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「自在の精神」-あるアートディレクターへの読書感想文-

自分の会社では、これまでチラシやパンフレットを作ってきましたが、デザインはなるべく自分とセンスの合いそうな人の作品から選び、後はレイアウトを編集者にお願いし、全体として、サービスを受けるお客様に親近感を持っていただければいい、というぐらいの認識しかありませんでした。

今回、アートディレクターのお仕事が、デザインの力を使い、ブランドや商品と世の中とを結びつけるコミュニケーションの仕事だということを学び、なるほど、いつまで経っても、販促などの製作物に自分が満足できない理由が分かったような気がしました。

世の中には、金融やIT、経営コンサルタントの方が多数いますが、コンサルティングの「結果責任」ということが不透明で、莫大な費用を使っても成果が伴わないことが多々あります。この点、ご本を読んで、アートディレクターのお仕事は、その表現物が目に見えて分かりやすく、成果も容易に判断できる、優れてフェアーなお仕事だとも感じました。また、お仕事は、コミュニケーション力を駆使しながら、大変、幅広く活躍できる可能性を秘めているとも実感いたしました。

本の中で、自分の作品を見せようとするのではなく、デザインをクライアントとの対話の中から引き出していくという、主客の視点の転換によって、世界が広がったというストーリーはとりわけ印象深いものがありました。

そして、デザインを生み出すことは本質を導き出して形にすること、という部分を読み、これは運慶でしたか、自分は仏像を作るのではなく、木のなかにある仏像を取り出しているのだ、という言葉に通ずるものがあるかと思いました。

さて、『超整理術』の技法については、私なりの解釈では、これは「無になること」や「私心を捨てること」を実践し、そうしてはじめてゾーンやフォーカスの境地に到達する、そして、視点を自由に動かしながらデザインと論理の統合を獲得していく、これらのプロセスを「自在の精神」とも形容すべき方法論かとも思いました。

個人的には「整理」という視点よりも、英語のタイトルの「本質へ至る方法」の方がしっくり来ました。何よりも、醍醐味は、「国立新美術館」のコンペや、ドコモの携帯デザインの製作、ユニクロの柳井氏との丁々発止の中での創造プロセスです。更にいうならば、読者が最も知りたい秘密は、クライントが訴えたい本質を導き出し、それが、どのような回路を経て、デザインへと形象化されるのかという点ではないでしょうか。私としては、もっとクライントとの格闘シーンを読んでみたい誘惑に駆られました。

今後の益々のご活躍を祈念いたします。

*『佐藤可士和の超整理術』(2007年)を読んで。2007年12月に出版社宛てに書いたものを投稿します。現在、トラベルデザインに取り組んでおり、古いファイルから出てきた文章ですが、自分への備忘録として共有させていただきます。

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