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迷子

日が落ちるのが早くなってから、目に見えて心身の不調が多くなってきた。さみしいのかかなしいのか寒いのか、よくわからない。寒いのとさみしいのは似ている。寒いの、大好きなのにいつも体がついていけない。


出勤のとき、真っ白な蛾がドアミラーと運転席の窓の間に留まっていた。このまま車で走り出せばいずれは吹き飛ばされるであろうことはわかっていた。可哀想に思った。それでも虫のことは怖くて、触る勇気が出なくて、そのまま発進してしまった。ゆっくりと速度を上げた。20キロ、40キロ、50キロ。60キロまで上げて5メートルも走っただろうか、それくらいで蛾はあっけなく吹き飛ばされていった。

罪悪感。自分はちっともやさしくないなと思った。動き出す前に勇気を出してちょっと羽をつまんで草むらに放り投げてやればよかったものを。蛾は最後まで必死に車に掴まろうとしていた。頭の中でいくら思っていても、行動に移せないことがよくある。自分の弱さが嫌になる。本当の優しさってなんだろう。いろんな形の優しさがある。優しくなりたい。難しい。


復職して3ヶ月が経った。3ヶ月の間に仕事のための資格を3つも取った。すこし無理に走りすぎてしまった気がする。このまま今の仕事を続けても、この先には私のなりたいものはないんじゃないか、やっぱり向いてないんじゃないか、受付事務と指導の業務を両方やっているけれど、どっちも中途半端になっている気がして、これでいいんだろうかとかいろいろ考えてしまう。

いてほしいと言われたこと、ずっと大事に抱きしめてなんとかやってきているけれど、やっぱりすこし苦しいときもある。どうするのが自分にとって一番いいのか見失いそうだ。いつか本当に自分のなりたいものをこの仕事を続けた先でも、どこか別の場所でも、見つけられたらなあとぼんやり思う。とりあえず今は目の前のことを頑張っていくしかない。

いろんなことがわからなくて、難しくて、なんだか迷子になったみたいだ。正しい道がわからないままぐるぐる彷徨ううちに何かが見つかるのだろうか。