなライトノベルなのだ。

 感情なき最強の捜査官・ブラックロッドと補佐官の魔女V9。二重生活を送る童顔の吸血鬼探偵ビリー・龍。二人はそれぞれの経緯から、都市の<奈落落ち>を企む将校、ゼン・ランドーを追う──

 まずは頁を開くごとに襲いかかる、漢字のイマジネーションを限界まで引き出した専門用語(当然細かい説明などないのだ)にノックアウト!
 字の魔力に共振してか、表紙イラストと題字も『牙狼』の雨宮慶太なので見逃さないでほしいのだ。

 まさに「舞台が主役」の異形都市小説だが、ソリッドに駆け抜ける探偵小説仕立てのストーリーは、ビターな結末まで完璧の一言。
 『ニューロマンサー』の衝撃と『ブレードランナー』の映画的疾走感を兼ね添えてわずか200頁強、この読み易さ、文字圧縮率にも打ちのめされるのだ……!

 古橋秀之はコアファンの多い奇才(アライさんも全作大好き!)で、ゲームのノベライズに『鼻行類』を混ぜたり、突然武侠小説を書き出したりどれも最高に面白いのだが、本作はちょっと別格。村上春樹『風の歌を聴け』や中井英夫『虚無への供物』同様、処女作の魔法がかかってる。
 作者にも二度と書けないタイプの傑作だと思うのだ~。


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